それ往け!僕らの空戦道!   作:まんまみーや

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少年、変質者にされる

「………やっべ、寝過ごした」

 

気付けばすでに日は上り切っており、時間を見れば15時過ぎ。

まほとの電話の後、ほぼ徹夜で倉庫内で作業していた俺はそのまま寝落ちをしてしまったらしい。内心で「しまったぁ~」っと思っているが、別に焦ることもない。

 

やることはやった。なら、誰が俺を咎めようか。うん、誰も俺を咎めることはできない。

 

「腹減ったなぁ~……」

 

などと自己解決をするも、朝も昼も食べ損ねては当然腹は減る。購買に行けば菓子パンぐらいはあるだろうか?

ならばと思い、掛けてあった毛布を跳ね除け、倉庫の外に出る。

 

「お~」

 

倉庫の外に出れば、そこは楽園が広がっていた。

 

倉庫の前に鎮座する五輌の戦車。そのそれぞれは長年放置されていたのか汚れと錆だらけ。しかし、目に行くところはそこではない。その戦車達を洗車している女子達に目が行ってしまう。

 

戦車の汚れを流すためホースから大量の水が飛び交う。水撒きしている人がふざけてなのか、その水は戦車だけではなく、戦車の上で洗車していた女子にも掛かってしまう。なので、色んな物が見えてしまうのだ。

 

 

ボディラインに沿ってくっつく体操服。

 

色とりどりの下着。

 

ここが外だという事を忘れて無邪気に笑う女の子たち。

 

そして、一人だけ何故か水着の小山うわっデッカ!

 

 

これを楽園と言わずに何と言う。康平辺りなら泣いて感謝する場面だ。

ありがたや~。ありがたや~。

 

「うわっ、わわわっ!」

 

この光景に一人拝んでいると、戦車の上でバランスを崩す小山が目に付く。

どうやら洗剤で足を滑らしたらしい。そしてあろうことか、戦車と地面にはそれなりの高さがある。しかも小山は水着。地面は砂利。落ちれば結構痛い思いをするのは間違いなし。

 

そんな思考を0.1秒未満で終えると俺は小山に向かって走り出していた。それと同時に小山が完全にバランスを崩し、戦車の上から放り出される。さすがにこのまま走っていては間に合わない。なので、加速の勢いを利用して俺は地面をスライディングして地面と小山の間に割って入った。

 

「ギリギリセーフ」

「へ? 寺古くん?」

 

無事に小山をキャッチする。

俺の上に乗っかった本人は何が何だかわかっていなかったようで、こちらへの認識が追い付いていない。

 

「柚子ちゃん大丈夫か!? って、寺古!?」

「お~てらこーナ~イス」

 

戦車の影から現れた桃ちゃんと角谷。

落ちた小山に怪我が無いか心配して現れたようだが俺の存在にビックリしているようだ。

 

「よいっしょ」

「ひゃ!」

 

とりあえず小山を抱き抱えたまま、俗に言うお姫様抱っこをしながら立ち上がり、そのまま立たせる。ついでに俺が着ていたジャージを羽織らせた。その意味を理解していないのか、どうしてこんなことをするの?と目だけで訴えてくる小山。

 

「えっと、目のやり場に困りますので………」

「ッ!?!?」

 

自分が水着姿だと言う事をすっかり忘れていたのか、忠告すると小山はその場でかがんでしまい動かなくなってしまう。男子と女子の体格差もあって、一回り大きいジャージは余すことなく小山の全身を隠すのであった。

 

水着に男物のジャージ。マニアックにはたまらない格好です。

あと、女の子ってなんであんなに柔らかくていい匂いなんでしょう。

 

「うわっ! 男の人がいる!」

「え? 覗き!?」

「きゃーーーーー!!!」

 

と騒ぎを聞きつけて続々と登場する女生徒達。

「ん?」と思いながら彼女たちの口にする言葉を聞いて、一気に血の気が引いた。

 

小山を助けるためとは言え、色々異性には見せられない格好をしている人の中に突如現れた男。事情を知らなければ、変態扱いされるに違いない。ってか、もうされてる。急いでこの場を退去! と思い逃げ出そうとするが――――

 

「この変態!」

「ぶわっ!?」

 

ホースを持ったツインテールの眼鏡に勢い良く水をぶっ掛けられた。それで一瞬逃げるのが遅れて―――飛来してきたデッキブラシが俺の頭を直撃。でも尖った柄の方ではなくて、ブラシの部分が頭に当たったことだろう。いや、地味にチクチクして痛いけど。いったい誰が、と思いデッキブラシが飛来してきた方を見る。

 

お前か、みほ。

 

俺と知ってか、知らずか。やり投げの要領で投擲し終えた格好をしていた。ブラシの方を先端にしたのは慈悲なのか、汚れがこびり付いて精神的ダメージを与えるのが目的なのか分からない。隣のモジャ娘がなんか尊敬の眼差しで拍手をしているが、そこはどうでもいい。

 

「やっつけろー!」

「てりゃー!」

「御用だ御用だー!」

「根性ー!」

 

水攻めを喰らいながらデッキブラシを武器に攻めてくる女子達。集団リンチの始まりだ。幸いなのは非力な少女たちが繰り出す攻撃はさほど痛くないこと。ボコボコではない。ポコポコぐらい。いや、でも、なんか心にダメージが蓄積される。

 

角谷はそんな俺を見てゲラゲラと爆笑し、桃ちゃんは「これは止めるべきか、でもこいつも悪いし」と本気で悩んでオロオロとしているだけ。

 

みほはみほで冷たい目でこちらを見ていた。って貴様、意外とアダルティな色合いの下着を着けてるな!! ああぁ! やめろ! デッキブラシを棒術みたいにブンブン振り回すな!

 

「みんなストープー!」

 

しかし、ここで待ったを掛けたのは小山だった。羽織らせたジャージは袖を通して上までぴっちり絞められており、腕の長さが足りなくて余った袖がブンブンと回る。やだ、可愛い。

 

「この人は違うの! えっと! 戦車から落ちた私を助けてくれたの!!」

 

天使がおる。いや、女神や。

 

「と、とりあえず。洗車は中止! みんなは一度着替えに戻ってまたここに集合! 事情を説明するから!」

 

小山がそう言うと集団リンチはピタリと止まり、「は~い」と言う声が辺りに響いてみんな校舎へと向かって歩き出した。

 

「……た、助かった」

「寺古君ごめんね。助けてくれたのに」

「いや、俺も悪かったし。でも、まぁ―――」

「でも?」

「すっげー役得でした!」

「ッ!? 寺古くんのえっち……」

 

顔を真っ赤にして伏せてしまう小山。いやー可愛いねぇ~!

 

だが、次の瞬間。またもやどこからともかく飛来してきたデッキブラシが俺の顔面に直撃する。しかも、先程より威力増し増しで気持ちいい程パッカーンと音を立てていた。

 

おのれ、みほ! また貴様か!?

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんのバカ。本当にバカなんだから……」

「まぁまぁ、みぽりん」

 

戦車を洗っている途中で思わぬハプニングが起こり洗車は中断。私達は学園のシャワー室で汚れを落とし、更衣室で制服に着替えて再びグランドに集合していた。そのハプニングと言うもの、戦車を洗車中にお兄ちゃんが現れたからだ。

 

別にギャグじゃないよ。

 

洗車している時の私達はとても異性に見せれる格好をしていなくて、他のみんなもお兄ちゃんのことを変質者扱いをしたのだ。

 

私も初めは庇おうと思ったんだけど、お兄ちゃんは何故か小山先輩をお姫様抱っこしていて鼻の下を伸ばし切っていた。それに対してなんだか無性に腹が立って、私は手にしていたデッキブラシをお兄ちゃんに投げてしまった。

 

「しかし、西住殿は戦車道だけではなく武芸も堪能なんですね」

 

そう言って来たのは今日一緒に戦車を探してくれた秋山優花里(あきやまゆかり)さん。

 

「え? そんなことないよ。私、体育の成績なんて5段階で2か3だし」

「そうなんですか? 先程のデッキブラシ捌きはなかなかのものでしたよ」

「なんか達人って感じだったよね?」

「はい」

 

はうぅ……怒りのままに動いたから自分でも覚えていない。

こう、体が自然に動いたと言うか………。

なんか、ハズカシイ……。

 

「あとあと、西住殿の言ってたお兄さんがまさか寺古先輩だったとは驚きでした」

「え? 秋山さんってお兄ちゃんのことを知ってるの?」

「はい。その道では結構有名人ですよ?」

「その道?」

「えーっとですねぇ~―――」

 

「何やってるんだ。お前らで最後だぞ」

 

なにやら秋山さんがお兄ちゃんのことを知っていたようで、どうして知っているのかを聞こうとしたら河嶋先輩が声を掛けて遮られてしまった。どうやら話している内にグラウンドの倉庫まで戻ってきてしまったらしい。

 

それよりも………。

 

「河嶋先輩、ソレなんですか?」

「見てわからんか? 肉だ」

 

違うそういう事を聞きたいんじゃない。

 

河嶋先輩の手には100均で売ってそうな紙皿があり、その上には焼き立てのおいしそうなお肉が乗っていた。よく見れば、私達以外の女の子の手にも同じような物が行き届いている。

 

「ウマー! このお肉結構高めの奴ですよね!?」

「肉はエネルギーの源! みんな、ジャンジャン食すよ!」

「おかわり!」

「私もー!」

 

紙皿を空にした人がどんどんと雪崩れ込んで行く先がある。

生憎、今私がいる位置では生徒会が乗る戦車38tの影に隠れて見えない。

 

あ、華さんが走り出した!? どうしたの!?

 

「はいはーい! 順番な順番。肉肉野菜ってな感じで食えよ。でないと消化不良で太るぞ~」

「せんぱーい、セクハラ~!」

「大野と言ったな。俺はお前に水ぶっ掛けられた事を忘れないぞ。なので、野菜特盛にしてやる」

「ぎゃー!!」

 

「先輩先輩。お肉のおかわりを」

「えーっと、磯部だったか? …………よし、この肉全部持ってけ」

「あれ? なんで、近藤と佐々木を交互に見て私を見たんですか? あれ? まぁ、いいか。おーい! 肉ゲットしたよー!」

「キャプテン………」

 

「腹が減っては戦が出来ん!」

「どの国でも共通の問題だな。兵糧攻め、アレはだめだ」

「鳥取の渇え殺し&三木の干し殺し…ぜよ」

「やめろー! 食事中にその話はやめろー!」

「そうだな。こうして普通に食せる日頃に感謝しないといけないよな」

「おや? 先輩はこの兵糧攻めを知っている感じか?」

「まあな。そこの六文銭の―――」

「左衛門佐だ」

「左衛門佐の言う通り…左衛門佐!? まぁ、いいや。食事中に上がる話題じゃない。では、日々の食事に感謝を込めて」

「「「「いただきます!」」」」

「ぜよ」

 

どういう訳か、バーベキューが開催されている。

しかも、みんなから変質者扱いを受けていたお兄ちゃんが焼いてみんなに振る舞っていた。え? なにこれ?

 

「寺古先輩。私もいただいてもよろしいですか?」

「お、五十鈴さん。ってことはみほ達も来たのか」

「はい」

「ちょい待ち。今新しいの焼くから」

 

華さんもいつの間にか紙皿を持っていた。

そんな光景に唖然としていると横から会長が私たちに紙皿を手渡してくれる。

 

「西住ちゃん達もジャンジャン食べなよ」

「あの、会長。これは?」

「てらこーなりの謝罪だって。別に私は気にしていないのにね~」

 

いえ、気にしてください。

 

「あと、戦車道発足を祝しての親睦会を兼ねてね。いや~助かったよ~色々手間省けて」

「そう、なんですか」

「実のところ、戦車道復活で頭一杯一杯だったからさぁ。こう言う機会を設けるのは忘れてたんだよね。西住ちゃん達が着替えに行ってからてらこーにそのこと言ったら、怒られちゃった。チームを作るなら、その人一人一人を知らないとって」

 

それを聞いて、なんだかお兄ちゃんらしいなぁって思う。

お兄ちゃんは人と仲良くなることに関しては天才的だ。例え人の輪からはぐれた人がいても無理にでも手を引いて連れ込む。それでいて、みんなに笑顔にしてくれる。

 

何度、私もそれに助けられただろうか。

 

今日、秋山さんに声を掛けてのも、お兄ちゃんを参考してみたんだ。そしたら仲良くなって、戦車の話で盛り上がって。沙織さんと華さんは置いてきぼりにしちゃったけど。それでも、新しい仲間が出来たよ。

 

「う~ん……欲しいな」

「え?」

 

え? 会長今なんと?

 

「てらこーとはそれなりの仲だけど、人のためにああまで動いてくれる人って知らなかったんだよね。よし、てらこーを生徒会に入れちゃおっと」

 

あ、そう言う欲しいってことですか。ビックリしたぁ。

 

「ちなみに、西住ちゃん」

「なんですか?」

 

なんだろう。会長の笑顔がやたらと気になる。

 

「てらこーって彼女いるの?」

「はえ?」

 

 




主人公、いまだに戦闘機のれず………
でも、次回は………
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