刻印虫(ガストレア) 作:ワカメ#たまごすーぷ
あと外道します。幼女(のみ)に優しい世界。
足元を、見る。
2人分の赤。夥しい量の血は、そよ風に反応し、さざめく。
赤い川の源には、イニシエーターとプロモーターが、折り重なるように倒れていた。
既に事切れた相貌は、驚愕に染まっている。
…当たり前だ。事は東京エリアの命運を左右する。今回を手柄やリベンジなど、自己中心的に考えられる
「…イニシエーターは殺すための道具です」
震える両手に言い聞かせるように、呟く。明晰な頭脳は、たったそれだけで切り替えを終える。構えていた銃を下ろして、相棒のプロモーターに駆け寄った。
「終わりました。将監さん」
「うっし、じゃあ行くか。なんども言ってるがーー
「はい。『弱い奴らに渡す手柄はない』『仮面野郎は一番にぶっ殺す』ですね」
「わかってんじゃねぇか」
伊熊将監はバスターソードを担ぎ直す。フェイススカーフの下で獰猛な笑みを浮かべながら、一歩を踏み出そうとしーーー
ーー足を、止めた。
「…?将監さん?」
「出てきやがれクソジジイ。そこにいるのはわかってんだよ」
はたして。
「やれやれ。敬老精神が微塵も感じられぬ。前回あった時よりも、狂犬具合に拍車がかかっておるようじゃ」
滲むように、闇の中から老人が現れる。羽織と袴を身につけた姿は、未踏査領域を闊歩しているという気負いをまったく感じさせない。自らのイニシエーターを引き連れて、間桐の翁が出現した。
「ちと、話しをせんか?」
「断る。ジジイと話すことはねぇ!いつも通り穴蔵にこもって虫でもいじってろ」
すぐに断る。当たり前だ。得体の知れぬジジイに構っている暇はない。むしろ殺害現場を見られたかと焦りが募る。さっさと引き離そうと決意してーー
「先程見た
一閃。鍛え上げられた筋肉は、いつもの動きをトレースする。考えるより先に体が動く、右斜め上からの振り下ろし。バラニウムで出来た漆黒の大剣は、吸い込まれるように老人の肩口に消えーーー
ーーー首の皮一歩手前で止まった。
自主的に止めたワケではない。見られたからには殺すと、その瞳が語っている。実際に将監の筋肉は緊張し、ありったけの力を込められた大剣は、震えながらその刃を進めようとしている。
ーーー雫が光る。白濁した粘液が、将監の体の至るところについていた。
絡みついた粘液は空気に触れるとたちまち硬くなり、その場に将監を固定する。大剣を握った手も間接も、水飴によって固められたような有様だ。
下手人は臓硯のイニシエーター。両手の指先から粘性の高い液体を放出したせいか、僅かに指先がテカっている。
「クソっ!!」
「血の気が多いのう。儂は取引に来たというのに」
「取引だぁっ?」
相棒のイニシエーターに粘液を剥がして貰い、将監は疑惑の声を上げる。
構え直された大剣は、油断なく臓硯を指し示している。
「そうじゃ。ぬしが殺した民警ペア、そのままでは畜生共に喰われただ朽ち果てるのみ。それはあまりに酷かろう。まして、大剣による斬殺痕など見られて困るものでしかあるまい。
ーーならば、儂に譲ってはくれぬか」
場に静寂が満ちる。さすがの将監も困惑する。動転したのか司令塔のイニシエーターを振り返るが、その
「…それで、死体をどーすんだよ」
「こうする」
木々が、ざわめく。ボトリ、ボトリと掌ほどの尺取り虫が落ちる。血の海を掻き分け、ご馳走にあずかろうと歯を鳴らす。
ーーーキチ、キチキチ。
「なに。決して益になることしかやらんよ。お互いにとってのう」
瞬く間に虫食いだらけになった死体を前に、老人は商談を持ちかけた。
夏世ちゃん死にます。(次回予告)