後、タグを着け足しました。
みほと再会したその日の夕方、つまり放課後。
俺はみほとその友達を連れて学校近くのファミリーレストランへと来ていた。店内に入れば店員に案内され四人掛けの席に着席。みほは俺の隣に、みほの友人の二人はその対面に座る。
「調子に乗りました。ごめんなさい」
「ふんっ」
しかし、みほはこの調子。出来心からみほを生徒会に幼馴染を差し出そうとしてからもう半日が経過しようとするが、未だに機嫌は直らない。自業自得ですねハイ。
「あの……」
「ん?」
そんなみほのご機嫌を取ろうと頭を下げ続けていたが、対面に座る茶髪のゆるふわの女子が恐る恐ると言った感じに声を掛けてきた。
「あぁ、ごめんね。俺は寺古翔。大洗の三年だ」
「武部沙織です。みぽり――みほと同じクラスで友達です」
「五十鈴華です。私もみほさんと同じクラスで友人です」
「これはご丁寧にどうも」
「「いえいえ」」
丁寧な挨拶に思わず頭を下げてしまった。二人も同じように頭を下げてくれる。
「みほよ。お前、友達が出来たんだなぁ」
「お兄ちゃんは私を何だと思ってるの?」
「昔はやんちゃでよくしほおばさんに怒られてたのに、中学上がった頃から落ち着いたと思えば内向的過ぎて、こいつ友達いるのか? とか、クラスで浮いてないか? とか、心配してました」
「………お兄ちゃん」
「あ、いえ、すみません」
ジト目でこちらを見るみほに怯み慌てて顔を逸らす。逸らした先にはメニュー表が目に入り、それを広げてみほの前に差し出す。
「まぁ、あれだ。久々の再開だし奢っちゃる」
「んっ」
ビシッとみほが指さしたのはデザート欄にあるチョコパフェだった。キングサイズの。
こいつ、遠慮がない……。
しかし、ここで渋って更にご機嫌が斜めになっても困る。だから、黙ってそれを了承し、メニューを反転させて武部さんと五十鈴さんの前に広げる。
「二人も何かどうぞ」
「えっと、そんな、悪いです」
「いいよいいよ。一人にだけ奢ってもカッコつかないし」
「じ、じゃあ……このティラミスを」
「私はこちらを」
そう言って武部さんは遠慮がちに選び、五十鈴さんもそれに習ってデザートを選ぶ。ただし、五十鈴さんはみほと同じチョコパフェのキングサイズだった。まじかよ………。
さて、それぞれの注文を店員さんに伝え終えると改めてみほの方を見る。相変わらず、機嫌がよろしくないのか俺のことを見ようとしない。まぁ、そんなのを無視してこっちは色々言いたいことがあるんだがな!
「あの、すみません。勝手に着いてきてしまって」
だが、先に話を切り出したのは武部さんだった。
「みほと古寺先輩って、兄弟なんですか? 苗字が違うけど」
「あぁ、正確には俺たち幼馴染なんだ。実家が近所で何かと一緒に遊んでたよな」
「ソウダネー」
みほよ。なぜ、棒読みなのだ?
「幼馴染! あっ! みぽりんの転校ってまさか先輩を追いかけて!?」
「なっ! ち、違うよー!!」
え? そうなの? ちょっとキュンと来ちゃうじゃない。
「お、お兄ちゃんのことなんて関係ないもん! 私はただ、戦車道の無い学校を選んだだけで、そこにたまたまお兄ちゃんがいただけだよ!」
「人はそれをツンデレと言う」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「ア、ハイ」
そんなはっきりと否定されると少し傷つくな………。おっと、目から汗が。
「でもさぁ~今年から戦車道が復活するんでしょ?」
「うっ……」
「みほさんはおやりにならないんですよね?」
「その、つもりだけど………」
戦車道の話が出てきて、みほの様子が一変した。先ほどまでの不機嫌オーラがみるみる萎んでいき、今度は不安一色へとなる。
少し話は戻るが、今日のホームルームの時間。突如、全校生徒集会が行われた。招集をかけたのはあの生徒会。学園一同はいったい何事かと思い、体育館へと足を運び、着いてみれば選択科目のオリエンテーションが行われた。
あからさまに、そして大々的に説明された戦車道。その履修者には様々な豪華特典が贈られること。女子たちはそれに歓喜した。対して、男子たちは盛大にブーイングをする。戦車道は乙女の嗜み。つまり、女子だけが受けれる選択科目だ。男子はその恩恵を受けられず、不平不満を訴えるが生徒会は聞く耳持たず全校生徒集会は解散となった。
「戦車道、ねぇ」
俺のつぶやきにピクリと反応するみほ。
「なぁ、みほ。お前、本当に戦車道やんねぇの?」
「………」
「まぁ、やるにしろやらないにしろ。それは自由だから俺からとやかく言うつもりはないけど」
「え?」
「いや、なんでそこでビックリした顔するんだよ……」
「だ、だって、お兄ちゃんは私に戦車道やってもらいたいんじゃないの? そうすれば、お兄ちゃんがやりたかった空戦道だって出来るって」
「バーカー。ンなことは今はどうでもいいんだよ。俺よりお前の気持ちの方が大事に決まってるだろ。それに俺もう高3だぞ。受験だ受験。そんな暇ないっての」
いや、まぁ、口惜しいけどね!
あるなら、選びたいけどね!
でも、今日のオリエンテーションには空戦道の一文字も見当たらなかったからしかたないよね!
「でも、問題は生徒会だよね?」
「ですね」
「そもそも、なんであんなに必死になってるのかな?」
「そうですね。必要以上にみほさんを勧誘してましたし」
「いくら経験者だからってあれはドン引き」
どうやら、あれからも戦車道への勧誘はあったようだ。目の前の二人が生徒会のことを話し出すとみほは一人うなだれている。
「先輩は何か知ってます?」
「何も聞いてないね。あいつ等もあんな奴らじゃなかったんだけどなぁ~」
「私、毎年行われる生徒会の催し物は好きでしたのに」
「泥んこプロレス大会なんてやったよねぇ~。最終的には生徒会長と広報の人の一騎打ちになったけど」
「桃ちゃんあの後半ベソかいてなだめるの大変だったんだぜ」
「そう言えばあの広報の人、イベントやる度に涙目になってるよね」
「去年の新入生歓迎ではあんこう踊りを一人だけ泣きながらやってました」
「男の俺が言うのもなんだけど、アレって女子的にはどうなの?」
「ナシです。あんなのやったらお嫁に行けません」
「そうですか? 私はやってみたいのですが」
「「マジ!?」」
「はい」
マジか。あのあんこう踊りを率先してやりたがる子がいるとは。猛者がおる。
「む~」
三人で盛り上がっているとみほがわざとらしく頬を膨らませてこちらを睨んでくる。
みほが転校する以前から大洗にいる俺たちは共通の話題で意気投合するが、話に付いていけないみほは完全に蚊帳の外。それに気づいた武部さんたち女子は「ごめんごめん」とみほに謝っていた。
「まぁ、話を戻すけど。生徒会はこっちでなんとかしてみるよ。だから、みほはあんまり気にするな」
「………え? いいの?」
「いいよ。可愛い妹分が困ってるんだ。それぐらいのことはしてやるさ」
「わぷっ、もーやめてよお兄ちゃん」
「うりうり」
わしゃわしゃとみほの頭を撫でまわす。口では否定的であるが、そこまで嫌がった様子はない。
「こうして見ると本当のご兄妹みたいですね」
「だね」
俺たちの様子を見て、武部さんと五十鈴さんがなんだかほっこりした表情でそんなことをつぶやいていた。だが、みほはそんな言葉を聞いて、恥ずかしがったのか顔を真っ赤にして伏せてしまい、俺の手をそっと払いのけてしまう。
しかし、時すでに遅し。俺、武部さん、五十鈴さんは今更恥ずかしがるみほを見てさらにニヤニヤクスクスと笑うのであった。
「ご注文の品をお持ちしました」
そんなやり取りをしていると注文の品が届いた。女子三人はデザート。
俺はコーヒーを飲みながら、みんなと親交を深めていく。
◇◆◇
翌日である。俺は今生徒会室の扉の前に来ていた。
「最終確認な。お前らまで付き合う事ないんだぞ?」
「今更だぞ。俺はお前ナシのあのチームにいる意味が無いと思ってる」
「多々良先輩に同じく。寺古先輩に恩返しが出来るなら喜んで」
「同じく」
「俺も」
扉の前に集ったのは俺を含めて五人の男子。みんな、俺の作った同好会のメンバーである。
「あんがとな、みんな。でも、亮君の俺への愛が重いので遠慮こうむる」
「ひでぇ! それに愛とかじゃないですよ。僕は純粋に先輩に恩返しがしたいだけなんです。話の持って行き方次第では僕がいた方がいいんじゃないんですか?」
「それもそうなんだけどね………その分、君に嫌な思いさせるよ?」
「今更何を。僕のことは気にしないでください」
「はぁ~…わかった。じゃ、遠慮なくさせてもらうよ」
俺は右手をみんなの前に差し出す。そして、各々が俺の右手の上に手を重ねていった。
「うっし! やるか!」
「「「「うぇ~い」」」」
気合を入れた掛け声に対して団結力のかけらも感じない気の抜けた掛け声。
まぁ、これが俺たちらしいっちゃらしい。
さて、気合を入れ直したところで生徒会室の扉をノックする。中に人がいるのは知っている。だから、返事も待たずに俺らは部屋の中に突入するのであった。
「失礼するよ~」
「なっ、なんだお前ら!?」
俺らの姿を見て慌てたの桃ちゃんだった。角谷と小山も一緒にいたがこちらは目を見開いて驚いてるだけだ。
「エアスタント同好会の面々が何の用?」
エアスタント同好会。それが俺が作った同好会である。まぁ、今はそれはいい。
「西住みほの件で来た」
そう話を切り出すと反応したのは生徒会長の角谷であった。
「ふ~ん……いいよ聞こうか」
「まず、西住みほは諦めてくれ」
そう言うと角谷が眉間に皺を寄せる。他の二人も似たような表情をしていた。
「代わりに俺たちが戦車道を履修する」
ポケットから出したのは今年度の選択科目の履修届だ。
俺がそれを出して机の上に置くと俺に付いて来た男子全員が戦車道に丸をした履修届を角谷に提出する。
「意味がわかんない」
「ふざけているのかお前ら!!」
「寺古君。男の子で戦車道はちょっと……」
そして当然の反応。女子三人は乙女の嗜みと言われている戦車道を男子が受けるなどと言われて理解できるはずがなかった。
しかし、俺はたたみかける。
「何故だ? 西住みほは戦車道経験者というだけで強制的な履修を迫られているんだろ?」
「だから?」
「ここにいる全員が戦車道を経験している」
「え?」
そう、ここにいる男子は全員戦車道を経験したことがあるのだ。
俺はまだみほ達と一緒に遊んでいた時期に。康平は彼の母親に付き合って戦車を動かしたことがある。他の二人も似たようなものだ。言われてしまえば”にわか”戦車道経験者である。
ただ、亮君だけは違う。彼だけは俺たちのようなにわか戦車道経験者とは違う。
「そして彼、”島田亮平”は戦車道二大名家、島田流の長男だ」