刻印虫(ガストレア)   作:ワカメ#たまごすーぷ

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おまたせしました。一巻分ラスト。
こんなニッチな二次創作を読んでくださってありがとうございます。

おかげさまで日間ランキング7位。拙い文章ですがよろしくお願いします。




chapter4 終章後

目前の老人との間合いを詰める。天童式戦闘術二の型十四番ーー

 

「『隠尖・玄明窩(いんぜん げんめいか)』ッ」

 

脚部のスラスターから空薬莢が排出。路地裏に一瞬火花が散る。豪速で放たれた蹴りが、老人のそっ首をたたき折る。

ぶちりと、足首になにかが潰れる感触。ひしゃげた首の皮から、赤い目がいくつも覗いている。

ーー見れば、首の皮一枚でぶら下がる顔が、こちらを嘲笑っていた。

戦慄。ついで振りぬこうとした足に激痛が走る。

やすりがけされるような痛み。慌てて引き抜いた足の人工皮膚は剥げ、バラニウムの義足を露出していた。

 

「クソッ」

 

バックステップで後退する。もげかけていた老人の首は、みるみるうちにつながった。

蓮太郎は構えを取ったまま動かない。うかつに手を出せば、文字通り()()()()

 

「なんで」

「ぬ?」

「なんで、夏世の姿なんだよッ!!」

 

だから、落ち着いて情報を引き出さなければ。そう思って開いた口は、まったく落ち着いてなどいなかった。

激情が迸る。憤怒によって、体がおこりのように震えている。

対する老人は微塵も動揺を見せずに。

 

「都合が良かったからじゃ」

 

あっけらかんと、のたまった。

 

「は?」

「最近ここいらで『子供たち』を食い物にする畜生がいての。今朝がた手に入れた姿は撒き餌として具合が良かった。よって使った」

 

理解、できない。いや、理解はできている。梅の『性犯罪者』発言も、落ちている拳銃から覗く黒い弾丸も、そう考えれば辻褄は合う。

だからといって、死人を弄ぶ行為が、許されていいはずがないーー!!

 

「この、外道がッ!」

「さて、ワシは使われなくなったモノを拾ったまでよ。

それを外道と言うならば構わぬがな小僧、それではおぬしの行く末は、その外道より劣ってしまうぞ?

なにしろ自らが手にかけた娘を、魑魅魍魎の跋扈する森に捨て置いたのだ。放置された骸がどうなるか、わからぬお主ではあるまいて」

「政府が回収したはずだ!」

「政府が!回収!」

 

老人は笑う。少年の無知を嘲笑うように。

 

「面倒を厭う役人どもが、放置すれば消える肉片を、わざわざ拾いに行くものかよ。そも、未踏査領域に素人が行く危険性は、お主が一番知っておるはずではないか!」

「てめえ!」

「カカカ、何を憤る!所詮死体に意思などなく、どのように扱うかなど問題ではあるまい!ガストレアの糧になるも、死してなお使われるも同じ!ならば心無い人形と化すがうぬらの為であろう!」

 

ーー殺す。

この存在は、ここで終わらせる。必ず殺す。方法など知ったことか。一撃で死なぬのなら、二撃三撃をもって撃滅するーー!!

神速の踏み込み。地面をけり砕く勢いで放たれた体は、一瞬で臓硯を間合いに入れる。既に振り上げられている右腕からは、黄金色の空薬莢が二本、排出されようとしている。爆発的な勢いで放たれる拳で、老人の矮躯を地面と挟んで押し潰す。決まれば、老人の体は原型すらとどめずに圧殺されるだろう。

 

赤熱しスローモーションのような視界で目標を捉える。それが間違いだった。

 

ーーーこんなに目標は小さかったか?否。

ーー亜麻色の髪をしていたか?否。

ー少女だったかーー!?

勢いづいた拳は止まらない。老人ではなく、少女の顔めがけて落ちていく。

千寿夏世にしかみえない化物は、蓮太郎の顔を見上げてほほ笑む。

 

「『蓮太郎さん?』」

「う、うおおおおおおおおおおォッ!!」

 

地面が、爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようならだチャーリー。君との逢瀬は中々に楽しかったよ」

 

解剖台に載せた死体を愛し気にさする。物言わぬ骸は返答を返さないが、その静寂こそ室戸菫は好んでいた。

突如として静寂が破られる。荒々しく扉が開ける音が聞こえて、眉をひそめながら解剖室を出る。

俯きがちに、こちらに詰めよる蓮太郎。彼は菫の肩を掴むと、そのまま、見上げるように恩師を糾弾した。

 

「先生!あれは、間桐臓硯はいったいなんなんだッ!先生は知ってたのかッ!」

「そうか、知ってしまったか」

 

ともすればそれは、悲鳴にも聞こえる。蓮太郎の目は、悲嘆と絶望に染まっていた。

淡々と蓮太郎の手を外して、血がこびりついている白衣を脱ぐ。真新しい白衣に身を包むと、椅子に座った。

 

「座り給え。コーヒーはいるか?」

「……」

 

返事がない。対面の椅子に腰かけた蓮太郎は、憔悴しきっている。よく見れば、右腕と右足の義足が露出していた。

 

「とりあえず、どういう経緯でそうなったのか教えてくれ」

「…アンタから話してくれ」

「いやだね。君が先に話さなければ私は話さない。執刀医として、君が義肢を何に振るったのか知る義務と権利がある。というか鏡を見てみたまえ。顔色がブルーを通り越して白くなっているぞ。普段の不幸面のほうが何倍もましだ。そんな顔じゃあ延寿ちゃんも君が誰なのかわからないんじゃないか?」

「オイッ!!」

「いいから話したまえ。吐き出せば、多少は楽になる」

 

かもしれない、と(うそぶ)きながら、二人分のコーヒーをビーカーから注いで、片方を押し付ける。不承不承コーヒーを受け取った蓮太郎は、口を湿らせながら話し出した。

小春を送る帰りに、死亡したはずの千寿夏世を見つけたこと。臓硯の正体がガストレアで、千寿夏世に化けていたこと。その姿で、路地裏に一般人を連れ込んで殺害したこと。臓硯を排除できず、気づけばなんの痕跡も残っていない路地裏に一人立ちつくしていたこと。

 

「ふむ。そこまでわかっているなら話が早い。間桐臓硯は、完全に新種のガストレアだ」

「それぐらい俺にもわかる。今まで言葉を理解するガストレアなんてーー」

「そういう意味じゃない。彼はね、人工的に生み出されたまったく新しい生物兵器なんだよ」

「なんでそんなこと知ってんだよ」

 

蓮太郎は絶句したが、すぐに聞き返す。驚くのにもいい加減疲れてきた。真実を見極めるときだ。

 

「本人に教えてもらったんだよ」

「絶対うそだ!」

「私自身信じられなかったよ。この目で見るまではね」

 

今度こそ沈黙。意図が読めない。それとも、ガストレアの意思を読み取ろうとするのが間違いだったか。

 

「まあ結局、こうして君に話してしまっているわけだが」

「周りに助けを求められなかったのか」

「誰に言ったって信じやしないさ。私自身、打ち明けられるまで気づかなかった。新しい浸食抑制剤を共同開発した直後だったしね。国は国防の要であるイニシエーター(消耗品)を長持ちできて万々歳だったし、私たちは一つでも多くのイニシエーター(いのち)を救うのに必死だった。多少持ち込んだ(ぎじゅつ)が怪しくても、皆目をつぶったさ」

「ちょっと待ってくれ、それじゃあ」

 

辻褄があわない。千寿夏世に化けた能力はなんだったのか。

女医は頷くと話を続ける。

 

「そう。薬を生み出す能力はあくまで副産物にすぎない。目標を秘密裏に食い殺し、入れ替わる。それが彼の兵器としての運用法だ。さながらドッペルゲンガーだな。そうして傀儡となった人物は誰にも気づかれない。間桐臓硯としての姿もその一つにすぎず、あくまで彼の兵器としての名前は『刻印蟲』だ」

「『刻印蟲』」

「そうだ。そしてその能力ゆえに、彼の存在は露見しない。一度彼が接触しているマンホールチルドレンや、周辺住民を見に行ったが、彼の評判は概ね良好だった」

「…喰われてるんじゃねえか」

「それはないよ。『刻印蟲』は見た目は似せるが、中身までは頓着しない。サーモグラフィーで見れば違和感は見つけることができる。もっとも、中身が蟲だと気づくことができるかは、また別の話だ」

「被害はないのかよ!!」

「ないよ。あったとしても我々では見つけられない。一般人にいちいちサーモスキャンなどかけていられないし、未踏査領域の遺体はそれこそ何をされても感知できない」

「先生はそれでいいのかよッ!」

「よくはない。それでも、あるかわからない犠牲より、この蟲を使えば救える『子供たち』が必ずいる。そちらのほうが私には重要だし、それには君の延寿ちゃんも含まれる」

「…どういうことだよ、ソレ」

 

声が震える。話がいきなり自分の相棒に飛び火したことに不安を覚える。

 

「今回の戦闘は激しいものだった。機密の関係で生では見れなかったが、録画した動画を見せてもらったよ。

率直に言おう。間違いなく延寿ちゃんの体内浸食率は上昇している」

「なッ!」

「後日精密検査も行うが、内容によっては臓硯の報酬の抑制剤が必要になる。抑制剤の安全性は私が保障する。思うところもあるだろうが、考えておいてくれ」

 

返事が、できない。

温かかったコーヒーは、すっかり冷めきってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

     藍原延寿診断カルテ

                                担当医 室戸菫

 

・藍原延寿、ガストレアウイルスによる体内浸食率四十二,八%

・形象崩壊予測値まで残り、七,二%

・新型の浸食抑制剤を使った長期治療を推奨。

・担当医コメントーー超危険域。ショックを受けないように本人には低い数字を告げてあります。規定により、本人への告知はプロモーターの任意とします。

 

 

 ここからは医師としてでなく、友として忠告する。

 これ以上彼女を戦わせるな、蓮太郎くん。

 

 




最後のカルテと臓硯のセリフ言いたかっただけ。

未踏査領域の遺体とかどうしたんだろうね、と疑問に思って出来た話。

ぶっちゃけ二巻の内容は飛ばそうかと思ってます。ティナ死なないし、ほとんどティナと連太郎が殺し愛してるだけだし。
連太郎が保脇に拳銃突きつけて「上官命令で云々」のところはブラブレで一番好きなシーンなんですけどね。
人死にそんなにでないからね、仕方ないね。つまり手加減するティナちゃん天使。


…ちなみに作者が一番好きなのは火垂ちゃんです。
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