美竹さんはこんなに可愛いんだよ?   作:┌┤´д`├┐

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4月30日《2》

 屋上にて心地のいい風を体に受けて、気持ち良く眠っていた俺。とっくに昼休憩の時間は過ぎ去り、5限目の授業は現在進行中であることを全く意識すること無く。

 

 そのまま5限目の授業が半分くらい過ぎた頃だったかな。

 

 「……んー…。…あれ」

 

 俺の意識は唐突に覚醒し始めた。固まっていた体を寄り掛かっていたフェンスで支えながら起き上がろうとするが、体はまったく言うことを聞かなかった。虚しくフェンスがカサカサと音を立てて大きく(しな)るくらいだった。

 

 「…あっ…」

 

 そこに自分のものでは無い。恐らく女子の驚いたような声が聞こえた。やっと動くようになった首を全力稼働させて、声のした方へと顔を向ける。

 

 そこには俺と同じクラス……、の筈の美竹蘭が居た。

 

 

 美竹蘭と言えば。

 

 確か出席番号は俺の前。つまり最初の席では俺の座席の真ん前だった。どこか大人びている雰囲気は華道の家元の娘さんだからだと、勝手に思っている。俺は話をしたことなんか無い、っていうかクラスの誰かと話しているのを見た事が無い。そもそも休み時間とか席に居ないし、偶に授業居ない時あるし。

 

 まぁ言ってしまえば、もはや他人のレベルで知らない。

 

 話は戻るが、彼女が夢の国から俺を引き摺り戻してくれたのか……、それが分からなかったので、名前を確かめる意味合いも含めて話しかけてみた。

 

 「…君は…、確か、美竹さん……だったよね…?もしかして起こしてくれたの?」

 「……アンタ、なんであたしの名前…」

 

 聞いてはみたけど、明らかに警戒されてる……。なんで名前知ってるのコワ……、みたいな目でこちらを睨んできている。あー、ちょっとその眼力キツイって、女の子がしていい目じゃないって……。

 

 「…だって同じクラスでしょ?あれ、2-Bじゃなかったっけ」

 「う、うん。確かにあたしは2-Bだけど、いつ?」

 「初めの方に自己紹介したでしょ?てか、美竹さん、席俺の前だし」

 「嘘、ほんとに?」

 「嘘ついたって仕方ないしね…」

 

 良かった、どうやらクラスを間違えていたりはしなかったらしい。そりゃそうだろう、自己紹介見てたしな。ちょうど美竹の時だけ起きていた訳では無い、むしろ美竹が寝てたのを俺が起こしたって感じです。セクハラとか言わんといて……。

 

 あ、そういえば。

 

 俺は昼飯を食ってからずっと寝てしまっていたんだったな。どれだけ寝てしまっていたのだろうか、携帯を取り出し確認を――あっ、そうだったわ。カバンの中だ、今日に限って持ってきてないとは……。

 

 仕方が無いので、目の前で惚けた顔をしている美竹に尋ねてみる。返答が帰ってくればいいんだけど……。

 

 「…美竹さん、今何時か分かる?」

 「えっと…、5時間目の途中…だけど」

 「っ!…しまった…、寝過ごしたか…!」

 

 あぁ……、さよなら俺の評定……。まだ1ヶ月経たないうちに先生に睨みをきかされるのは避けたかったのに……!でも、やっちまったものは仕方ないな。それに、この時間の授業クソつまらな過ぎて寝てる始末だし、ここでサボっても変わりはしないか。

 

 「まぁ、俺の自業自得ってヤツか…。しゃあない、サボるか」

 「え、あんたもサボるの?」

 「あんたも…、ってことはこの時間、美竹はいっつもサボってたのか…」

 「あっ…!」

 

 何となくは予想してた、そんな事じゃないかなって。ただ、そういう行為に走るには大体理由がある事を俺は知ってる。何故かと聞かれれば、一年の頃から割とサボり気味だったから。

 

 サボっていた事実を自白してしまった美竹の顔は、みるみるうちに血の気が引いていって青みを帯びてきた。大方サボっている事を、先生に報告されるとでも思ってるのだろうか。言ったっていいけど、俺にメリットが無さすぎる。最悪、このサボり行為までバレかねないし。

 

 「あぁ、言わないよ?美竹が何処で、何してサボってたなんて」

 「…な、なんでよ…」

 「…そうやって聞いてくるんなら、言う」

 「……、…ありがとう」

 「そ、それでいいの。…そうだ、俺からもひとつ、あ二つだ。聞いてもいい?」

 

 黙っている事の対価ではないけど、質問を投げかけてみる。

 聞きたいことは二つ。

 

 一つは、俺の名前を知っているか。さっきから美竹は俺の事を名前で呼ばないから、そう思ったんだけど……。多分覚えてないだろうなぁ。

 

 そして二つ目。サボっていた理由、これが本命だ。俺もそういう時期があったから、少しばかり共感できるかも知れない。

 

 予想通りというかなんと言うか、名前は知らなかったみたいだ。そりゃそうだ、お前自分の自己紹介の時間以外ずっと机とランデヴーしてたもんな。起こしたの俺だぞ。

 

 

 「んで、も一つ。言いたくなければ言わなくてもいいけど、なんでサボってたのさ」

 「………」

 

 その質問を投げ掛けてからしばらくの間、美竹は苦しそうな、それでいて哀しそうな顔をしていた。

 

 「……あたしにはさ、幼なじみがいるの。一年の頃はクラスもみんな一緒で楽しかった……」

 「けど、今年は、あたしだけ一人離れ離れになっちゃって……。それからどうでも良くなっちゃってた……。たったそれだけの事」

 「……そっか。お前も一人で寂しかったんだな……」

 「多分、そうだと思う。でもどうすればいいか、分からないから……」

 

 どうすればいいのか分からない、だからサボりたくなる。論理の飛躍って思うかも知れないけど、一度こういう状態に陥ってしまった奴ならば、理解出来ることだ。

 

 「それなら、さ。美竹とその幼なじみが、一緒に居られる場所を作れば良いじゃないか」

 「……どういう事?」

 「そこまでは俺も分からないよ。でも、孤独感を感じさせないようにするなら、みんなでできる何かを始めれば良いじゃないか、って思ったんだよ」

 「………」

 「俺に言える事は、過去は変わらないって事。起きてしまった事は変えようが無いんだ。だからこそ、それに納得がいってないんだったら、まずはそこをどうにかしてみるって事が大事なんだよ」

 「……あんた、は……」

 

 多分、美竹の幼なじみも何か考えてくれてる筈だろう。一人だけ離ればなれになってるのに、気にならない訳が無い。少なくとも俺なら気になって仕方がないから。

 

 

『キーン、コーン。カーン、コーン』

 

 

 授業時間は終わりのようだ。終了の電子音が屋上にまで鳴り響いて来た。

 

 美竹がどうするのかは知らないけど、俺は階段に続いている扉に向かって歩き始める。美竹は必死に考えてるようだった。そんな美竹に、最後に一言、らしくないとは分かってるけど。それで後悔はして欲しくないから。

 

 「何をするにも、止まってちゃダメだよ。時間は限られてるんだから、前に進んでいかなきゃ」

 

 

 次の授業時間に間に合うように、駆け足で階段を降りていった。

 

 

 ──────────────

 

 

 「前に、進む……」

 

 少し、彼の――宮城の言ってくれた事を考えていた。また、みんなが一緒になれる。一緒に何かをする、そうすればまた五人で時間を分かち合える……。

 

 そんな簡単な事だったのか。

 

 これまでのあたしは離れてしまった事だけを考えて、それからの事なんて考えもしなかった。納得がいかなくてウジウジと小さく反抗しているだけだった。そうしていたって何も変わらないってことは、とっくに分かっていたけど。

 

 「みんなと、話がしたいな……」

 

 いつも通りの5人でファミレスにでも行って、これからの事についてちゃんと向き合って話がしたい。

 

 そして、そこに向き合わせてくれた――

 

 「あいつも……、ちょっと興味出てきたかも」

 

 名前は覚えた。

 

 

 

 宮城響介。

 

 何処にでもいそうな程普通って訳では無いその名前が、あたしの中で何度も反響していた。

 

 「あたしも、授業出ようかな……」

 

 でも今は。無性にあいつと話がしたいって、そう思った。

 

 

 

 

 そうして後に残ったのは、少しづつ落ちていく太陽だけだった。

 

 

 もうじき……、燃え尽きてしまうだろうけれど。

 

 

 その一瞬の輝きが――。

 

 

 

 




また赤評価に戻っていました…。


こんな文才の無い文章に評価を頂けるだけでも有難いものなのです。


非常に有難く思います。



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