美竹さんはこんなに可愛いんだよ? 作:┌┤´д`├┐
ご
ん
4月30日。
あの突然の出会いから、俺は美竹とちょくちょく話をするようになっていた。昨日は何を食べただとか、いつもの五人で何をしただとか割とどうでもいいような話ばかりだけど、偶にそこそこ大事そうな話とかを持ち込んでくる。
そんな今でも美竹は偶に授業をサボることもあるが、大体俺も強制連行させられるようになった。というか、連れていかれなかったことなんて無かったかも……知れないなぁ。先生にはいい顔をしておきたいという俺の意志を知ってか知らずか、行くって時には唐突にそう伝えてきて否応なしに連れていかれた。
まぁ、退屈な授業だし別にいっかなって、俺も大して抵抗する事も無かったが。
んで、どこへ行くのかと言えば、当然のように出入り禁止のはずの屋上である。なんでも先生の方々にも知られていない、秘密の出入口があるのだと。実際、知られる危険性も薄いと思うし。
美竹が部活には所属していない事もその時に知った。理由を聞いてみれば、「他の人と付き合っていくのって、正直疲れる」……らしい。あの五人はその括りじゃないってのは何となく分かるけどさ、じゃあ俺はどうなるんだよ……。
授業は既に終わって放課後になっている。
屋上から見えるグラウンドには、何十人もの人間がボールを追っ掛けていたり、何度も失敗しているのにバカみたいに棒高跳びをし続ける奴がいたりと、色んなやつが熱心に頑張っているみたいだ。
「あんたは他の人とは、また別」
「……はぁ、そうかい」
「ほら、そんな腑抜けた顔してないで帰るよ」
「へいへい、言われずとも帰るっての」
いつもの他の4人は用事だったりがあって先に帰っているか、部活に精を出しているみたいで、今日は美竹しかいなかったらしい。一人で帰るのも嫌だったらしく、今日は俺にお鉢が回ってきたってわけ。
「じゃあしっかりとエスコートさせていただきますよ、っと」
「は?何それ、キモいよ?」
「面と向かって言うな……、場を和ませようとしただけだから」
「ふん……、まぁいいけど」
教室で話す時と同じようにツンケンとした態度を崩すこと無く、美竹は屋上の秘密の出入口から外へと出て行った。俺もそれに倣ってあとに続いて行く。
出入り口と言っても屋上の鉄扉のちょっと上の方に、窓が付いているのだ。そこの鍵が閉まっていないから――恐らく先生共は、その窓が閉まっていると思っているのだ――自由に屋上へと行き来が出来るのだ。
だが、そうなると一人の力で上の窓から屋上に侵入するのは、相当苦労するはず。
だから美竹はその窓の真下にそれぞれ、これを踏み台にしてくださいと言わんばかりに置いてあった――所々にヒビが入っていたり、脚が錆び付いしまったりして、学校での常用に耐えられなくなった――机を使って、窓を通り抜けているのだ。
アホな美竹にしては、なかなか頭を使ってんじゃん、少しだけ見直したぞ。その手法を俺も見倣うべく机に手を掛けたその時。
「ちょっ、あんたなにやって――!」
ゲシっ、と。そんな音に続いて、頭部に感じる強い痛み。脳が震えているような感じが……!
「おぉわ!」
美竹がまだ登りかけだったみたいで後ろ足が俺の頭部にクリーンヒットして、それによって生じた衝撃を受け止める事が出来なかった俺は、そのまま後ろへと尻餅を付く形で倒れる。
登ってる途中で邪魔だったのは分かるけど、だからと言っていきなり蹴り飛ばす事は無いだろう!
視界の上の方でひらり、と美竹のスカートが揺れる。
――あー…、黒……っぽい、見たらいかんヤツが見えてしまった気が……。
「ちょ、美竹!危ないだろうが!」
「あんたこそ何考えてんの!?」
「はぁ?何言ってんだ!」
「あたしのスカートの中、見ようとしたでしょ!」
「はぁ……!?なっ、ま、待て!誤解だって!俺は単純に登ろうとして――」
『ミシシッ……、ゴシャッ!』
「そんなの嘘で――きゃぁっ!」
強く打ち付けた尻の痛みを我慢しながら立ち上がる俺と、机に片足を置いて登ろうとしている途中の美竹との間で燃え上がる火柱。しかしそれも何かが避けるような、強烈な異音によって掻き消される。
タダでさえガタが来ていた机が、俺と美竹が暴れたせいなのか。とうとうその天命を全うされたらしい。机の左後脚が錆び付いていた所を中心に真っ二つに折れる。すると、その上に乗っかっていた美竹は。
「うわわわっ……、きゃぁ!」
「なっ、やばッ!」
ようやく立ち上がることが出来た俺の方へと落下してくる。しかも片足しか重力に机に置かれていなかった美竹の体は……あろう事か、背中から屋上の硬いコンクリの床へと落ちようとしているのだ。
未だにケツの痛みの引かないけど、美竹が落ちてくる所に踏ん張って走る。
「あっぶね!よしっ――おああぁぁ!!」
「――――」
ギリギリで床と美竹との間に自分の体を挟み込んで、腕でしっかりと美竹の体をキャッチする。ヘッスラでは無く、またもや自分のケツを犠牲にしたキャッチの仕方だ。代償は大きく、俺のプリチーヒップが痛みで悲鳴を上げる。
もちろん、俺も痛みを叫ぶ。めっちゃ痛いのぉぉぉっ!!
俺の体と腕でしっかりとお姫様抱っこの形で受け止められた美竹は、余程あの落ちていく瞬間が怖かったのか、体をブルブルと震わせながらも、目はまだつぶったままでいた。その固く閉じられた目からは若干の水気を感じる。
「いってぇっ!オォン!!ケツがァ!!」
一人で汚く叫び声を上げている俺の声を聞いて、腕の中にいた美竹はゆっくりと目を開けた。
「あっ……、えっと、あたし……」
「いってぇ…!おい美竹、無事か?」
「えっ、あ、うん。ありがと、助けてくれて……」
「……お、おう。どういた――痛い痛いっ!お尻ー!」
なんでか若干頬を染めながら、いつもと違って素直に礼を言っている美竹を他所に、耐えきれないケツの痛みでまたもや悲鳴を上げる俺。あ〜あ、俺ってカッコわりぃ……。
「……って!はっ、早く下ろしてよっ!!」
「おまっ!だったらさっさと降りろっての!痛てぇ痛てぇ!俺の上で暴れんな!」
確かに恥ずかしい光景ではあるけど、今はさすがに止めようぜ?
顔が真っ赤になっていて、恥ずかしさでどうにかなってしまっている美竹は、お姫様抱っこを継続している俺の腕の中で、全く容赦の無いグーパンをお見舞いしてくれる。なんて優しい女の子なんだ……。
「大体さ、あんたがあの状況で登ろうとしなければ……!」
「いや、ほんとそこはごめんなさい……。何も考えてなかった」
「……まぁ、あたしも。あんたに体張って助けて貰ったし、許してあげる」
「うん、それに加えてコロッケ奢ってやって許さねぇは無いよな……?」
あれから落ち着いた俺達は、二人だけで帰り道である商店街を歩きながら、途中の精肉店で俺が奢ってやった――正確には奢らされた『肉汁たっぷり!ジューシーコロッケ!』を頬張っている。
「でも、ほんと。ありがと」
「お、おう……」
口元に微かに笑みを浮かべながら、美竹は歩きながら再び礼を言っている。
なんだか……、こいつに素直にお礼なんて言われるとか、ちょっと新鮮すぎてっていうか、普段とのギャップがありすぎてこっちが気持ち悪くなるわ。正直言って、どういう反応すればいいのか分からない位に。
――ていうか、お前そんな可愛い顔できるんだな…。
「あたし、あんたが助けてくれなかったら……今頃どうなってたか」
「どうもなってねぇよ、ちょろっと背中を打ち付ける位で済んだよ」
「じゃあなんで助けてくれたの?」
「うー……、それは……」
ほんと、なんでなんだろうな。美竹が落ちてしまうって分かってから、体が勝手に動いていた感じしかしない。言ってしまえば、無意識の行動だ。
たかだか最近話すようになったような奴が少し傷つく位だっていうのに……、なんで俺はそんなどうでもいい奴を……。
「体が勝手に動いちゃった、ていうの?」
「……なんで最後疑問形なの」
「……何でなのかな。俺にも分かんねぇや」
本当に分からなかった。
咄嗟に体が動いてしまったっていう事実の説明も、俺がこいつに感じている、まるで胸を強く締め付けられているような……意味の分からない感覚も。
いつになったら俺のケツの痛みが収まってくれるのか、も。
あー、じんじんと、微かに。
痛てぇなぁ……。
……少し雑になったかも知れないなぁ。
申し訳ない。