吾輩は北山雫である。   作:風早 海月

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そうだ、海に行こう。夜

夕食は麻里安特製の海軍カレーだった。

 

 

麻里安の父は国防海軍軍人だった。あの沖縄海戦で大亜連合の別動艦隊と交戦し、壊滅させられた日本国防海軍の即応艦隊の一員として出撃し、本隊の上陸を遅滞させた艦隊に所属していた『はるかぜ』の艦長だった。

ミサイルという物の戦術的価値が低下(被迎撃率と火力に対する単価がフレミングランチャーに劣り始めたため)して、フレミングランチャーの『爆弾を投げつけ合う』戦いには、爆弾をどれだけの数を打ち出せるか、という物量戦となっていた。

命中率など機械のおかげでほぼ100%だ。

そんな中で、最も戦果を上げたはるかぜは戦闘前に非戦闘員とフレミングランチャーの弾薬を全て投棄している。余計な被害を抑えるためだ。

彼らは時代遅れも甚だしい無誘導の大口径酸素魚雷を合計60本ばらまいたのだ。

戦果としては6隻撃沈、8隻大破。

それでも彼らの船が母港に帰ることは無かった。

 

さらに、同じく陸軍軍人だった麻里安の母も陸戦に巻き込まれて亡くなった。

 

そんな時に、とある軍人から頼まれて彼女を引き取ることになったのだ。

その軍人は何かあったらよろしくと言われていたらしく、高校からのいい友人だったらしい。

 

その父から習ったはるかぜカレーがこの夕食のカレーだ。

決して辛くない、お子様カレーのようだが、深いコクがあってまろやかなカレーだった。

確か麻里安の父は辛いのが苦手だったと聞いた記憶がある。

 

「うん、さすが麻里安…おいしい。」

「確かに、カレーだけは麻里安には勝てませんね…」

 

黒沢さんの多才ぶりには勝てないと思うよ。てか黒沢さんに魔法技能があったらさすがに多才すぎる。

 

今やはるかぜカレーを作れるのは麻里安ただ1人だ。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

夜の月明かりの下で、各々手持ち花火を楽しむことに。

 

中でも、女子組はシャッター速度を遅くしたカメラで花火の軌跡の模様を描いた。

 

「綺麗…」

「深雪ってあんなキャラだったのね…」

 

深雪は両手に花火を持ちながらその花火の火花を魔法で加速させて噴射系花火のように10mくらい飛ばして笑ってる。

普段のおしとやかなイメージが崩れる。というかトリガーハッピーな何かみたいに見える。

 

そんな中で、達也さんは少し離れたところで何か作業をしていた。

 

「達也さん、何してるの?」

「見てのお楽しみだ。」

 

そう言ってニヤッと笑った。

 

「そんな笑い方してるから深雪に悪い人ですねって言われちゃうんだよ。」

「そうか?」

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

深雪特製スイカのシャーベットを食べながら(スイカを用意してたら深雪が、シャーベットにしてみる?と聞いたため)楽しんだ手持ち花火はもう無くなってきた。

 

最後のシメは線香花火と相場は決まっているが…

 

「ん?この線香花火…いつもと違う?」

「てか桐箱の線香花火って何!?」

 

エイミィの違和感は触った感触から。エリカの驚きはその入れ物。

 

「純国産線香花火だよ。昔はもっと安かったみたいだけど、今は…いくらだったっけ?」

「30本入りで10万円です。」

 

黒沢さんが私の知識の補填をする。

現代の貨幣価値はだいたい100年前と同じくらいにデノミされている。

 

「さ、3本で1万…」

「なんて金の使い方だ…」

 

美月とレオがドン引きした。

 

「でも、その分の芸術的価値はあると思うよ。」

 

私はその線香花火を持ち、火をつける。

 

 

蕾。

 

牡丹。

 

松葉。

 

柳。

 

散り菊。

 

 

移りゆく美しさには見る者を魅了する魔力がある。

 

 

「綺麗…」

「すごい…」

 

そこにいるもの全てを引き込んだ1本当たり3,333.333…円の線香花火は十数秒で消えてしまった。

 

この線香花火の凄いところは、マイクログラム単位で調整した火薬量や紙の厚さで消えるまで玉が落ちない(落ちづらい)という点だ。

だからこそ最後まで見ることが出来るもので、職人芸らしい。

 

その美しさに引き寄せられるかのように各々は線香花火を手に取った。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

さて、海岸での花火を終えて、お風呂の時間となった。

 

この別荘は大浴場が1箇所あるだけで他にシャワー室も小浴場もないため、時間で男女分けをすることにしてある。

 

 

18~21時は女の子で、21~23時は男の子とした。その他の時間は適宜その場でということになっている。

何故こんなにも長く取るのかと言うと…

 

長風呂勢

1~2時間:私、美月

1時間くらい:ほのか、エリカ、幹比古、レオ

 

なのでそうした配慮をしている。

 

 

 

サウナも完備しているので、そちらに入っていると美月が来た。

 

「雫さんこっちにいたんですか。」

「うん。サウナ、嫌いじゃないから。」

 

メガネを外している美月は珍しく感じた。

 

ほのかのもすごいけど、それ以上の“物”をお持ちで。

肩幅が狭い割に胸が大きいからロリ巨乳な風にも見える。

 

ほのかも来ればいいのに…ほのかの胸に流れる汗を(自主規制)したい。

 

「雫さんは夏休み終わってから何か特別なことはあるんですか?」

「…論文コンペの護衛は多分回ってこないと思うから多分ないと思うよ。機材の護衛はあるかもしれないけど、メンバーの護衛は夜遅くなることもあるからなるべく上級生の男子から選出されるから。」

「へぇー。じゃあ今度美術部に来ませんか?ほのかさんと一緒に。今度書くイラストのモデル探してたんです〜。」

「ほのかに相談してくるよ。」

 

 

そう言って私はサウナを出てシャワーを浴びてから脱衣場へ向かった。

 

 

 

ちなみに、このモデルが百合同人誌のイラスト集(全年齢とはいえ)のモデルであったのを知るのは発売されてからの事だった。


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