美竹さんはこんなに可愛いんだよ? 作:┌┤´д`├┐
つーつーつー
きょきょきょ
1つ1つ1つ
頭と体を隅々まで洗い切ってから、ピンクの入浴剤で色付けしておいた浴槽に肩まで浸かる。温泉程の快感は味わえないものの、そこそこ気持ちがいい。市販のものだからとは言え、馬鹿には出来ないものなんだなぁ…。
「蘭…、かぁ…」
湯船に浸かっていると、自然と精神が安らいで眠くなってくる。
そんな状況の中で俺は、半ば夢に近い感じで懐かしい記憶に触れていた。俺と蘭が、まだ出会ったばかりの頃の事を…。
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今に比べればまだまだ幼かった、中学二年生の頃の話。
俺は去年と同じように、毎日を普通に過ごしていた。適当な部活に入って、また同じクラスになった友達と夜遅くまで遊んでいったり、勉強も渋々といった感じで。特筆するような事項など何も無いような、学校という社会の仕組みの中に組み込まれていたネジの1つだった。
ひとつ言う事があるとすれば、俺のクラスにはその仕組みから逸脱していた、ひとつのパーツが紛れ込んでいたって事。いや、逸脱せざるを得なかったのかな…?まぁ、今は置いておこう。
『いつものように』学校に登校して、お昼の休憩時間を友達と享受する事が習慣になっていた俺は、『いつものように』友達を誘って飯を頂こうとしていた。机を4つくらい長方形の形みたいに繋げて、そこに6、7人くらいの男子が椅子を持ち寄って弁当を広げる。そういう流れになっていた、誰が何を言うのでも無く。
しかし、その日は生憎と他の奴らは、部活の集まりだとか委員会の呼び出しとかで、そんな事を出来るような日ではなかった。
仕方が無いので、一人で弁当箱を持って教室を出る。そうして、気持ち良く飯が食えそうな場所を頭の中で思い浮かべる。そうだな…、静かになれる場所がいいな…。それに風を身体に受けながら飯を食うのもいいかも知れないな…。
だから俺は、そこに向かったのだ。
今を思えば、この選択をしていて本当によかった、そう思えるよ。なんせ、ここが始まりだからな。
「む、先客がいたか。ま、数も5人だけだし少し離れれば問題ないよな…」
向かった場所というのは学校の最上階、つまりは屋上だ。俺の通う学校は割と自由な校風らしい。だからなのか、屋上だって昼になれば開放してくれる。お陰で外の空気の中で俺は飯にありつく事ができるんだから。
落下防止用の鉄のフェンスに寄りかかりながら腰を下ろす。好きでも嫌いでもないけれど、無音で食べるよりかはいいかと、あるアーティストの曲を勝手に鼻歌に変換しながら、飯を口の中へパクリと放り込んでゆく。
焼肉ソースで仕上げられたバラ肉の味わいが口の中に広がっていき、自然と俺のテンションも上がっていく。やはり外で飯を食える解放感というのはたまらなく心地が良いものです。
「――なんだって!」
「へー…、また――はスイーツばっ――」
「――、またふとっ――」
「ふふっ、――はまた――」
「まぁ、そう――れるの――、いつも通りじゃ――」
所々で向こうにいる5人の女子の話し声が聞こえてくる。向こうも向こうで楽しそうじゃん、俺も次は友達も連れて来てみるかな…。なんて考えているうちに弁当箱はあっという間に空っぽになってしまった。仕方が無いのでフェンスに寄りかかりながら、俺は意識を闇へと落とした。
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5人でひとつの生き物だった。その5人で一緒に居なきゃ、あたし1人だけじゃ意味が無いんだ。
5時間目の授業科目は…、えっと、なんだったっけ…?まぁいっか。結局サボるんだから覚えてたって関係ないや。あたしは自分の席に置いてあった制式カバンにさっき食べ終わった弁当箱を突っ込んでから、また教室を出る。
前までは行く宛が無かったけど、今はちゃんとある…、と思う。
階段を登ったり、廊下を歩いていたりすると。
『キーンコーン、カーンコーン』
授業開始を知らせる為の、そんな無機質なチャイムの音が学校中に響き渡る。みんなの居ない教室なんて、あたし一人だけの授業なんて…。受ける価値なんて何一つ無いんだから…。
昼の休憩時間が過ぎてしまえば、この扉は再び固く閉ざされてしまう。その向こう側には行けない、と。普通はそうなるけど、あたしは違う。なんでかって言えば、抜け道を知ってるから。
て言っても、そんな大層なものじゃないよ。
屋上への入り方は普通に扉を抜けて入るやり方と、その隣にある『施錠されているはず』の窓を通って入るやり方の二つがある。ドアは当然だけど、閉まってる。でも窓は何故か空いてる。どうぞ入ってください、って言ってるようにしか思えない心遣いだよね。
「よいしょ…っと…」
『いつも通り』屋上へと到着したあたしは、そのままフェンスに体を預けながら持ってきた本でも読もうか、と考えていたんだけど。
「…んんぅぅぅ……んんぅぅぅ……、ふごっ…」
「えぇ……?」
えっと、誰?
気持ちよさそうに、誰か知らない人がフェンスによっかかって眠ってる。時々、声にならない変なうめき声をあげながら。
と、そんな時に目の前の彼の身体が大きく跳ねる。彼を支えていた後ろのフェンスがカサリ、と鳴き声を上げている。
「……んー…。…あれ」
「…あっ…」
「…君は…、確か、美竹さん……だったよね…?もしかして起こしてくれたの?」
「……アンタ、なんであたしの名前…」
「…だって同じクラスでしょ?あれ、2-Bじゃなかったっけ」
「う、うん。確かにあたしは2-Bだけど、いつ?」
「初めの方に自己紹介したでしょ?てか、美竹さん、席俺の前だし」
「嘘、ほんとに?」
「嘘ついたって仕方ないしね…」
ホントみたい…。あたしが授業サボり過ぎた、っていうか自己紹介も全く興味無くてほとんど聞いてなかったし。その時だって、あたしはこの人に起こされてた…はず、だし。
「…美竹さん、今何時か分かる?」
記憶の引き出しを漁っている時に、彼――あたしは彼の名前が分からない、だって聞いてなかったし――にそう問いかけられた。携帯はカバンの中だ。でも今は5時間目の途中だって事は分かってる。
「えっと…、5時間目の途中…だけど」
「っ!…しまった…、寝過ごしたか…!」
目の前の彼は、そういって頭を抱えだした。そんなにも次の授業が大事だったのかな…。この時間はずっとサボってたから、あたしには分からないけど。
「まぁ、俺の自業自得ってヤツか…。しゃあない、サボるか」
「え、あんたもサボるの?」
「あんたも…、ってことはこの時間、美竹はいっつもサボってたのか…」
「あっ…!」
しまった…!うっかり自分の不良行為を喋ってしまった。彼が真面目な人物なら、あたしの事をきっと話してしまうに違いない。しかし彼は、そんなことを全く考えてなさそうな顔で、
「あぁ、言わないよ?美竹が何処で、何してサボってたなんて」
「…な、なんでよ…」
「…そうやって聞いてくるんなら、言う」
「…、…ありがとう」
「そ、それでいいの。…そうだ、俺からもひとつ、あ二つだ。聞いてもいい?」
なんか、この人変な感じがする…。嫌ってわけじゃないけど、なんだか掴みにくい感じだ。
「……いいけど…」
「俺の名前覚えてる…?」
「っ………」
痛いところを突かれて、ゆっくりと目を逸らす。彼は「あ〜、やっぱりか…」って言いたそうな顔をしている。なんだか心から残念そうに思っているので、ちょっと罪悪感が沸いてきてしまった。
「あー…、なんかごめん」
「いいよ、別に…。そーいや美竹は自己紹介の時も寝てたしな」
「うん。後ろの席のあんたのすら聞いてなかったし」
「じゃ今覚えてよ。宮城響介っていいます、よろしくね?」
「何それ…、ふふっ。知ってるだろうけど。美竹蘭、よろしく」
相手に合わせて、一応あたしも自己紹介をしておく。それも礼儀だしね。
そう…。
あたしと響介の初めての邂逅は、割とこんなもので。何の感慨も無いような、ここから何も発展しなさそうな感じの出会いだった。
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「お風呂、出たよ。蘭」
お風呂と繋がっている扉を抜けて、響介がリビングに帰ってきた。髪の毛はまだちょっと湿っていて、でもシャンプーのいい香りが漂ってきている。そんな彼はシャツと半ズボンを着ていて、露出している肌はまだ赤みを帯びている。
「うん。じゃああたしもお風呂、もらうね」
「分かった。出てきたら何か飲む?まぁ、コーヒーか紅茶しか無いけどね」
「響介に任せる、分かるでしょ?」
「若干困る返答をするなって…。分かった、じゃあお風呂入って来な?」
「うん…。…あっ」
ひとつ、念のために伝えておかないといけない事を思い出した。お風呂に続く扉の前で、響介に向き直ってからそれを伝える。
「…覗いちゃ…、だめだから…!」
「それぐらいは分かるわ!早く行ってこいって!」
「ふふっ…、冗談。…でも、響介になら…、覗かれても…、いいよ?」
「………えっ、………はぇ?」
あたしは顔が真っ赤になっていくのを感じながらも、爆弾を投下してからお風呂へと向かった。その前にチラッと見えたあいつの顔は、耳の先の方まで真っ赤に染め上げられていた。
なんでか知らんけど、評価バーが赤くなってて草。
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それでは