それ往け!僕らの空戦道!   作:まんまみーや

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少年、幼馴染と再会する

「――――昨今の恋愛事情について述べたい」

 

突如、クラスメイトの一人がそんなことを言い出した。

 

「どういう事?」

 

大洗学園、三年B組。今は2限と3限の間の休み時間。次の授業の準備をしながらその言葉の意味を聞き出す。すると目の前の席の少年、多々良康平(たたらこうへい)が一拍置いて告げる。

 

「互いに好き同士だから恋人同士になるのはわかる。だが、―――”セックスしたいらから彼女を作る”と言う意見に疑問を抱いてしまった」

「予想外のヘビィーな話題に戸惑いが隠せないけど。まぁ、俺もそれについては同意見だ。安井の奴が同じことを昨日ボヤいてた」

 

そう、それだ、安井の奴だ。と言いながら康平は開いている片手で拳を作って握る。

 

「いいか翔。―――極論セックスしたいだけなら風俗いきゃあいいんだよ! もしくはデリヘル! こう、直ぐに女とセックスする! って感じの考え方はは間違っている。もっと違うことができるだろう。セックスってのはなぁ! 繁殖行為なんだよ! そう言うのって本当に好きになった相手にしかできないような事じゃねぇか。セックスするだけなら風俗行けばいいけど、恋人としかできない事っていっぱいあるじゃねぇか。なのに”彼女できたらセックス!”ってのは俺的には非常に乱れてるとしか思わないんですよぉ!」

「残念、ここは学園艦。そういったいかがわしいお店はございません」

「ガッデム」

「何が君をそこまで昂らせるのかは大体察した。少し落ち着こうか」

「おう」

 

とても昼間の校内で話す内容ではないと感じつつ、そう言って俺は周囲を見渡す。

 

 

季節は春。

 

 

クラス内には仲良しグループの女子や気の知れる男子で談笑に浸っていたりする。その中でも目立つのは、腕を組む男女の姿だ。カップル、恋人、言葉はどうあれ、そういう関係の人たちが目に入る。

 

「「ガッデム」」

 

二人して同じ言葉を吐き出すと、無言の握手が交わされた。ついでにハイタッチ。

 

大洗学園に入学して6年目。空戦道があると聞いて入学をしたがその空戦道がすでに廃れた物となっていたと知ったのは入学直後のことだった。空戦道がやりたいが為にここに入学したというのにそれが出来ないと知っては、空戦道がある学園艦に転校を考えるのだが。しかし、転校するにも家庭の問題やお金の問題やらでそれは叶わず、なんだかんだでここにとどまっている俺。

 

まぁ、これはこれで楽しい学園生活を送っているのだ。幸いにも友人にも恵まれた。やけっぱちになって起こした部活動も(同好会であるが)それなりに仲間が集まり、楽しい日々を過ごしている。別に空戦道だけが人生ではない。ちょっとした寄り道気分で俺は学園生活を満喫しているのである。ただ、これまでに彼女というものを得たことがない。学生の青春=恋愛などとスイーツ脳と言うわけではないが、俺も今年で18だ。そういうお付き合いをしてみたいと一般男子高校生並みに思うところはある。

 

 

 

つまり、彼女が欲しい。

 

 

 

目の前にいる康平とはそんな切実な願いが一致し仲良くなったところがある。二人揃えば何かと女性に対しての話題で盛り上がってしまうのだ。

 

「あ、まほからメッセだ」

「Fuck you」

 

俺の口から女性の名前が出ると、先ほどまでの意気投合が反転して一触即発の喧嘩腰へとなる。やたら発音がいいのだけがムカつく。

 

メッセージを見れば、『今、電話いいか?』とのこと。

 

俺は中指を立ててくる友人に対して同じハンドサインをお返しして携帯を持って教室を出た。電話帳から馴染みのある『西住まほ』の名前をタップして電話を掛ける。コールは一回。それだけで電話の向こうから懐かしの声が聞こえてくる。

 

『もしもし。西住です』

「あぁ、まほ? 俺だけど」

『翔。突然すまない』

「いいよ。今休み時間だし。時間的にあと少しだけど」

『そうか、なら簡潔に言うとしよう』

 

相変わらず、業務内容的会話である。まほの声を最後に聞いたのはいつ頃だっただろうか。あ、去年の夏休みぐらいか。あの時会った彼女は何というか鉄仮面を被ったような、表情があまり表に出ない少女になっていた。というのも、まほの家―――西住家―――は代々戦車道を志す名家であり、その次期家元としての自覚の現れがそのようにしたのだ。だからなのか、会話は必要最低限に効率良く、と言った感じになり、少しとっつきにくくなっている。

 

『みほは元気か?』

「ん? なんで?」

 

彼女の口から出た名前、それはまほの妹の西住みほを指す。しかし、どうして今そのみほの名前が出てきたのかがわからない。

 

『なんでって……みほは今お前のところの大洗にいるのだろ?』

「は? 初耳なんですけど」

『………どういう事だ?』

「や、こっちが聞きたい」

 

みほが大洗にいる? どういうこっちゃ?

 

『………みほと連絡してないのか?』

「ここ最近はサッパリです。いや、待て。去年まで黒森峰にいただろ? なんで、突然こっちに――――例の件か?」

『そうだ………』

 

会話の途中でみほがどうして大洗にいるかを推測する。そして、俺の考えはどうやら当たっているらしく、まほもそれを察してそれであっていると言われた。

 

去年の全国戦車道大会で西住姉妹が所属する黒森峰学園は10連覇をかけた大会だった。しかし結果は準優勝。優勝を逃した要因は副隊長であるみほが自分の戦車、フラッグ車より濁流にのまれた仲間の戦車を救出しようとして、その隙にフラッグ車がやられてしまったからだ。

 

「…………そこまで追い込まれていたのか?」

『………すまない』

「いや、まほの話も聞いてたからみほのことまで手が回らなかったのも察しがつくよ。まほは何も悪くない。気を病むことなんてないよ」

『……ッ』

「わかった、こっちで気にかけておく」

『助かる。それとだな………』

「ん?」

『ありがとう』

「え? どういたしまして?」

『ふふっ、何故疑問形なんだ。それじゃ、こっちもそろそろ授業があるのでな』

「おう、またね」

 

それから程なくして通話は切れる。はて? 何に対してのお礼だったのだろう? まぁ、それよりも今はみほの方だ。次の休み時間に探してみよう。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「必修選択科目なんだけどさぁ~戦車道取ってねぇ~」

 

3限の授業が終わって俺は二年の教室まで足を運んでいた。もちろん、我が妹分であるみほを探すために。しかし、いるのは分かっているがどの教室にいるのかはわからない。なので、手あたり次第にA組から順に伺おうとしていた時だった。

 

「え? あ、あのこの学校は戦車道が無いって聞いてたんですけど………」

「今年から復活することになった」

「選択授業って自由ですよね………?」

「とにかくよろしくぅ~」

 

少女四人。どの子も俺の見知った顔ばかりだった。ってか、みほ発見。

 

「角谷」

「んお? あれぇ~? てらこーじゃん。どったの? こんなところで」

「こっちのセリフだ。ってか、生徒会が一人相手に脅迫するんじゃない」

 

その集団に声を掛ければ一段と背の低いツインテール。干し芋を食べながらこっちに挨拶してきた。

 

角谷杏(かどたにあんず)こんな成りだがこの大洗学園の生徒会長をしている少女だ。学年は俺と一緒で三年。彼女が生徒会長に就任してから何かと世話になったり世話をしたりでそれなりの交友を築いている。

 

「おい、今我々は大事な話をしている最中だ」

「桃ちゃん少し黙って」

「桃ちゃん言うなぁ!!」

 

桃ちゃんこと河嶋桃(かわしまもも)。こちらも生徒会メンバーの一人で俺と同じクラスである。一見、クールビューティーに見えるがその実、非常に短気かつ狭量。桃ちゃんと呼ばれることを嫌ってかそう呼ぶと激昂する。反応が面白いので桃ちゃん呼びをやめないが。

 

「寺古くんこんにちわ」

「おい、小山。君がいながら後輩いびりに参加してるなよ」

「ち、違うよ! これは、その………」

 

生徒会副会長、小山柚子(こやまゆず)。苗字の割には大きいものをお持ちで。どことは言わない。

言いよどむあたりこれが不本意なのがわかる。彼女がそんなことをするような人ではないのは知っている。大方、なんらかの事情があってこのようなことをしているのだろう。

 

「………お兄、ちゃん」

「「「え?」」」

「よっす、みほ。ちょっとこっち来い」

「「「「「え?」」」」」

 

上級生に絡まれてすっかり萎縮してしまった俺の妹分。俺のことを兄と呼ぶと生徒会の三人が驚き、みほに挨拶をしてから彼女の手を取ってその場を連れ出すと、生徒会メンバーと教室からこちらの様子を伺っていた二人の少女が驚きの声を上げていた。

 

「お兄ちゃん………」

「その呼び方、懐かしいな」

「あっ、ごめん」

「別にいいよ。なんか、昔って感じで」

 

場所は変わって学校の階段の踊り場。

 

あの場からみほを連れ出した俺は、ここでみほの手を引くのをやめて、向かい合って話をする。こうして対面するのはじつに久しぶりだ。携帯で電話やメールは何度かしてたが、こうして顔を見ると安心する。

 

「はぁ~…お兄ちゃん悲しい。転校諸々、完全に蚊帳の外過ぎて悲しい」

 

両手で顔を覆い隠し、あからさまな悲しみを実演する。小さく開いた指の隙間からみほのことを見るとアワアワと取り乱していた。見ててちょっと楽しい。

 

「まぁ、とにかくだ。いろいろ問い詰めるのは後日にしてだ」

「あ、本当に泣いてなかったんだ」

「バーローこんなことでいちいち泣いてられるか。それよりも、さっきのなんだ? なんで上級生にカツアゲなんてされているの? おかっぱ軍団の風紀委員に通報しようか?」

「カツアゲなんてされてないよ!? えっと……先輩たちに戦車道をやるように言われて」

「戦車道? 選択科目にないぞソレ」

「今年から復活するんだって」

「そいつはまたぁ~………」

 

妙だな。

 

「どう言うことだ。角谷」

「およ? ばれてた?」

 

踊り場から下の階で聞き耳を立てていた生徒会メンバーに問い詰める。チラリとその奥からこちらを覗いていた少女二人が目に入ったが、今は無視でいいだろう。

 

「その子の言う通り。今年から戦車道が復活するんだよ」

 

そう言いながら角谷は選択科目の履修届を取り出して言い放った。戦車道だけデカっ。

 

「それでなんでみほが強制的に選択しなくちゃならない?」

「この学校唯一の経験者だからね」

「生徒の自主性を謳ってるお前が権力かざして強要とからしくないぞ」

「まぁ~こっちにもいろいろあるんだよ。あ、そうだ。ねぇこでらー。こでらーからも西住ちゃんに戦車道やるように説得してよ」

「なに?」

「見た限り、前からの知り合いなんでしょ? だったらアタシ等が言うよりこでらーの方が西住ちゃんも言う事聞いてくれそうだし」

 

もはや意味が分からなかった。何をそんなになってまでこいつ等はみほに戦車道を強要する? 学園艦に来てからの付き合いであるが、ここまで露骨な………焦り様見たことない。

 

後ろを見れば不安気にこちらを見るみほ。よほど戦車道をやりたくないようだ。どうしてそうなったのかは大体察している。これ以上追い詰めればみほは壊れてしまうかもしれない。ならば兄貴分として守らねば。

 

「角谷。悪いがこの話は無かったことに―――」

「あ、そうだ。こでらーが西住ちゃんを説得してくれたら空戦道も復活させてあげる」

「みほ、ここで西住流以外の戦車道に触れるのもいいかもしれないぞ。うん、何事も経験だ」

「お兄ちゃん!?!?」

 

あ、しまった。空戦道と聞いてついうっかり。

 

「もー!! サイテー!! とにかく私は戦車道はやりません!!!」

 

完全に怒らせてしまった。みほはプリプリと怒りながら階段を下りて自分の教室に戻って行ってしまう。いきなりの大声に生徒会メンバーは唖然。隠れていた少女二人は怒ったみほを追いかけてその場を去ってしまう。うん、後でちゃんと謝ろう。

 

「ありゃりゃ、完全に否定されちゃったね。どうしたもんか」

「意地になったみほはテコでも動かないぞ。諦めるんだな」

「もしかして、わざと怒らせた?」

「さぁ~なんのことやら」

 

本当に空戦道に釣られたんだけどね。黙っておこう。

 

「まっいいか。こっちだってまだ諦めたわけじゃないし」

「おいおい」

「さっきも言った通り、こっちにもいろいろあるんだよ。だから、これしきの事じゃ諦めないよー」

 

そう言って、角谷達もその場を去ってしまう。その場に残された俺は階段に腰を下ろして一人で盛大にため息を吐き出した。

 

幼馴染の転校。

生徒会の圧力。

復活する戦車道。

 

さて、どう対処していくべきなんだろうか。

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