結構悩みましたが基本一人称視点で書かせていただきます。
皆さんは誰推しですか?
※時節を間違えていたので修正。
※矛盾するおかしな一文があったので修正。
初夏の早朝、まだ春の涼しさが面影を残す中、朧気に瞼を開けた。カーテンの隙間から漏れる一筋の光が眩しくて手をかざす。
……やがて頭の靄も晴れてきたので、体を起こしてカーテンを開けました。
今日も新しい朝がやってまいりました。
外のお庭では桃色のリコリスと紫のコスモスが美しく咲いております。
こういう時こそ朝のティータイムを過ごしたいところです。此方だとサロン・ド・テでしょうか?
あの子は甘い方が好きですし、今日は無難に甘めのカフェオレにしましょう。
珈琲とミルクは5:5が基本です。
……こほん。
先ずは自己紹介と行きましょう。何事も始まりが大事とはよく言いますからね。
私の名はヴィオレット・デュノア。
デュノア家の長女でございます。
今時量産され尽くした特典付きの転生者でもあります。
どんな基準で私などを転生させたのかは神様に聞かなければ分かりませんが、せっかくですから前世よりも楽しい人生を送れたらなと愚考しております。
因みに特典の中身ですが、某同人誌ゲームでお馴染みのスキマ妖怪さんの能力を頂きました。
これが凄いんですよ。ちょっと動くのが面倒だった時に空間をくぱぁっと開いて遠くの物を引き寄せられるんです。いやあニートが捗る…じゃなくて、とても便利な能力なんです。
しかし何の変哲も無い一人間が扱う所為か、広範囲に展開したり多数同時に出したりするのが非常に難しいんですよね。
さらに物体に対して効果を発揮するには結構な集中力がいる上、大雑把にしか行使できません。
具体的にいうとグラスを割ることはできても曲げることは出来ないんですよ。
上手くなれば割らずに曲げるとかも出来ると思いますがね。
まあ現状はスキマホールとしてしか使っていません。
これを苦もなく使いこなせてる永遠の17歳の実力の程がよく分かりますよ。
凡人にF1カーは乗りこなせないのと同じ様なものですね。
転生の恩恵は寧ろ生来の頭脳の方が大きいでしょう。前世はお世辞にも頭がいいわけではなかったので、すいすい記憶出来る今の身体は便利すぎて怖いくらいです。最近は技術革新もめざましく、毎日毎日新しい知識が増えていくのを実感できるのは楽しいですね。
キッチンでカフェオレの準備を一通りできたら談話室に向かいます。
元々は応接間の要素が強かった部屋ですが、どうせ誰も来ないことですし私達の団欒の場にしてしまおうと考えた訳です。
上の部屋が寝室なので静かにコーヒーセットを置き、窓側のロッキングチェアに腰掛けてあの子が起きるのを待ちましょう。
フランス人は時間にルーズなのです。
左手の平を上に向けてスキマで書斎にある適当な本を取り出します。スキマから落ちてきた本を丁寧に掴み、栞紐が挟まれた部分を開きました。
異形の力であることは自覚しているので妹や他人の前では使えませんが、こういう一人きりのときはいいでしょう。
本の題名は『特殊相対論とPIC』。
前世なら読む前に投げ捨てるだろう分厚さの学説本のページをめくりました。
PICとは"慣性制御システム"といい、これも前世には無かったものですね。
他にも色々ありますが、今日の技術革新の大半はとある兵器(?)によってもたらされているようです。
で、それこそが、インフィニットストラトス。通称IS。
前世で聞いたことがあるタイトルネームですね。はい、そのISのようです。
なんか色々なオーパーツを詰め込んだ色物スーツです。
現行の兵器では歯が立たないそうです。所謂最強伝説ですが、原作では生身の人間に落とされたり簡単に無力化されたり……眉唾物ですね。
さらにゲッターよろしく成長進化する特性があり、その進化が技術革新の原因だそうですがそれは兵器としてどうなんでしょう?
しかもISを動かすためのコアは開発者でもよく分かっていないらしいのです。おい生みの親。
しかし当分はこのISの仕組みを理解することで暇つぶしが出来るので、よしとします。
いつか生身で空を舞ってみたいですね。
ページをめくる音と、時計が針を進める音、そして外の自然の音だけが心地よく静寂を埋めていきます。
ここは都会からは遠く離れた洋館ですので、下手な雑音もしません。
庭の手入れや家の掃除が大変ではありますが、逆を言えば暇つぶしに掃除するだけでぐーたら出来るので儲けものです。
そんなことを考えたりしていると、不意に上の階の部屋の扉が開く音がしました。とてとてと足音が聞こえてきます。
といっても私以外の住人は一人しかいないので特に動揺することもなく本を読み続けました。
そうして待っていると、この部屋の扉が開いて綺麗な金髪の少女が顔を出しました。
「あ…おはよう、お姉ちゃん」
「ええ、おはようシャル」
深い藤紫色の宝石を思わせる瞳を此方へ向けて、我が妹は微笑みました。
この子こそ私の妹、シャルロット・デュノアです。
まだ眠いのか目の下を擦りながら惚けた目で向かいの椅子に座りました。可愛い。
シャルは天使です。私の天使で妹です。
目に入れても痛くないとはまさしくこういう事なのでしょう。
甘えん坊であざとくて、それも含めて可愛いです。
「まだ眠いの?はいどうぞ」
「ありがとう、お姉ちゃんは早起きだよね」
シャルはえへへ、と笑って用意したカフェオレに軽く口をつけました。
作ったばかりですからまだ熱いのでしょう。困ったような顔をしてテーブルに置きました。
それを見て思わず頬が緩んでしまいます。
シャルも私も同じ母親から生まれた子ですが、その母は一月前に不治の病で亡くなって、父は私達を放置して会社に精を出しているようです。
しかも正妻として他の女を娶っているそうです。
流石は雄鶏を国鳥に持つ国の男ですね。くたばれ。
そんな訳で母の愛人時代の遺物なんかを売り払ったお金で当分は凌いでいましたが、母の負債を取り立てるとかどうとかで大半は取り上げられてしまいました。
流石に残りの資産だけで家計を回すのは将来的に難しいことは明白でした。
義務教育ゆえ教育費が無料で済んでいるのが救いでしょうか。私達の家計事情はお世辞にもいいとは言えませんからこれは有り難かったです。
シャルをちゃんとした学校に出してあげなければいけませんからね。
私は前世で一度学んでいますから、後は本やネット、指定の教科書などを読めばなんとかなります。
なので、学校は行きつつも休日等に町の孤児院で子供達の相手をしたり、学べない子供達の為に臨時教師として習い事を教えたりしています。
なのでシャルの相手をしてあげられない日があるのでとても心苦しいのですが、シャルは理解を示して応援までしてくれました。やはり天使っ。
今日は特に何も無いので思う存分構い倒せます。
さあさあシャルちゃん、お姉ちゃんとお医者さんごっこしましょうねえ〜。
……なんて事をするとお姉ちゃんの威厳が地に堕ちるので、お姉ちゃんは優雅にティータイムを過ごしています。時折目が妹の方を向くのはご愛嬌。
でもやっぱりシャルは可愛い。ぐぬぬと唸ってカップを両手で包んでカフェオレが冷めるのをじっと待つ姿は小動物のそれです。
時々こっちを向いて顔を赤らめて恥ずかしがるのも可愛らしい。
「……お姉ちゃん」
「どうしたの?シャル」
目尻を下げて私を呼ぶので、なるべく優しく応えます。
どうしたのでしょうか。
「お姉ちゃんは夢とか見る?」
夢ですか、私も夢を見ることはたまにあります。この前は林檎のタルトがパイ投げの如く大量に降ってくる夢でした。タルトは大好きですが、空から降ってくるのは流石にご遠慮願いたいです。
「ええ。もしかして夢を見たの?」
「うん…空を飛ぶ夢」
空を飛ぶ夢ですか。それはさぞ気持ちの良い夢だったことでしょう。…しかしシャルに羽が生えたら本物の天使と見分けが付かなそうです。絶対に見分けてみせますが。
空を飛ぶといえば人が一度は夢見る偉業でした。今でこそ航空機に乗れば簡単に実現出来るものでしかありませんが、今でも何の助けなく鳥のように飛びたいと願う人は多いと思います。
「どうだった?」
「風を切るように飛んでいて、楽しかった。…夢だけど」
楽しい夢というのは起きる時には忘れてしまうと言いますが、シャルは覚えていたようです。
しかし覚えているならば、起きた時の失望感は大きいでしょうね。
「あんなふうに飛んでみたいなあ…」
「最近は技術の発達が早いから、大人になる時には出来るかもしれないわね」
今でもISで出来ることは出来ますが、あれは国家の管理に置かれているので飛ぶ場所や時間が縛られるのが問題になりますね。そんな窮屈な状態では"自由に飛ぶ"感覚を得られるかは疑問です。
出来るとすればISが量産化されたりして用途が多角化するようになることですが、現状ISコアは開発者の篠ノ之束しか出来ないようですし、解析の方はかの
私も何処かで私の能力の元ネタのように自由に飛んでみたいと思っているんですから是非量産して欲しいです。
ああ、何で魔法のような科学が発展したと思ったら軍やら兵器やらに使われてしまうのか。
軍事利用を禁止する条約を結んでおきながら各国は素知らぬ顔で兵器(国は否定している模様)として開発している現状は国という組織の闇を垣間見ることが出来ます。
アラスカ条約が息をしていませんね。
何よりも酷いのはそれを知って尚賛同する世間の人達です。
先進国の流行りは"女尊男卑"らしいですよ?なんでも最強のISを使える女が生物的に優位で男はただ使役されるべきだとか。
その風潮は先進諸国から中進諸国まで広がり始めているらしいです。
……なんで21世紀にもなってアマゾネスしてるんですか。
革命、戦争と膨大な死体と引き換えに築いた"平等"や"平和"はどうしたんですかね。
「空はこんなに青いのに」
「急にどうしたのお姉ちゃん」
思わず溜め息をついたのを訝しく思ったのかシャルが聞いてきます。
大したことではありませんよ。この世の世知辛さを憂いているだけですから。ええ。
変なものを見るような妹の目線から逃れるようにカフェオレを仰いで窓から空を見上げると、綺麗な青空が広がっているのが見えました。
「でも今日はよく晴れてるね」
「ええ」
とても。そう言って本を膝に置いて、遮るものの無い太陽に手をかざしました。
木漏れ日の光を通り抜けて、鳥の鳴き声が耳を擽ります。
「絶好のピクニック日和ね」
「いいね、ピクニックしようよ」
「フフッ、それじゃあ準備しましょうか」
兵器が世論を動かす世界。それがこのISの世界。
それでも世界は概ね平和なのですから、それはとても素晴らしいことなのだと思います。
批評、感想お待ちしております。