刻印虫(ガストレア) 作:ワカメ#たまごすーぷ
原作買って♡
今回ジジイがほのぼのしてるだけ。
天気は快晴。
駒を動かすパチパチという音に、子供の笑い声が混じる。
外周区の青空教室。その昼休みを使って、大人二人は将棋にいそしんでいた。
固い地面にシートを引いて、盤上でマグネット付きの駒を取り合う。屋外だというのに、春の陽気は微塵も寒さを感じさせず、むしろ暑いほど。
「どうぞ」
「うむ」
自分の駒を動かして、言葉少なに手番を回す。返事をした相手はすぐさま熟考にはいった。
知らず知らずのうちに熱中していたらしい。少し面映ゆく思いながら、汗を掻き始めた胸元を寛げて、対戦者を見る。松崎の丸メガネ越しの視界には、一人の老人がうつっていた。
間桐臓硯。今時見ない和装に、かなりの年齢を感じさせる曲がった腰。関係性は、教師とその生徒の保護者という簡素なもの。それなのにここまで交友が深いのは、ひとえに生徒たちが関係していた。
体内にガストレアウイルスを保菌し、いつ形象崩壊するともしれない『呪われた子供たち』。松崎ひとりで運営している青空教室は、生徒のほぼすべてが『子供たち』で構成されていた。
ガストレア戦争を経験した『奪われた世代』にとって、『子供たち』は忌むべきものだ。無論それは、松崎自身にもあてはまる。それでも彼は、いくら『子供たち』だからといって、無垢で、なぜ害されるのかわからぬまま迫害される彼女たちに、憎悪を向けることなどできなかった。
彼女たちの助けになればと、一人で始めた学校経営。知人友人は軒並み『奪われた世代』だ。誰にも相談できず、当時いっぱいいっぱいだった自分に、梅と小春の手を引いてやってきたのが臓硯さんだった。
今でも思い出す。
警戒心の強い彼女たちを集めるのに奔走し、噂を聞きつけた隣人には面罵される毎日。心身ともに疲弊していた自分のところに、入学希望だと幼子二人を引き連れてやってきたのだ。
唖然として、質問したのを憶えている。なぜここを選んだのですか、と。
臓硯さんは、ただしきりに困惑する私に、好々爺然とした笑みを消して、獰猛に笑いながら言ったのだ。
「どこの教師も『子供たち』と聞けば尻込みし、それとなく転校を進めよる。内地の彼奴らは腑抜けばかりよ。
____ワシはのう、『子供たち』であることを、一切負い目とは思っておらん」
涙が出るほど、嬉しい言葉だった。
「おい、ぬしの番じゃ。なにを呆けておる」
自分の番がきていたようだ。白濁した眼球を向けてくる臓硯さんに、慌てて盤上の駒を見る。
僅かに劣勢。盤面を取り返すため、駒を漁る。
ふと、今まで聞けなかったことがこぼれた。
「なぜ、ここまでしてくださるんでしょうか?」
「ぬ?」
「いえ、すごく有難いんですがね。わざわざ私の休憩に付き合う理由がわからなくてですね」
今では多少の協力者もいるが、自身と直接会うような人物は少ない。世間体なども考えると、妥当な判断だろうなとは思う。そこに、なにも思わないわけではないが。
「隠居生活も退屈での。ワシの息抜きのついでじゃよ。娘たちも見れるしのう」
「そうですか」
ニヤリとしながら放たれた言葉に、知らず笑みがこぼれる。
「ワシはむしろ恨まれとるかもしれんと思っておったぞ。このケチ爺がぁ!とな」
「そんなわけ!」
あるはずがない。ただでさえ孤児が大半を占める学校で、毎月きちんと月謝を払う臓硯さんには助かっているし、寄付金が欲しくてこの学校をはじめたわけではない。
そう言っても、臓硯さんは首を傾げるばかり。
「そうかのう?」
「そうですよ、私は大変感謝しております。しかし、臓硯さんにもわからないことがあるんですね」
「ぬかしおるわい」
クツクツと喉で笑う。変わった人だとは思うが、変わっていなければ会うこともなかっただろう。
パチパチ、という駒の音。そして。
「王手じゃ」
「参りました」
願わくば、この穏やかな日常が続きますように。
(続か)ないです。(アルデバラン)
虫爺がアップを始めました。