そこは真っ白な空間だった。天井もなく、壁もなく、果てのない、言葉通り真っ白な何もないだだっ広い空間だった。
懲りずに何度も辺りを見回してもそこには何もない、そこにはなにも存在せず、ただ白色の空間が広がっているだけ。
【俺】はふむと右手を顎に添えると考えるような仕草をし、慌てず冷製に自分はなぜこんなよくわからない場所、否、空間に居るのかを考えた。
手始めにここに来る前の事を思い出してみる。
ここに来る前、自分はファミレスのバイトをしていて確かその帰りだったはず…とここまで思い出したところで急に記憶に霧が掛かったようにその先のことが思い出せなくなる。この先の記憶がなにか重要なものな気がするが今はどうしようもないので気にしないことにする。
これでとりあえずここに来る直前の行動がバイトの帰りだったと理解すると次にここは一体なんなのか、辺りを再度見回し考える。
「……」
当然、見えるのはだだっ広い真っ白な空間のみでここがどこでなんなのかなど分かるわけ無いのだが。
額に冷や汗がじわりと滲み出る。
俺はまだ焦るべきじゃない、冷製に考えろと自身に言い聞かせるとここは何処なのかと再び思考する。すると声が聞こえた。
「ここは神界。いわゆる神の世界さ」
その声は透き通った、けどどこか幼さを感じる少女の声で、その声から奏でられる言葉はまるで自分の思考に答えるかのようだった。俺はそんな少女の声と言葉にビクッと驚きつつも後へと振り返る。
「やぁ、こんばんわ。突然で悪いけど今日、
◇
後ろに居たのは声で聞いた通り幼い少女だった。
格好はシンプルで、着ているものはこの空間にと同じくらい真っ白なワンピースにサンダル。髪は黒色の長髪で下ろしていて、顔は整っており幻想的と思わせるほど。幼さはあれど美しい、そう思わせる顔立ちだ。
だが俺はそんな彼女の容姿など一切目に入っていなかった。そんなもの当然だ。突然良く分からない空間にいて突然現れて突然自分に君は死んだなんて衝撃発言されれば誰だってそいつの容姿なんて気にせずまずその言葉の意図を問うだろう。
「えっと言葉の意図が分かりかねますけどとりあえずこの真っ白な空間は神様の世界であなたは神様ってことであってますか?」
「あぁ、察しが早くて助かるよ。最も、自分が死んだこを理解できていないようだけどね」
「死んだって俺はバイトからの帰りで気づいたらここにいたって言うか…」
その言葉を聞いて少女改め神様は先ほどの自分のように手を顎に添えるとなるほどと一人なにか納得した。
「覚えてない、いや正確には思い出せないのか。仕方ない」
言葉の意図が分からず俺はさっきから何を言ってるんだ、と言葉を口にしようとした瞬間だった。神様がパチンと指を鳴らす。すると俺の頭中に数秒の映像が流れ込んできた。
その映像は横断歩道を渡る俺がトラックに跳ねられる、というものだった。
思い出した。さっきまで霧の掛かったように思い出せなかったその先の記憶が鮮明に思い出せる。横断を渡っていたその最中、信号を無視して横からやって来たトラックに自分は跳ねられたのだと。
「思い出してくれたかい?」
俺の様子を見ていつの間にか腕組みをしている神様はそう俺に問いかける。
「あぁ。俺、死んだんっすね」
俺は不思議と冷静でいられた。恐らく未練などがないからだろう。これといって大きな後悔もやり残したことも無かったし。そんな事を考えながら俺がジっと神様を見つめていると
「そうだ。君はトラックに跳ねられ死んだんだ…
私のミスでね」
瞬間、は?っと言葉が口から漏れるように出た。俺は聞き間違えかな?と冷や汗を額に滲ませながらそんなラノベみたいなこと有るわけがないと否定し恐る恐る神様に聞いてみる。
「今私のミスって言いましたか?」
刹那。
そこには土下座姿の少女、否、神様が居た。この時、俺は確信した。あ、これ神様に間違って殺されたやつだわ、と。
「すんません!マジですんません!二次会の帰りだったんです!お酒の飲み過ぎで泥酔してたんです!すんません!マジ許してください!」
先ほどまでのミステリアスな雰囲気や神々しさはどこえやら、神様は俺の足元で土下座しながら両手を合わせ叫ぶように並みだ目で俺に謝罪していた。もはや口調やキャラさえも360°ガラリと変わっている。というかさりげに酒の飲み過ぎとか言ってなかったか?いやまぁ神様だし容姿がどうであれ年齢は自分よりかは全然年上なのだろうが。
「えーっとまぁ話はだいたい理解しました。要するに神様のミスで俺は信号無視したトラックに跳ねられて死んでここに居る、と?」
「あ、はいそうっす。マジですんませんッ!」
「あいや、別に怒ってないですよ、家族とか友人も居なかったんで」
ついでに恋人も居ませんがと付け足して言うと俺は土下座する神様に手を差しのべる。
「君は神か!」
神様の言葉に神は貴方でしょと苦笑いを浮かべ俺から差し出された手を神様はつかむと立ち上がる。
「それで俺はこれからどうなるんですか?」
ここで俺は本題に入った。ここで予想される答えはなろう系ラノベよろしく特典もって異世界転生しろってなるのがセオリーだが俺が今経験しているのはラノベじゃなく紛れもない現実だ。ぶっちゃけ元の世界に未練など有りはしない。さっき言った通り自分には家族はいないし友人もいなければ恋人も居ないのだ。人付き合いなど社交辞令程度しかない。追加して言うと読みたかった漫画もラノベもないし見たいアニメもやりたかったゲームもない。言葉通り未練など何一つもなかった。
神様はそんな俺の考えを知ってか知らずか予想通りの言葉を俺に言い放った。
「君は私のミスで死んでしまった。掟上、元の世界へと転生、または生き返らせることは出来ないからなろうラノベよろしく別世界への転生だね。」
神様は付け足してそもそもこんな状況自体初めてのことだから掟も糞もないんだけどと呆れたように言う。俺はつまり前例がないのかと思いつつじゃあどんな世界に転生するのか聞いてみる。
「君が行くのはあくまでも別世界であって異世界じゃなち。魔物も居なければ魔法何て物もない科学がある程度発展した世界さ。ぶっちゃけ元いた世界と大差ないね」
その答えに俺はなんとも言えない顔になる。確かに異世界に行って可愛い美少女達と出会いたいと思ったがよくよく考えてみればそれで仮にチートな特典を得たとしよう。その貰い物の力で美少女達に強いねとちやほやされて何が嬉しいか。かといって元いた世界と大差ない別世界に行ったところで以前と同じただ代わり映えしないつまらない人生を歩むことになる。
神様はそんな俺を見て、まるで自分が考えていることが分かっているかのように
「私は別世界へ行くならチート特典貰って異世界に行くね。そんでもって美少女達とイチャイチャするよ」
「……レズ?」
「悪いかい?性別なんてただの壁さ。そこに愛さえあれば関係ないよ。」
「いや別に神様の性癖をどうこう言ったわけじゃなくてだな、単にその容姿でレズってのはインパクトがデカイって言いたかったんだが…」
俺はレズという性癖を何処か誇らしげに語るロリ神様に表情同様なんと言えない視線を向けながらんじゃ特典くれよとそれとなく頼んでみる。神様はいいよと一言答え何がほしい?泥酔して殺してしまったせめてもの詫びだと申し訳なさそうに言った。
スクラッシュドライバー…とポツリと呟いた。
「なるほどスクラッシュドライバー…仮面ライダービルドか、了解。でスクラッシュゼリーは?ドラゴン?それともロボットかな?またはボトルのクロコダイル?」
「ロボットだ。」
「ほう、グリスね。君とは気が合いそうだ。」
神様はそう言って嬉しそうに笑うと何処からか要望したロボットスクラッシュゼリーとスクラッシュドライバーを取り出すと投げ渡した。咄嗟の事だったがうぉっとと、と俺は慌ててゼリーとドライバーをなんとキャッチする。いきなり投げんなよ!と怒るもその手にある本物を見てうぉ…と小さく歓喜の声を漏らした。
神様は神様で悪びれたようすもなくごめんごめんと笑うと特典も渡した事だしそろそろ君を別世界へと転生させよう、そう言ってこちらに手の平を向けた。
「何だかんだあったが…ま、俺は代わり映えしないつまらない毎日を過ごすとするよ。じゃあな神様、スクラッシュドライバーをありがとう」
「いいさお礼なんて。元は私が原因だしね。そのスクラッシュドライバーがあればちょっとは刺激のある日常が過ごせるんじゃないかな?、なんにせよ次は楽しめる人生を過ごすといい。それじゃ、良い人生を…『石動一海』君。」
俺はそんな何処か寂しげな神様の声を聞くと、瞼を閉じ、その意識を手放した。
◇
真っ白な空間、私は一人の人間を別世界へと送り、再び一人となった。神の世界、それはここのことを指す。だが神は私しかいない。故に私は彼と会話したことで心の何処かで少なからず寂しいと言う感情が現れ始めていた。
彼をこのままこの世界に、なんて考えようともしたが仮にも私は神様だ。そんな残酷な事出来るわけがない。私は先ほどまで彼がいた場所をしばらく見つめるとはぁ…とため息をはいた。
すると何処からか声が聞こえた。
《ずいぶんと寂しそうな顔をするが、神様が嘘を吐くなんてね。世も末だ》
私はその聞き覚えのある声にフ、と鼻で笑ってやると神様だって嘘の二つや一つ付くさと声に返事をする。
「神様にだってそのくらいの感情はあるさ。それに最初で最後の私の人間の話し相手である彼には楽しめる人生を送ってもらいたいからね」
心の底からそう思って
「そのための嘘なら、悪くはないだろう?」
私はもうその場には居ない彼を思って一人微笑んだ。
◇
ーー…ょ…と!
声が聞こえる。自分は地面にでも横たわっているのかやけに体の下がらゴツゴツした感触がする。だがそんなことはどうでもいい。寝ている場所が地面だろうが空だろうが眠いものは眠いのだ。俺はその場から起きることはせず目覚めかけていた意識を再び睡眠へと誘う。
ーーち…っ…!!
声が聞こえる。今度は先ほどよりも大きく確実に自分を起こす為の声だと寝ぼけている俺はようやく理解し、意識を眠りの海から無理やり引っ張りあげると嫌々ながらも上半身起こした。
「ちょっと!ってやっと起きたわね…急に倒れちゃうからびっくりしたじゃない、大丈夫?」
俺は声の主を確認すべくゴシゴシと目を擦る。声からして女の子だというのは分かるが何故女の子に自分は起こされているのだろうかと言う疑問が頭の中に浮かぶ。自分には友人は居ないし家族も居ない。勿論恋人もいるはずなど無いのだが……とここで俺は女の子の言葉から急に倒れた、と言うワードが飛び出したことにん?となり目を開いた。
そこには赤いリボンを付けたツインテールの少女が立っていた。少女は学生か何かなのか白と赤がベースの制服ような服を着ていて首に赤いチェックのリボンがネクタイのように巻かれ、左胸にはDOLLSという金のバッチが付いていた。
俺は急に倒れたという彼女の言葉にどう言うことだ?と疑問を抱くがだが少女の背後にそびえ立つ一つの建物に目を奪われ思考が止まった。少女の背後に映るもの、それは様々な建物のその先に円柱形の上に大きく109という看板を持つ建物、SHIBUYA109だった。
「なんで、俺、渋谷に居るんだ!?まさかあの夢…!」
俺は何が言っているツインテールの少女に気づか無いまま、左手に何か握られていたので見てみると少し大きめのボストンバックが。それもご丁寧にそのバックの持ち手には自分の名前、石動一海と書かれていた。慌ててバックの中身を確認すると、案の定スクラッシュドライバーとロボットスクラッシュゼリーが入っていた。
「現実だったのか、あれ…」
だとすると冗談抜きであの日自分は死んだことになる。しかもそれだけじゃない、あの神様の言っていた言葉が本当だったなら今自分がいるこの世界は全く別の世界いると言うことになり、つまり転生した、と言うことになるのだ。だが何故渋谷に?そう思った矢先の事だった。
「聞いてるの!!!」
耳元から女の子の声が聞こえた。しかもその声はかなりの大ボリュームで尚且つ怒と言う感情付きの。俺はキーンとなる耳を押さえながらドライバーとゼリーの入ったバックを持ち立ち上がる。
少女の声で完全に意識が覚醒したことで季節的に今は春なのか、若干肌寒さを感じるが今はそんなことはいい。俺はとりあえず自分を怒鳴った少女に視線を向ける。
二つの赤いリボンで結ばれたさらっとしたオレンジのツインテールに見てると吸い込まそうな青い瞳。顔は絵に描いたような美形でスタイルもいい。良く見ると少女はかなりの美少女だった。俺はアイドルでもやっていたらかなり人気ありそうだなと率直に思った。
少女はそんな事を考える俺に少し怒ったように、けれど心配する様子で
「突然目の前で倒れるからびっくりしたんだけど?で、大丈夫なの?」
「あ、あぁ。大丈夫、ちょっと立ちくらみしただけだから」
俺は一様そういいながらも万が一のため体調をチェックしておく。痛みを感じるところは特にないし調子も悪くない、寧ろ好調だ。体調もいたっていつも通り、だが強いて変だと思う所を挙げるとするならば体が妙に軽い、と言う所だろうか。
「そ、なら良いわ…でも一様病院には行くことね。それじゃ」
少女はそう言うと手を降りながらその場を去った。取り残された俺は既にその場には居なくなっている彼女にお、おうと一人言葉を返した。
ここで周りの視線に気づいた。そりゃそうだ、歩道のど真ん中でいきなり倒れた上にあんな美少女が介抱すりゃそりゃ誰でも足を止めて見るわな。今頃写真撮られてTwitterだとかで拡散させられてんだろうな。
俺は途端に恥ずかしくなり顔を真っ赤にしながらその場から走り去った。
場所は歩道から走ってまた別の歩道。俺は手近な階段を見つけ座り込むと自分が今所持している物を確認するべくバックやらポケットを探る。出てきたのはまぁ先ほどみた通りのドライバーとゼリーだけ…と思っていたがズボンのポケットにもなにか入っていた見たいで、それは何かのチケットだった。
なんのチケットだ?と思いながら表裏を見てみる。表は左側にDOLLSと言うアルファベットがピンク色に描かれており右側には白い枠があり中に日時が書いてある。
どうやらアイドルか何かのライブチケットのようだ。
裏には小さな地図と利用規約のようなものがずらっと書かれている。最も日時を確認する為の時計やスマホなど持っていないし渋谷なんて来たことがないため場所も日時も分からないのだが。
しかしこんなものが何故がポケットの中に入っていたのだろうか。生前の持ち物は着ていた服だけである。スマホや財布などは入っていないのだから恐らくこちらの世界に持っていくことは不可能だったのだろうがだとするとこのチケットは一体なんなのか。自分はアイドルオタクとかアイドルに詳しい人間ではないが少なくともDOLLSなんてアイドルグループは知らないし見たことがない。
ならばこの世界のアイドルなのかと思うがそれなら尚更何故自分のポケットの中に入っていたのか……無論どれだけ考えたって分からない。もしかしたらあの神様がスクラッシュドライバーじゃ足りないと思ってついでにくれたのかもしれないし倒れている俺に誰かがイタズラで入れたのかもしれないがそれだとそいつにはメリットがないから俺は後者の考えを否定した。
まぁチケットがポケットに入っていた理由がなんにせよ無闇に捨てるとか売るとかはしない方が良いだろう。特にこれと言った目的や目標の無い俺はこれからどうすっかなぁとDOLLSのライブチケットを見つめながらぼんやり考える。
どこぞの蜘蛛男みたいにグリスに変身して町の平和を守るというのもありだがそこらじゅうにいるスマホを見ながら道を行き交う人並みを見ると平和だな、とそんな気は失せた。
そう考えるとこのスクラッシュドライバーは遊び以外で使うこと無いかもなぁと俺は残念そうにため息を吐く。遊び以外にあるとしてもハロウィンの仮装に使えるくらいかとさらにため息を吐く。
「まいいか。とりあえずぼちぼち散歩でもしながらこれからの事を考えながら情報収集でもすっかね。」
そう言って立ち上った瞬間だった。
「そういや俺を起こしたあの女の子の制服にDOLLSってバッチがついていたような…」
あの時は転生のことやらなんで渋谷にやらでよく見ていなかった為確信のしようがないが仮にだとしたらあの時自分が考えたようにもしかすると人気があるアイドルなのかもしれない。
「つうことは最初に会った人物がアイドルだってことか?だったら幸先がいいなこりゃ」
俺はちょっと得したかもといい気分になると鼻唄を歌いながら渋谷の探索を始めるのだった。