刻印虫(ガストレア)   作:ワカメ#たまごすーぷ

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zeroコラボやり忘れたので初投稿です。


神を目指したものたち chapter0

ーーーぐちゃぐちゃと、湿っぽい音がする。

感覚器を使って辺りを探る。斜め下と傍らに熱源を感知。片方の熱源からはゆっくりと熱が失われいく。

その上に、ワタシはいた。

ーーワタシとワタシとワタシとワタシ。すべてのワタシが赤い複眼を光らせ、こちらを見ていた。

哄笑が上がる。傍らの動く熱源を見る。いましがた手に入った『記憶』によれば、それは老人といって差し支えない姿をしていた。

 

「やっと、やっと現れてくれたな。もう潮時かと思っていたわい、統率個体」

ーーゆっくりと、地を這う。もはや搾取しきった肉に用はない。ワタシたちも四方から寄り添い、あとに続く。

 

「貴様をサンプルに持ち帰り、組織へと返り咲くことが出来れば、もはや東京エリアを手中に納めることも夢ではない。それでこそ、助手も浮かばれるというものよ」

 

ーー老人は動かない。『記憶』によると服にバラニウムを編み込んでいる。なるほど、確かに近づく程忌避感は高まる。高まるがーー

「なに!?」

 

___別に、無視すればいいだけだ。

 

「儂の、儂の腕がァ!」

 

ーー痩せ細った腕が音を立てて落ちたかと思うと、あっという間になくなった。血の滴る腕を押さえて、老人は蹲る。

 

「あり得ぬ、あり得てたまるものか!」

 

ーー政府要人を暗殺し、その人物に擬態させて操る。啜る生き血から記憶を読み取り、模倣をさらに進化させる。老人のデザインは完璧だった。間違いがあったとすれば、蟲と人との時間の流れを見誤ったこと。バラニウムが有効だったのは、蟲にとっては過去の話だ。

 

__オマエヲクワセロ。

 

 

閉じられた部屋で、微かな咀嚼音が響く。固まりになった大量の蟲は蚊柱の様になったかと思うと、瞬く間に老人となった。そのまま部屋を出ていくところで、アタッシュケースに気づく。ケースの中には幾本の注射器と、『侵食抑制剤』のラベル。

羽音が、鳴った。

 

 

 

 

今から十年前。突如現れたガストレアウイルスは、数多の生物に感染した。感染した生物は化け物(ガストレア)となり、多くの生物を襲い、そこからまた感染が拡大した。

ーそれは、人類もまた、例外では無い。あわや絶滅の危機に瀕した人類はガストレアに絶大な効果のある金属、『バラニウム』を発見し、それぞれの主要都市にバラニウムで作られた巨大なモノリスを建築することで難を逃れた。基本的にガストレアウイルスは血液感染しかしないこともこれを後押しした。

しかし、空気を媒介に微量のガストレアウイルスが母体に侵入し、母体に異常が無くとも、赤目の女児が生まれることがあった。いわゆる『呪われた子供達』だ。

彼女らは一様にガストレアウイルスによってもたらされた超常の力をもち、それゆえに迫害された。バケモノ、と。

しかし同時に警察機構等による都市防衛に限界が見えていたため、ガストレア駆除を専門に請け負う『民間警備会社』(民警)が職業として成立。そうして幼女のカタチをしたバケモノ(イニシエーター)それを制御し管理する責任者(プロモーター)という二人組で依頼を遂行するのが常識となった。

 

 

突然防衛省に呼ばれた『天童民間警備会社』の女社長、天童木更と、唯一の社員でありプロモーターの里見蓮太郎は困惑していた。

 

「木更さん、呼び出されたのは例の件じゃないのか?」

「知らないわよ。とにかく来い、としか言われてないわ」

 

案内された部屋につく。重厚な会議室の扉を開くと、中は緊張した空気に包まれていた。

縦長のテーブルを囲うのは、すべてが東京エリアの上位に位置する民警の社長達。それぞれの後ろには、社員のプロモーターとイニシエーターが直立し、睨みを効かせている。

一瞬気圧された二人だったが、気を取り直し机の末席に座ろうとする。が、巨漢が立ち塞がった。

 

「オイオイ、最近はガキまで民警ごっこかよ?」

 

見上げる程の上背に、服の上からでわかる筋肉。金髪に骸骨プリントのスカーフを口元に巻いた男が見下し、嘲笑する。聞き捨てならないと蓮太郎が言い返し、それぞれの得物に手を添える。そこでおもむろに男が放った言葉は、蓮太郎の逆鱗に触れた。

 

「オイガキ、プロモーターなら道具はどうした?」

「道具?」

()()()()()()()だよ」

「延珠を、道具だとっ!!」

ーー激昂した蓮太郎が銃を抜き、男が大剣を構える直前。

 

「ひどいことを言う」

ーしわがれた声が、場を支配した。

 

カツ、カツと杖を突きながら、腰の曲がった老人が歩いてくる。和服を纏った体は、年相応に腰が曲がっていて、どうみても荒事に向いているようには見えない。それでも、老人から漂う雰囲気が、不穏なモノを予感させた。

 

「ワシの可愛い孫娘たちを、道具扱いとは。東京エリア上位の民警が集うということは、この儂が来ることも予想できなんだか」

 

老人はゆっくりと男の前に立つと、白濁して何も見えないであろう目で巨漢を見上げる。皺だらけの顔を嘲笑で歪める。

「それとも、その矮躯で儂を相手取れるとでも?」

「ーーーーッ!!」

激昂した男が大剣を抜く。鍛え上げた筋肉をもって、老人の首を両断するーーー

「やめたまえッ!将監!」

ーことはなかった。

振り下ろされた大剣は、老人の肩口で止まっている。

「三ヶ島さん!」

「私に従えないのであれば、今すぐここを出ていけ」

「……へいへい」

自らの後ろに巨漢の男ー将監ーが控えたことを確認すると、三ヶ島は老人に向き直った。

 

「この場はこれで納めてくださいませんか、間恫社長」

「うむ。聞き捨てならんコトがあっただけで、別に怒ってなどおらぬ。若人を諌めるのも、年長者の責務じゃろうて」

 

…老人がゆっくりと一番前の席に着く。それを見送って三ヶ島は蓮太郎たちに向き直った。

 

「…君たちも、この場は納めてくれないか」

「…わかった」

 

席に着いた木更は、蓮太郎に小声で話しかける。

「『三ヶ島ロイヤルガーター』所属、伊熊将監。IP序列1584位」

「1000番台!」

「彼の民警ペアは世界で70万以上存在するイニシエーターとプロモーターのなかでも、上位1%に属するわ。

ちなみに、里見くんと延珠ちゃんペアの序列は12万と幾つ。イニシエーターは優秀なのにねぇ」

痛いところを突かれた蓮太郎は押し黙る。

「…そして、あの御老人が間恫臓硯。蓮太郎くんも知ってるでしょう、従来より効果の高い侵食抑制剤を開発して、一時期話題になった人よ」

「あれがか…」

「本人もプロモーターらしいけど、実際に戦場で見かけたことは無いわ。滅多に表に出てこないし」

「なんでも、虫が好きで、四六時中愛でているとか」

「虫、か」

…脳裏に浮かぶのは、先日倒した蜘蛛型のガストレア。虫といえばガストレアを想起してしまうご時世で、虫好きとは変人に違いない。

 

会議室の前方から制服を纏った男がやって来た。

「空席、1か…」

空いた席を一瞥したあと、声を張り上げる。

「この依頼を辞退するものは速やかに退席していただきたい。依頼を聞いたあとに辞退することはできない」

辺りを見渡す。一人も席を立つものはいない。

「これより、依頼の説明を行う」

波乱に満ちた会議が、始まった。

 




将監さんは全方位に喧嘩売っていくスタイル。ハレルヤさんは出したい。

追記:話を進めるにあたって蟲の能力を変更。

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