「失礼します! 二年A組、西住みほ! 戦車道やります!!」
そう言いながら突然生徒会室に突入してきたのはみほであった。俺はみほの登場とその発言に心底驚かされてしまう。
「み、みほ?」
「…………お兄ちゃん、正座」
あ、あれ? なんでか俺を見るみほの目が冷たい気がする………怒ってらっしゃる?
ハッ!? そして俺はいつの間にか正座の体制を取っていた。何を言っているか(以下略
「お兄ちゃん。私のためにそうやって頭を下げるのは……正直言って嬉しいって思っちゃった。でもね、私の所為でお兄ちゃんや、ましてや私と無関係な人達が犠牲になるのは間違ってると思うの」
「でも……」
「でも、じゃありません。こんな無茶をしても私は素直に喜べないよ」
「うっ……」
「皆さんもすみません。私のために頭まで下げてもらって」
言いたいことを言うだけ言って、みほは俺以外の男子に頭を下げる。
なんか、かっこよく決めたつもりなのにすべて台無しだぁ………。
「はっはっはっ! いいね、西住ちゃん! いい感じに空気変えてくれた!」
だが、そんな雰囲気の中を角谷は笑い飛ばした。
対してみほは激おこ状態。俺から角谷へと体を向けて真っ直ぐ見つめる。
「会長。さっきも言った通りに私も戦車道を履修します。ですので、寺古先輩の条件はすべて却下してください」
「おや、藪蛇かな? う~ん……正直、島田流のサポートは惜しいんだよね。私としては両方とも抱き込めれば万々歳なんだけど」
「なら、私は戦車道を履修しません。それでも強制的に履修させようと言うなら、大洗を退学する所存です」
「みほ!」
「みほさん!」
みほの発言にこの場にいる全員が驚く。一番驚いているのはみほの友達になった武部さんと五十鈴さんだろう。
でも、みほはそんな二人の心配とはよそに笑い掛けた。ただし、それは満面の笑みとは程遠く、悲しみを含んだ笑いだった。
「ごめんね、沙織さん、華さん。でも、決めちゃったから………」
それだけを言うと、今にも泣きそうな武部さんが黙ってみほの手を握る。続いて五十鈴さんももう片方の手を握って、二人してみほと同じ方を向く。
………なんだ、みほの奴、ちゃんと出来るじゃないか。
少し気弱でおっちょこちょいの妹分。それが、ちゃんと自分の覚悟を口にして、俺の心配とは他所に自分でしっかりと足を着けて、自分の道を歩こうとしている。
対して俺はバカなことをしたなぁって思う。みほの言う通り、こんなやり方じゃみほは喜ばない。勝手に俺は頼れる兄貴分なんだって思い込んで、暴走して、周りを巻き込んでしまった。
正座したまま俺の集めた男子諸君を見る。なんだか哀れんだ目で見られた。まことに申し訳ありません。
続いて生徒会メンバーを見る。角谷はみほと話中でこちらに気づいていないが、小山はこちらの視線に気づいて苦笑いをしていた。桃ちゃんはみほの雰囲気に飲まれてオロオロしている。
最後にもう一回みほに視線を移す。そこにいるのは気弱な幼馴染ではなく、しほおばさんやまほの様な”西住の女”がそこにいる。少し違うのは、みほには支えてくれる人がいるって言うぐらい。
その支えが俺ではないのが残念であるが、ここは素直に喜んでおこう。
さて、この体制もきつくなって来たのでとりあえず立ち上がるか。
「お兄ちゃん」
「ア、ハイ」
立ち上がろうとするとみほに声を掛けられて、また正座してしまう。
「てらこー話聞いてた?」
「あ、すまん。ちょっと聞いてなかった」
「えー…まぁ、いいや。とりあえず、私等は西住ちゃんを取ることにしたから。惜しいけど島田流のサポートはいらない」
「マジ?」
「マジ」
二人の話を聞き逃してしまったが、角谷が意外な選択をしてきたので驚いてしまった。
「実は言うと島田流のサポートはそれほど欲しくなかったんだよね」
「なに? いや、だってさっきお前欲しいって言ってたじゃんか」
「あれ嘘。男子を戦車道に入れると色んなところからバッシングが来そうだし。余計な面倒事はこっちとしても願い下げ。だから、てらこーがどれだけ頼もうとこっちはそれを受ける気なかったのよ」
無駄骨ェ………。
「それとなんだけど……あんた等には別の事をお願いしたかったんだぁ~」
「お願い?」
「かーしま」
角谷に呼ばれて桃ちゃんが俺の前に出る。そして、手にしていたファイルから紙を一枚取り出し、俺に手渡して来た。
あれ? これって………。
「先日の必修選択科目のオリエンテーションから男子生徒からのバッシングが酷くてな。『女子だけに好待遇なのはズルい』やら『男子にもなにかないのか』とか色々言われ放題だ。そこで、我々生徒会は男子に対しての待遇改善を行う事にした。喜べ、空戦道の復活だあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
思わず桃ちゃんを抱きしめてしまった。
それを見て、この場にいる女子全員が目を見開いて驚くがそれすら気にならない。
だって、空戦道が出来ると聞いて、喜ばずにはいられないのだから。
「ヘイ、パス」
「桃ちゃんに感謝を込めて胴上げだぁ!!!」
「「「ワーッショイ! ワーッショイ!!」」」
「や、やめろーーーーー!!!」
抱きしめていた桃ちゃんを康平達にパスすると何故か胴上げが始まった。あいつ等も空戦道が出来ると聞いて変なテンションになってしまったようだ。
「角谷、これマジなんだな? 空戦道が復活するんだよな! 今更、嘘ですって言っても遅いからな!! それとこの感謝の気持ちをどうしたらいい? お前と結婚でもすればいいのか?」
「うわーてらこーが壊れた。うん、嘘じゃないよ。だから感謝の気持ちは空戦道を知ってるてらこーを中心にそっちで色々やって貰いたいんだよ。私は空戦道について知らないし」
「よし任せろ。式場はこっちで押さえておく」
「話聞いてねぇー」
うわっ、どうしよう。テンションがメッチャ上がって来た!
「お兄ちゃん」
んん? みほさんどうしたのかな? 携帯の画面をこちらに向けて。
んん? 動画? あ、俺が桃ちゃんに抱き着いた所から再生されている。
んん? 角谷に感謝の気持ちを込めて結婚まで言ったところで写ってるな。
テンション上がってるとは言えバカなこと言ってるな俺!
「お姉ちゃんに送っちゃった」
うわっ、どうしよう。テンションがメッチャ下がって来た!
ゴメンナサイ!!!
◇◆◇
「お兄ちゃんのバカ。本当にバカなんだから……」
「まぁまぁ、みぽりん」
生徒会での一件が終わった後、私たちは解散となりました。みほさんは寺古先輩の奇行に対して怒ったままです。それを宥めようと沙織さんが奮闘していますが効果なしのようです。
「あの、西住さん」
お昼休みも残り少なくなって、お昼をどうしようかと私一人で悩んでいると不意に声を掛けられました。名前を呼ばれた西住さんは不機嫌オーラを引っ込めて、声のした方を見ました。器用ですね。
「島田君?」
声を掛けて来たのは意外にも島田さんと双子の男子生徒です。
「その、さっきは、お見苦しいところを見せました」
意外にも島田さんはみほさんに対して謝罪。綺麗な一礼なのは私やみほさん同様の家柄なのでしょうか。
「えっと、その、頭を上げてください。こっちこそごめんなさい。おに――寺古先輩の無茶に付き合わせちゃって」
「その件だけど……あれは先輩の案じゃないんだ」
「え?」
「僕から言ったことなんだよ。あの案は」
「そ、そうなの?」
またもや意外。戦車道に関して私は無知ですが、名家の生まれで自分の家の名前を出すことは色々な問題が生じることは分かります。
盗み聞きしてしまいましたが、島田さんがそう言った家柄の生まれで、あの寺古先輩がそう言った問題が分からない人ではないと思っていましたけど。
「だから翔先輩はなにも悪くないんだ」
「そっか、ありがとう」
「それだけ言いたかった。じゃ」
「あ、あの! 待って!」
言いたいことだけ言って私たちの横を通り過ぎようとする島田さん。でも、みほさんはそんな彼を引き留めてしまう。
「なに?」
「えっと、島田君はどうしてあんな無茶な提案を私のためにしたの?」
「………正直、僕は西住さんに興味は無い」
「え?」
「いくら西住流の人間って言っても僕は君のこと知らない。だから、本当は君が戦車道やろうかやらないにしろどっちでもよかったんだ」
「…………」
「でも、僕は翔先輩に大きな借りがある。だから、これで借りが返せればと思ってたんだけど…返しそびれたよ」
「借り?」
「うん、大きな借り。それじゃ、もう行くね。戦車道頑張って」
そう言って、島田さんは行ってしまいました。
彼の言っていた先輩への借りと言うのは気になりますが、あまり踏み入ってはいけないことなのでしょう。だから、みほさんもそれ以上のことを追求せず、引き留めずに素直に応援の言葉を受け止めて彼を行かせました。
「いや~にしても戦車道に空戦道。大洗も盛り上がって来ましたねぇ~」
「果たしてあの会長の決断は吉と出るか凶とでるか」
「やっと、って感じてる反面、今更? ってのもあるけどな」
「だけど俺たちはこれを待ち望んでいたんだろ?」
「ちげぇねー!」
とそこで気が付く。島田さんが連れていた双子さんは彼を追うことをせず、私たちの前でお喋りをしていました。
「改めまして! 二年D組、
「同じく二年D組、
突然始まった自己紹介。勢いに乗って私たち三人も自己紹介をしてしまう。
まったく同じ顔のご兄弟ですが、よく見れば些細な違いが目に付きます。
健吾さんの方は、元気が良く終始ニコニコと笑顔。ですが、制服を着崩しているので少しだらしが無いイメージ。
優吾さんの方は、健吾さんと違って硬派と言った感じです。きちっと男子の制服を着こなし、しっかりとしたイメージ。
ご兄弟で双子なのに相反する性格のお二人。失礼ながら面白い方々と思ってしまいました。
「ところで、みほちゃん」
「え? あ、はい!」
「すまない。ケンの奴は少々、いや大分馴れ馴れしくするので許してくれ」
「えっと、男の人に名前で呼ばれたのはお兄――寺古先輩とお父さんぐらいだったから驚いちゃって」
「そうか。差し支えなければ俺も”みほさん”と呼んでいいか?」
あ、私と同じ。
「えっと、どうぞ」
「ありがとう」
「それよりなんだけどぉー!」
優吾さんとみほさんが会話をしていると健吾さんがその間に割って入ってくる。
「みほちゃんすごいね! あのテンションMAXな先輩を止めるって相当だよ」
「………お兄ちゃん、いつもあんな感じなんですか?」
「いつもじゃないけど。でも、ああなったら翔先輩が落ち着くまで誰にも止められないんだ」
「まぁ、俺達も悪乗りしてはしゃいで止める人がいなくなるからな」
「あはは、ははは………」
これにはみほさん、苦笑いしかでません。
「で?で?で? どうやったの?」
「えっと、一連の流れを携帯の動画に収めて、あるところに送るって言っただけですよ」
「あるところってみほちゃんのお姉さん? なに? 怖い人なの?」
「聞こえてたんだ……。そんなことないよ。厳しい人だけど優しいところもあるんだけど………まぁ、いいか」
あ、みほさんがなんか悪い顔してます。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんのことが好きだから」
予想外な爆弾が投下されました。
◇◆◇
『で? これはなんだ?』
「ひと時の気の迷いによるわたくしめの愚行でございます」
『ほう、貴様はひと時の気の迷いでセクハラをするのか?』
「申し訳ありません」
生徒会室の一件から時間が経って放課後。と言うか、日が沈んですでに夜である。
そして俺は、自分の携帯に向かって土下座中でした。
あのテンションが上がり切った愚行をみほの奴が動画に収め、本当にまほの奴に送りやがった。それからと言うもの、まほからの電話はずーっと鳴りっぱなし。この時間まで放置していたら未着信が50件を超えていたのでさすがにこれは不味いと思い、今に至るという訳です。
ちなみに今の通話はテレビ電話にございますので、俺の土下座姿もバッチリまほに見えている。
『みほが家を出てから連絡など無かった』
「そうですね」
『正直、みほから連絡を貰った時にな。嬉しさのあまり飛び跳ねてしまいそうになった』
「あ、ちょっとその姿見たいかも」
『だが、メールを開いたらお前の醜態動画が張り付けられているだけだった。本文など何もなしにだ』
「それは何と言うか………」
『家を出て行った妹からの初めての連絡が! お前の醜態を披露された私の身にもなってくれ!』
「申し訳ありません。としか言えない」
『…………まぁ、いい。それよりもだ』
怒りは収まっていないようだか、まほは話題を変える。
『空戦道……やるそうだな』
「あぁ~…動画にそんな会話が入ってたもんな。うん、大洗でも空戦道が始まることになった」
『そうか。よかったな』
「うん。でも、喜びのあまりに暴走しちゃったけどね」
『……お前と言う奴は。人がせっかく話題を変えたと言うのに』
「あ、やべ」
自分で蒸し返してしまった。失態失態。
「あぁ~それとなんだけどさ………」
『なんだ?』
「空戦道と一緒に戦車道も始まるんだ」
『そうか』
「それでみほの奴がこっちで戦車道することになった」
『………そうか』
「あれ? 怒んないの?」
俺の予想では、まほはみほが戦車道をやることを望んでいない。俺と一緒でみほの気持ちの整理がつくまでは、遠くから見守ろうと言うスタンスだと思っていた。
『事情がどうあれ、決断したのはみほだ。そこに私が異を唱えることはできない』
「でも、しほおばさんとかが許さないんじゃないのか?」
『そこは私の出番だ。お母さまには私から説明しておく』
「お、頼れるお姉さまですね」
『もっと褒めてもいいんだぞ』
画面の向こうでまほが胸を張ってドヤ顔をする。
なんだかんだで、みほが戦車道をまたやってくれることに喜んでいるようだ。
『ところで翔。お前、今どこにいる?』
「え? なんで?」
『いや、いつものお前の部屋とは違った背景が気になっただけだ。と言うか、画面が全体的に暗い』
「今は学園近くの倉庫の外。ちょっとした明日の準備で居残り中」
『そうか、ほどほどにしておけよ。いや、待て。お前、地面の上で土下座していたのか?』
地味に砂利が足に食い込んで痛いのなんの。まぁ、気にしない気にしない。
「………なぁ、まほ。お前のいる所から空見える?」
『急にどうした? まぁ、見えるな』
「こっちは一日いい天気だったこともあって星が良く見える」
『そうだな。こっちでも見えるよ』
土下座の体制をやめて、俺は立てかけていた携帯の画面を空に向ける。
俺の見ている空がまほにも見えるように。
「爺さんがよく言ってた『陸は女の物だ。ならば俺たちは空をいただく』って」
『…………』
「ちょっとした男女差別チックなセリフだし、その意味が正直俺にはまだわかってない」
『うん』
「でもさ、遠回りになったけどようやく爺さんに追いつける。それで、この言葉の意味をちゃんと理解しようと思う」
『そうか』
「理解出来た時はさ、俺の話また聞いてくれるか?」
『分かった。いくらでも聞いてあげる』
「んじゃ、約束な」
『そうだな、約束だ。っと、それとは別に私ともう一つ約束しないか?』
「なに?」
空に掲げていた携帯画面を自分が写るように戻す。
画面を見れば、少し顔を赤らめたまほが写っていた。なんだなんだ?
『戦車カフェに行きたい』
「ん?」
『来月に全国戦車道大会の抽選会が行われる。それで、私も会場に行くために上京する』
「へ~」
『だから、戦車カフェに行きたい』
「えーっと……どういう事?」
『察しろバカ。………つまり、翔と戦車カフェに行きたいんだ』
これはつまり―――
「………デートのお誘い?」
『ッ!? 思っていても口にするんじゃない』
「え? 口に出てた。ごめん」
『ふん、私とお前の仲だ。今更、二人で出かけることも恥ずかしがることじゃない』
「まぁ、そうだね。熊本にいた頃は――――」
俺とまほ――――それとみほの三人でどこかに出かけていたな。
あれ? そうなるとまほと二人きっりで出かけたこと無いじゃないか。
なんだかんだで三人ワンセット状態だったし。
『なんだ? どうした?』
「あ、いや。何でもない」
これは口に出さないようにしよう。向こうも変に意識されてギクシャクされても困るし。
「えっと、戦車カフェね。うん、いいよ」
『そ、そうか! 詳しい日時は追って連絡する! それじゃ、そろそろ切るぞ』
「あいよ。おやすみ~」
『おやすみ』
行こうと言ったらやけに上機嫌になったな。鉄仮面で感情の起伏が少ない彼女にしては珍しい。
それはさておき。まほとデートだ。この二人で出かけることを勝手にそう解釈してしまうと―――俺は一人でガッツポーズを決めていた。
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