バーベキューによる親睦会の翌日。
今日も戦車道の授業を受けるために学校のグランドへと向かう途中のことでした。
「ねぇ、優花里さん」
「なんですか西住殿」
「昨日言ってたお兄ちゃんのことだけど………」
みほさんが優花里さんに声を掛けていました。
なんの話でしょう?
「あぁ~寺古先輩がどうして有名かって話ですか?」
「うん、昨日は盛り上がっちゃって聞きそびれちゃったから」
「そう言えばそうでしたね。楽しい時間でした」
「それで、お兄ちゃんの事なんだけど」
「あ、はい。寺古先輩達は大洗では結構有名人なんです」
はて? そうでしたでしょうか?
「え? でも、私は知らないよ。地元は大洗だけど」
沙織さんも私同様に寺古先輩のことを存じ上げていなかったようです。
初めてお会いしたのもみほさんが生徒会に絡まれていた時でしたから。
「まぁ、有名と言っても一部に、ですが……」
「お兄ちゃん、何かやったの?」
もしや悪名が轟いているのでしょうか?
みほさんも私と同じ考えに至ったのか、心配そうにされております。
「皆さんは空戦道についてどれぐらいの知識があります?」
「えっと、飛行機で戦うってことぐらいしか知らない」
「今度、大洗でもやるとは聞いてますが………」
優花里さんの言葉から空戦道と言う言葉が出てきて私と沙織さんは首をかしげてしまいます。
なにせ、戦車道もこの間知ったばかりの身。精々、女子の嗜みは戦車道。男子の嗜みは空戦道ぐらいの知識しかありません。
「まぁ、自分は戦車専門なのでそこまで詳しいと言うほどではありませんが………その空戦道の派生で生まれた競技がありまして、それが空戦野試合『エリアル・ハイ』って言います」
「「「エリアル・ハイ?」」」
今度はみほさんも交えて三人で首を傾げてしまいました。
「空戦道連盟の非公式試合なんです。戦車では『タンカスロン』と言う競技がありますが、その空戦版と言ったところでしょう。そして、寺古先輩たちの……エアスタント同好会はそれに参加していたのです」
「「「へぇ~」」」
思わず三人揃って感心してしまいます。
「それでそれで、寺古先輩達はその中でも常連参加者で二つ名をいただく程の実力の持ち主なんです」
「二つ名?」
「はい、『大洗のカモメ』です」
「「カモメ?」」
「えっ」
意外と可愛らしい名前ですね。
あら? みほさんだけなんだか驚いた様子でした。
「あ、噂をすれば、ですよ」
話をしながら校舎を出て、グラウンドへ続く道を歩いていると、前の方に二人の男子生徒がいました。
一人は、おなじみの寺古先輩。もう一人は知らない人でしたが先輩のご友人でしょうか?
「んで? 人が働いている間に一人だけサボって女の子たちと仲良くなっていた訳か? あーそうですかー! この野郎め!!」
「だーかーら! ごめんって。でもさ、仕方ないじゃんか。俺もまさかあんなことになるなんて思わなかったんだって」
「ちっ」
「マジの舌打ちはやめてくんない? ところで、空戦の履修者はどんな感じ?」
「ほらよ。昨日の時点で履修者対象の適正試験をしておいたから」
「ととっ、えーっと40人が履修希望で……げっ、パイロット候補が2人しかいないじゃんか」
「適正無い奴に戦闘機乗せられるか。ってか、お前の方針だろう」
「う~ん…まぁ、そうなんだけど。こればかりは仕方ないか……残りは整備班として。その二人には早速訓練に参加してもらおう」
なにやら空戦道の話をされているようです。
「お兄―――」
「おーっす! てらこー!」
みほさんが寺古先輩に声を掛けようとするとどこからともなく生徒会長が出現。
みほさんの言葉を遮って寺古先輩に駆け寄り、あろうことか後ろから体当たりをしました。しかしそれでは終わらず、生徒会長はそのまま寺古さんの背中に抱き着くのです。
「痛ってぇな角谷。ってか、くっつくな。歩きにくい」
「えぇ~いいじゃん。女の子がこうしてくっついてるんだよ? 嬉しくないの?」
「小山か桃ちゃんなら十倍嬉しかった」
「何を基準にしたのかは敢えて聞かないことにしよう。にしても、てらこーの背中大きいね。腕が回んないや」
「俺が太ってるって言うのか!?」
「いやいや、触ってみると意外と引き締まったお腹が………うわっ、スゴッ」
「当たり前だ。毎日筋トレは欠かしてないからな」
「……………」
「あの、角谷さん? 無言でペタペタ触るのはやめてくれない?」
「あっ、ごめん」
なんでしょう? いつもの会長のおふざけなのでしょうが、途中から妙な感じになってましたね。何故か会長の方が顔を真っ赤にされております。あっ、でも今度は寺古先輩の腕に抱き着きました。
付き合っていない男女がああも触れ合うのはちょっといただけないと思うのですが………。それに、そんな光景を見ながら沙織さんは顔を真っ赤にしており、優花里さんも両手で顔を隠してますが、指の隙間からしっかり見てますね。
あ、寺古先輩の隣にいる男性が血の涙を流している。気持ち悪い。
「うー………やっぱり、会長本気なのかな?」
そして、みほさんもあの二人の様子を見ていて何か小声でつぶやいて、フグのように頬を膨らませていました。ちょっと、横から突っついてみたくなります。
「会長、お疲れ様です。って、寺古! なんで会長とくっ付いているんだ!!」
「いや、くっ付いているのは角谷の方だし」
「えーい! 離れろぉ!!」
「ああん、かーしま」
「と言うかお前等二人は何しにここに来た!?」
「ちょっと、倉庫に用事あったんだよ。なぁ、康平」
「…………」
「あれ? 康平? なんでそんなに睨むの? 怖いんだけど………」
「お前に呪いあれ」
「え? 呪詛喰らった? なんで?」
戦車が置いてある倉庫前に来れば、河嶋先輩が二人を引き離します。
そう言えばどうしてお二人がここまで来たのか分かりませんでしたが、倉庫に用事があったのですね。昨日も寺古先輩が何故あの場にいたのかも納得です。
「まぁいいっか。んじゃ、みんな揃ってる? 今日から戦車道の特別講師の人が来るからねぇ。失礼ないように。で? 小山、先生は?」
「まだ来てません」
「あれ? マジで?」
「そろそろ来るはずなんだけど……」
未だに現れない戦車道の特別講師に周囲がざわめく。沙織さんは「焦らしテクニック? かなりのやり手!?」などと言ってソワソワしています。じらしてくにっく、とはなんでしょう?
そんなことを考えているとなにやらキーンっと大きな音が近づいて来ました。あれは輸送機でしょうか? あ、後部ハッチが開いてそこから戦車が降りてきました。ガリガリと火花を散らしながら戦車は滑り、駐車場に停まっている高級車にぶつかってしまいました。
「学園長の車がぁ!?」
「「ぎゃははははっ!!!」」
どうやらあの車は学園長の車だったようです。小山先輩の小さな悲鳴が上がり、そんな光景を一同見て唖然。ただ、寺古先輩とそのご友人はゲラゲラと下品に笑ってました。
とどめと言わんばかりに学園長の車を踏み潰してギャリギャリと旋回してくる戦車。なおも寺古先輩達は大笑い。
「こんにちは~」
ですが、戦車の中から特別講師らしき人が挨拶すると同時に寺古先輩達の笑いがピタリと止まり、その場から逃げすようにダッシュしました。これには生徒会もその場にいた人達も驚き、登場した特別講師よりそっちの方を見てしまいました。私もですが。
「あら?」
挨拶の途中で特別講師の人が逃げ出した先輩達を見て、笑顔で右手をあげて――――
「確保」
そう言うと先ほどの輸送機が戻って来て、そこから迷彩柄の人達が数人パラシュートで降りてきます。何が何だか分かりませんが、降りてきた人達は先輩達を取り囲み、銃を突き付けて跪くように言っていました。
これには成す術も無く、先輩達は確保され――――あ、抵抗しています。二人共銃を奪って抵抗をしています! さながら、その抵抗はアクション映画バリでとても一介の高校生の動きではありません。そんな逃走劇を一年の子達がキラキラした目で見ています。
タァン! タァン!
は、発砲!? しかも近くで!?
音のした方を見ると特別講師の人が戦車の上に寝そべって、狙撃銃を構えていました。まさか、と思い先輩達の方を見ると地面にぐったりと倒れています。どうやら、狙撃されてしまったようです。
「特別講師の戦車教導隊の蝶野亜美です! 戦車道は初めての人もよろしくね!」
そして、何事も無く自己紹介をする蝶野教官。私達は言葉を失いただ唖然とするだけでした。
「きょ、教官」
「何ですか?」
「あの人達は……」
「あぁ! 私の教え子達です!」
いえ、そっちじゃないです。
沈黙に耐えかねた私の質問に見当違いの答えが返って来て戸惑ってしまう。
「ん? もしかしてあっちの方かな? 大丈夫、ゴム弾だから死んでないわよ!」
なら安心―――って言う訳ないじゃないですか!
なんか、気を失ったまま教え子さんに引きずられてこちらに戻って来た先輩達。
そしてそのまま蝶野教官の前に投げ捨てられました。
扱いが酷い。ですが、かろうじて息をしていたので安心。
「あなた達、帰ったら特別メニューね」
そう言われた教え子さん達の目が死んだ魚の目のようになりました。そして、先輩達を睨むようにしてその場を去ります。
本当に一体なんなんでしょう?
◇◆◇
「ぐぬっ……ひどい目にあった」
「あら? もう起きたの?」
いきなりの襲撃に必死のの抵抗を見せるもどこからともなく狙撃されたことで意識を刈り取られてしまった。
気付けば俺は倉庫近くの管制塔の頂上にいた。そして、もっとも会いたくない人が傍にいる。
「………お久しぶりです。蝶野教官」
「ええ、久しぶりね。寺古くん」
蝶野亜美教官。現陸上自衛隊富士学校富士教導団戦車教導隊所属されているその人である。
何故、この人と俺が面識があるかと言えばそれは西住家のおかげだ。この人は西住師範の教え子で小さい頃からその存在を知っていた。
しかし、当時はそれ程親しくはなく、本格的に話すようになったのは中学時代に俺が学校の長期休暇を利用して自衛隊富士学校に行った時からだ。
空戦道をやるにあたってレシプロ機の運用免許と言うものが必要である。戦闘機は車以上に難しい乗り物であり、その知識や安全をきちんとした講習や実技試験を受講し、晴れて免許を取得する事が出来るのだ。
空戦道をやっている学校は長期間、と言っても3か月ほどの訓練でその場で習得できるが、生憎大洗にはそう言ったカリキュラムがない。なので、学外での短期講習と言うものがあってそれに参加すれば習得することも出来る。ただし、それなりにハードであるが。
その時も俺と康平の二人で受講していたのだが、そこで蝶野教官に出会ってしまう。元々俺のことを知っていた蝶野教官は俺を見つけるなり、関係ないはずなのに短期講習の体力作りカリキュラムで教導を名乗り出るのであった。
そこから地獄が始まる。
体力作りとは名ばかりの訓練。のちに知ったがレンジャー部隊が行うような訓練が俺達を襲う。これ、絶対違う、と思っても蝶野教官のしごきは止まらず、真面目に受ければ誰でも受かる短期講習で受講者の半分以上が脱落していった。これも後から知ったが、俺達が受講した第81期生は厳しい訓練を生き抜いた伝説へと語り継がれているらしい。
それからと言うもの、俺も康平も蝶野教官には苦手意識を持ってしまい、今回も顔を見るなり一目散に逃げてしまった。それが気に食わなかったのか、まさかの空襲部隊に包囲され、狙撃で撃沈だ。
「ってか、今何やってるんですか?」
「模擬戦よ」
「え? まだ戦車動かしたことない子とかいるのに?」
「そんなのは動かしている内に覚えるわ!」
なんでこの人はそれで大丈夫だと思うのだろう?
「おっ、Ⅳ号に乗ってるのがみほ達ですか? 皆から追われてるな」
「………相変わらずの目の良さね。ここから演習場までかなり距離あるのに」
「戦闘機パイロットは目が命ですからね」
「そう言えば空戦道やるんですってね」
「はい」
「そう、残念だわ。あなた達は私の本気のしごきに耐えた数少ない教え子なんだから」
「またその話ですか? 何度も言いますけど、自衛隊に入る気は無いですよ。今のところ」
「なら将来に期待しているね」
可愛くウィンクしてもダメですぅ~。
あんな地獄が毎日あると知ったら誰だってやりたくなくなる。
「ねぇ? あなたから見て戦車道ってどう思う?」
「いきなりなんですか?」
「いいから答えなさい」
さっきと打って変わって真面目な顔になる蝶野教官。
「ある種の完成された競技だと思います」
人が殺し合う戦争と違って、戦車道は安全面がすごいと思う。特殊カーボンによる装甲、弾頭の改良。一見して戦争の時よりも変わっていないように見えるが、それらの発明によって兵器がスポーツに成り代わってしまうのだから。
「だからなのか、羨ましいっす。空戦はまだ未完成な部分が多いから」
当然、空戦道に使われる戦闘機にも戦車同様の安全面が考慮されている。戦闘機のボディには戦車と同じ特殊カーボンが採用。弾丸も実弾より貫通力の弱い物を使っている。けど、地上の戦車と違って俺達のステージは空。そこで万が一なことがあれば、命を落としかねないのだ。
空中でのエンジントラブル。
機体の破損。
離陸、着陸の失敗。
どんな些細なことでも、起これば人が死ぬことだってある競技。だから、空戦道は戦車道に比べてやる人が少ない。万が一ってことがあると思うと俺だって怖い。そんな恐怖と闘いながらそれでも俺達は空を飛ぶ。だって――――
「でも、そこにしかない道があるんでしょ?」
ガッデム。蝶野教官に言われた。この人ホント礼節に対する姿勢やら指導に関する熱意は天才的だわぁ~。実際の指導は適当だけど。だからなのか、苦手意識を持っても嫌いになれないんだよなぁ~。
うん、まぁ、この人に言われた通りなんですけども他と違って空にしかない道がある。俺達はそれを求めて飛んでいるんだ。
「おっ、決着かな?」
「そうみたいね」
吊り橋で立ち往生していたみほ達のⅣ号であったが、何とか持ち直して集結していた敵戦車を撃破して行く。残ったM3もその場を脱出しようとするが、履帯が溝にはまってそのまま切れてしまった。
「じゃ、俺等はこれで失礼します」
「あら? 出迎えてあげないの?」
「元々倉庫に用事があったんです。ほら、康平起きろ」
「う~ん………」
「ダメだこりゃ。てい」
「ぐぼあぁ!?!? 翔! テメェ何しやがる!?」
「お、起きた」
ペシペシと頬を叩いてみるが起きそうにない。なので、思いっきり腹を殴ったら康平が目覚めた。
「あーそれと蝶野教官」
「何かしら?」
「これからあいつ等のことよろしくお願いします」
俺は蝶野教官に一礼して頭を下げる。適当に教えつつも要点はしっかりと伝えられる人だ。それが彼女たちにとってマイナスになることは無い。
「それじゃ、これで本当に失礼します」
「し、失礼します!」
康平はビシッと敬礼までしている。そして、俺達はようやく本来の目的を果たしに行くのだった。
◇◆◇
空がオレンジ色に染まる時間帯。私は自分が乗るⅣ号から身を乗り出してそんな空を見上げていた。
「やりましたね! 西住殿!」
「私達が一番だよ!」
模擬戦の勝利の興奮がいまだに収まらないのか、優花里さんと沙織さんが同じようにはしゃいでした。
「皆のおかげだよ。私はとくになにも………」
「何言ってるの。みほが正確に指示出してくれたから勝てたんじゃない」
「そうですよ。みほさんがいなかったらどうなっていたことやら」
「もっと自信を持ってくださいよ!」
「西住さんはよくやったと思う」
優花里さん、沙織さんに加えて華さんと今日の模擬戦の途中で拾った麻子さんが私をほめてくれた。正直、嬉しいと思っている。
私は戦車道から一度身を引いてしまったから、乗るまでは色々な考えが浮かんで頭の中がゴチャゴチャだった。けど、実際に戦車に乗ると落ち着き、自分が何をするべきかを考え、ちゃんとすることができた。
やっぱり、私は戦車が好きなんだ。
密閉された空間で、火薬と鉄の匂いが混じる車内。今回は装填手だったけど、不思議と落ち着けた。まだまだ気持ちの整理が付かないけど、この皆となら大丈夫な気もしてきた。
「おや? この音は……」
「優花里さん? どうしたの?」
「えっと、ちょっと聞き覚えのある音が聞こえたので」
皆で喋りながら戦車で帰路に着いていると優花里さんが何かに反応した。何かが聞こえると言ったので皆して耳を澄ませる。
ブーーーン。
聞こえた。何かのエンジン音の甲高い音がこっちに近づいてくる。
そして音は次第に大きくなり、その姿を現した。
「きゃ!?」
ほんの一瞬。私たちの頭上を通り過ぎる影。
過ぎ去った後に突風が巻き起こり、皆が目をつぶってしまう。
けど、私は見た。
空の夕焼け色とは違ってダークブルー色の戦闘機。
それが背面飛行して、まるでこっちを見るようにして飛んでいた。
そして、その機体の胴体には見知ったカモメのパーソナルマークが目に着いた。
「あー! 西住殿! アレですアレ!」
「うん、知ってるよ」
小さい頃に何度も見せられた戦闘機とマーク。
だって、あのマークはお兄ちゃんのお爺さんが着けていたマークなんだもん。
そして、あの戦闘機はお爺さんが空戦道をやっていた時に乗っていた機体。
局地戦闘機『紫電改』。
それが夕焼け空を飛んでいた。
お兄ちゃんは空戦道が出来なくても、空を飛び続けていたんだ。
「すごっ! わっ! なんかくるくる回ってる!? え? 飛行機ってあんな風に飛べるの!?」
「あれが戦闘機ですか。まるで、踊っているようですね」
「風と浮力によってああも動けるのか」
「おぉ! すごい! すごいですぅ!!」
なおも私達の頭上を飛ぶ紫電改。
その飛び方はアクロバティックで、それを見た皆が興奮している。
いつか見た、お爺さんの飛び方と一緒だ。
下で見ている人に何かを伝えるかのような、舞い。
それを見るだけで、不思議と元気にさせてくれる飛び方。
なんとなくだけど、今回のは私達のことを祝ってくれてるのかな?
そうだったら、いいな。………よし!
「お兄ちゃーーーーーん!!!」
「西住殿!?」
「みぽりん!?」
Ⅳ号の上に立って、空飛ぶ紫電に向かって手を振る。みんなが私の行動と大声に驚いたけど、気にしない。
「私! 頑張るからー!! もう一回、ちゃんと戦車道やるからー!!」
この声が向こうに届くはずない。
だから、今のうちに言いたいこと全部言っちゃう。
面と向かって言うにはまだ恥ずかしいから。
「ありがとー!!!」
内から溢れる感謝の気持ち。そのすべてを空に向けて叫んだ。
するとお兄ちゃんの紫電改はどこか遠くへと飛んで行ってしまった。
私はそれを見送ると、再び戦車の中へ戻る。
「えーっと、急にごめんね。大声出しちゃったりして」
「ねぇ、みぽりん?」
「何? 沙織さん」
車内に戻ると車長椅子から沙織さんが不思議そうにこちらを見てくる。
「あぁ~…やっぱいい。何でもないです」
「え? 気になる!」
「おーい、それよりそろそろ戻るぞ」
「あ、はい」
何かを言い掛けた沙織さんだけど、麻子さんがエンジンを始動して車内に音が響く。
一体何を言いたかったんだろう。後で聞いてみようかな。
「みほって絶対寺古先輩の事好きなんだと思う………」
サブタイトルで言うほど語ってない!?
はい、という訳で主人公の愛機は『紫電改』となります。
自分の中では紫電改がカッコいい!って思っていたのでこれにいたしました。
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