刻印虫(ガストレア)   作:ワカメ#たまごすーぷ

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日刊ランキング載ってました!応援ありがとうございます!
これもfateの映画の影響かのう。

それとまた予告詐欺です。書いていたらギャグみたいになり虫爺登場できる空気じゃなくなったので完全オリ幼女回。
刻印蟲がわちゃわちゃしてるの見たいんじゃ!という人は次まで待ってくだしい。もう半分は書けてるからぁ…!


chapter4 終章後

里見蓮太郎は、かなり機嫌が良かった。

というか絶好調だった。帰ってきたばかりなのでもちろん体はボロボロだが、シャワーを浴びたせいか心なしかスッキリしている。乗っているおんぼろ自転車のペダルもかなり軽く感じて、頬に当たる風が心地よい。

背中に僅かに感じる重み。胴に回された小さな手は、眠りこけている少女自身をしっかりと座席に固定している。

滅亡の危機にさらされかけたことが夢だったかのような麗らかな日和。背中に感じる子供特有の温い(ぬくい)体温と、春らしい陽気につられてあくびがこぼれる。

 

「しかし、ここまで楽でいいのか…」

 

多々島警部の件を筆頭に、民警の仕事は命をかける。名が売れてないために失せもの探しなども請け負うが、それもそれで、地道で辛い作業だった。

それに比べると、少女の送迎というのは遥かに楽な仕事といえた。

…口約束だし、踏み倒されるかもしれないとは思う。でも、娘を大事にしているのは本当のようだし、どちらにしても少女を送っていこうと思う程度には、蓮太郎はお人よしだった。

そんなことを考えていると、目の前に屋敷が見えてくる。

一目見て思ったのは、ホラー映画に出てきそうだということだった。壁にはツタが這い、漆喰は所々剥げている。広い庭には草木が鬱蒼と茂っており、いくつかある窓はほとんどカーテンが閉じられていた。そんな寂れた洋館風の屋敷を見上げて蓮太郎は

ーー意外と小せぇな

などと失礼なことを考えていた。もちろん、比較対象は天童の屋敷である。

 

「おーい、着いたぞ」

「……」

 

声をかけて揺さぶっても起きない。仕方なくお姫様抱っこをして、インターホンを鳴らした。

いたって普通の、ピンポーンという呼び出し音。つかの間の静寂。

 

『…どちらさまでしょうか』

「民警の里見蓮太郎だ。臓硯に頼まれて小春を連れてきた」

『…話は聞いています。鍵は掛かっていないので、中へどうぞ』

「わかった」

 

行儀が悪いが、足で蹴るようにしてドアを開ける。玄関は寂れた外見とは裏腹に、小綺麗に掃除されいていた。

中には一人の少女が待ち構えていた。目につくのは大きなマスク。その上の紫色の瞳は、こちらをジッと凝視している。臓硯の娘の一人だろうか。ハイライトの消えた目で見つめられ、たじろぐ。

 

「えっと」

「…」

 

スッと差し出される両手。無言の圧力に負けて小春を差し出す。危なげなく抱えられた小春は、未だにぐっすり眠っている。突如、少女は小春の腹に顔をうずめた。

 

「えーと、じゃあ俺は帰るから、爺さんによろしく」

「…スンスンスンスン」

 

ここからでは少女の紫髪しか見えないが、どうやら匂いを嗅いでるようだ。

突然の奇行に引き気味の蓮太郎は、そのままゆっくり去ろうとして。

聞こえてきた少女の声に固まる。

 

「…知らないシャンプーの匂い。行きと違う服。すごく疲れて眠っていて、朝に終わったはずが昼前に帰宅。おまけに送ってきたのは男」

「おいやめろ」

 

傍らに小春を転がして、少女はゆらりと立ちあがる。溢れ出る殺気。いつの間にか、両手に黒光りする得物を握っている。

 

 

「…ふふふ、中華包丁で、性犯罪者は切れるでしょうか」

「バラニウム製の包丁なんざ、あってたまるかーー!!」

 

少女の足元が爆発する。玄関の三和土(たたき)を踏み砕く勢いで移動、跳躍し、一瞬で間合いを詰める。渾身の力で振り下ろされる両手。仰ぎ見る蓮太郎の頭上で、中華包丁がギラリと光る。

 

「三枚おろしにしてあげます!!」

「『轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)』ッ」

 

甲高い炸裂音がして、蓮太郎の右腕から空薬莢が排出(イジェクト)。爆速の拳が、包丁の刃をかちあげる。

そのままの勢いで、がら空きの胴にタックル。両手首を押さえて馬乗りになり、得物を振るわせないようにする。

双方共に荒い息を吐く。少女のマスクはいつの間にかどこかに飛んでいた。蓮太郎が弁明しようとしたとき、少女がゆっくり口を開く。

 

ーーマスクに隠されていた唇は、血色の良い桜色。唇に隠れるように小さな白い歯が覗いている。曝け出された口腔粘膜と小さな舌は、唾液にまみれて艶めかしく光っている。吐き出された吐息は、微かに甘い匂いがした。

 

目を奪われる。いや、さっき殺されかけた相手だぞ、正気に戻れと頭を振って。

ーー結果的に、それが彼の命を救った。

耳元でなる歯ぎしりの音。頬が薄皮一枚切れて、血がポタポタと落ちる。

少女の口から伸びた第二の『口』。横からみれば、少女の口からヘビが出ているようにも見えるだろう。

 

「ウツボかッ!」

「大正解」

 

咽頭顎(いんとうがく)』。ウツボの口のなかには第二の顎があり、それで獲物を喉奥に引きずり込む。映画の『エイリアン』といえばわかりやすいか。それが蓮太郎の首を噛みちぎらんとうごめく。

膠着状態に陥る。少女は蓮太郎に抑え込まれて身動きできず、蓮太郎は油断すれば死ぬ。互いを見張る姿は、第三者からすれば見つめあっているようにもみえただろう。

 

「梅おねえちゃん…?」

 

そして、ここにはそれ(第三者)がいた。

ハッとして振り返る。ボーとこちらを見る小春の、寝ぼけていた顔がみるみるうちに朱に染まる。

そして。

 

「じっちゃーん!おねえちゃんが蓮太郎にとられたー!」

 

ドタバタ消えていく末っ子。残った姉といえば

 

「ううう、ハルちゃんに誤解された…!不幸顔の性犯罪者なんかに…!」

 

号泣していた。

 

「メンタル豆腐かよ…」

 

あきれてため息を吐く。簡単な依頼なんて無かったと、蓮太郎は肩を落とした。




間桐小春 モデルカギムシ
間桐梅 モデルウツボ

見事にイロモノ枠で作った。後悔はちょっとある。
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