魔法実技の授業。
1年生のこの時期はとにかく発動速度の短縮が優先される。
それは一科生であろうと二科生であろうとカリキュラムは同じである以上、やることは同じだ。
しかしながら、今は機械に慣れることを目的にやっているため、1000ms(ミリセコンド)を切ることを目標にやっている。
一科生ならばある程度本気でやれば1発で通る課題でも、二科生にとってこの課題は厳しい。
達也さんのクラスのE組では、達也さんの友達2人がまだ終わっていないから昼休みもやるので、深雪がお昼ごはんにサンドイッチを買って来て欲しいとメッセージが届いたらしい。その頃は、深雪とほのかと食堂でお昼ごはんにしていたので、食べ終わってから、サンドイッチをコンビニ風の購買でいくつかと飲み物も人数分購入して行くことにした。
実習室に入り、達也さんの後ろにつけた時に、深雪が遠慮がちに声をかけた。
「お兄様、お邪魔してもよろしいですか?」
「深雪…と、光井さんに北山さんか。」
振り返って私達を確認したのはエリカ。
以前の森崎と二科生の対立の時にCADを払い落とせると言った千葉家の門下―と思っていたが、娘だったらしい。しかも免許皆伝。剣術だけに限れば渡辺委員長を超えるらしい。
「エリカ、気を逸らすな。すまん、深雪。次で終わりだから、少しだけ待っていてくれ。」
「っ?」
「分かりました、お兄様。」
プレッシャーのかけ方がえげつないお兄様。
2人は気合いでCADのパネルに手を載せた。
☆☆☆☆☆
「終わったー!」
「ふぅ…ダンケ、達也。」
レオ―対立した時のCADを払い落とせると言った男子の方だ―の謝辞に片手を上げて応えるお兄様、2.5枚目っぽい。
そこに、私達は歩み寄っていく。
「ふたりともお疲れ様。お兄様、仰った通りに揃えて参りましたが…足りないのではないでしょうか?」
決して小柄とは言えないどころかがっちりとしたレオ、千葉家の免許皆伝つまり体育会系が確定的なエリカの2人+文化系少女1人にしては少ないように思える。体育会系の高校生はガッツリ食べるのは当たり前という常識は薄れてはいるが未だにその傾向があるのはもちろんである。身体は動かせば動かすだけエネルギーを消耗するし、魔法は脳を過度に使うため糖分を消費する。
「いや、もうあまり時間もないからね。これくらいが適量だろう。深雪、ご苦労さま。光井さんと北山さんもありがとう、手伝わせて悪かったね。」
「いえ、全然問題ないですよ!」
「大丈夫、私はこれでも力持ち。」
3人からサンドイッチと飲み物を受け取った達也さんはそれをレオとエリカに渡していた。
「なぁに?」
「サンドイッチか?ダンケ!」
「食堂で食べると午後の授業に間に合わなくなるかもしれないからな。」
「ありがと~。もうお腹ぺこぺこだったのよ!」
達也さんは美月さんにもサンドイッチを勧めながら深雪からお弁当を受け取った。
「…でも、いいんですか?実習室での飲食は禁止なんじゃ?」
「飲食禁止は情報端末を置いてあるエリアと実習用CADのエリアだけだよ。校則でも特に禁止していないしね。」
「えっ、そうなんですか?」
「そうなんだよ。俺も禁止されているものだとばかり思い込んでいたから、少し意外だった。」
和気あいあいと実習室の端にある椅子を寄せてきて遅い昼食にありつく居残り組に、私達差入れ組も飲み物だけ持ってその輪に加わった。
色々話をしていく中で、次第に苗字呼びだった人も名前呼びが普通になっていった。
一科生二科生を超えて仲がいい『グループ』はここ以外には無いだろう。
一科生二科生で恋人はいるらしいが。
「深雪さんたちのクラスでも実習が始まっているんですよね?どんな事をやっているんですか?」
ほのかと私が目を合わせるのは同時だった。どう答えるべきか。指導担当が付くかつかないかだけでカリキュラムは同じである。
「美月たちと変わらないわよ。ノロマな機械をあてがわれて、テスト以外では役に立ちそうもないつまらない練習をさせられているところ。」
「一科も二科もカリキュラムは同じだよ。」
深雪の毒舌とそれを気にしていないような私に私と深雪を除いた5人が驚いた。―多分達也さんは私が反応してないことに驚いたのかな。
「ってことはこれと同じCADなのよね?」
「ええ。」
「参考までに、どのくらいのタイムかやってみてくれない?」
「えっ?私が?」
自分を指さす深雪に、エリカは大きく頷く。
「いいんじゃないか?」
苦笑いしながら頷く達也さん。深雪は躊躇いながら承諾してCADに向かった。
CADのパネルに手を置く。
余剰サイオン光が閃き、速度を見ていた美月の顔が強ばった。あれは段違いな速度に驚愕してるね。
エリカの催促に美月のフリーズが解けて、数字を読み出した。
「235ms…」
「はっ!?」
「すげ…」
そしてそのフリーズはレオとエリカにも伝染した。
レオとエリカは授業では1000msを切れなくて苦労していたのだ。それをあっさりとこれだけの差を見せられると苦笑するしかないだろう。
「あの…雫さんにほのかさんもやってみてもらえますか??」
いち早く立ち直った美月がお願いしてくる。
「私は深雪ほど速くないんだけど、いいの?」
「はい!お願いします!」
ほのかはCADの前に立つと後ろからの視線に緊張したのか深呼吸をする。
達也さんも『ほう…』といった顔で眺めている。
CADに触れる。
また深呼吸。
余剰サイオン光がひかる。
「492ms。ほのか、緊張し過ぎ。いつもより100ms遅い。」
「そ、それで遅いんですか?」
「見られてるっていう環境に慣れてないせいだと思う。魔法は精神状態に依存するから。」
「なるほど。ってかそれでも0.5秒切ってくるんだ…」
「比べ物にならないな…」
エリカとレオの言葉に、私は少しだけ反論する。
「ほのかの凄いのは基礎単一系つまり1工程じゃなくて多工程の魔法を難なくこなすところ。キャパシティが大きいんだよ。」
そして、私がCADの前に立つ。
実を言うと、今までは全力でこのテストをしたことが無い。
一応入試でもあった処理速度のテストだけど、入試本番は月のもので魔法力が下がっていたし、その後の処理速度の練習でも寝不足で全力とは言えなかった。(私の場合、体調に魔法力が多分に左右される。)
だが、今日はなんの不調もない。今日こそは深雪を超える!
CADに触れてサイオンを流し込む。
雑な起動式を取り込みつつ魔法を発動させる。
余剰サイオン光が輝く。
「232ms…」
「え!?」
「…」
たった3ms。勝ったには勝った。
でも、私の得意分野である干渉力では全力で使える時で僅差で負けた。キャパシティは私は大きいけど、工程数が多くなり過ぎると使えても細かい操作は苦手なので負ける。
処理速度では僅差と言えないくらい小さすぎる差で勝った。たった少しのことで変わってしまうくらいの差で。勝ったと言うよりドローだろう。
「雫、そんなに速かったっけ!?」
「入試は…体調崩してたし、この間の実習も寝不足だったから…体調に魔法力が多分に左右される体質だからね。」
だが、それにしても悔しい。得意な系統も振動系で同じ。
どちらが上かと聞かれれば深雪だろう。私が勝っているのは無いのだから。
「まさか深雪に処理速度で勝るとも劣らない魔法師が同学年にいるとは思わなかったよ。」
達也さんが本当に驚いたのか目を少し見張っていた。
「いや、体調に左右されてて、万全の状態でやっと同じくらい。」
「それでも、そうそういないさ。」
その言葉は私の少し沈んだ心を癒してくれた気がした。