シャルロッ党のお姉さま   作:小雲八泉

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 ほのぼのギャグ調の方が性に合ってるんじゃないかと思う今日この頃。

誤字報告、感想助かりますm(_ _)m


9.感謝と思い出の話

「貴女は……」

 

 

 白銀の髪を切り揃えた女性は、軍人のようなキリリとした整顔に伸ばした指先を掲げ、敬礼の形をとりました。

 流れるような所作に気負った気配が一切無く、彼女が軍属、若しくは元軍人と容易に想像が付きます。

 

 軍人で女性とくれば、やはりISの部隊員だったのでしょうか。さり気なく付けられたヘアピンがキラリと光りました。

 

 

「お初にお目にかかります。デュノア社専属テストパイロット、ディアナ・ダヴィドフと申します」

 

 

 その人、ディアナさんは大変力強い笑みでそう挨拶してきました。ロシア系の方でしょうか。これまた整った麗人でして、長髪なのに男装が似合いそうな不思議な雰囲気を纏っていました。

 雑誌で見るような新しいタイプの女性にドギマギしながらも、取り敢えずと挨拶を返しました。

 

 

「ヴィオレットです。このままの体勢で話してもいいですか?」

 

「はい。どうぞ楽になさってください、お嬢様」

 

 

 手を下げて畏まったようにそう言うと、シャルに促されて面会人用の折りたたみ椅子に座りました。さすシャル。

 

 しかしお嬢様と言うことは、父の遣いと見て間違いないでしょう。シャルにも同じような三人称を言っていたらしいですし。

 それに、そんなはっきり『特別扱い』のような呼び方で呼ばれても反応に困ってしまいます。どちらかといえば田舎の母の子の認識が強いのです。

 

 そんな照れたような、モヤモヤするような心の感触を胸中に抱いていると、彼女から唐突にパッと頭を下げられて瞠目しました。

 

 

「先ずはヴィオレットお嬢様。この度は御二方を危険に晒してしまい、本当に申し訳ございませんでした!」

 

 

 そう言って腰をへし折らんばかりに平謝りするディアナさんに、ポカンと口を開けて呆けてしまいました。自己紹介後のすぐ後に謝られるなんて初めての経験でして、どう対応すれば良いか分かりません。

 しん、と静まり返った部屋で、ディアナさんが頭を下げているのを目を点にして見る二人。

 かなり異様な光景でした。

 

 

「と、とりあえず頭をあげてください」

 

 

 咄嗟に出てきた言葉がそれでした。というより、それしか言えませんでした。

 平べったいくの字を繋げたようなベッドから、悲痛な顔で頭を上げるディアナさんを見るしか出来ません。

 

 

「しかし、なんとお詫びすれば良いか……」

 

「ええと、そうですね。事の次第を分かる範囲で教えていただければ嬉しいかなと」

 

 

 とにかく情報が欲しいです。どうしてISの戦闘が近くで起こったのか、あの女の所属とか、知りたいことは多い。

 そうお願いすると、二つ返事で了承してくれました。

 

 

「分かりました。私が言える範囲でお答えします」

 

 

 そうして、ディアナさんは話し始めました。

 

 

「私はデュノア社のテストパイロットではありますが、同時にアルベール様の腹心として働いていたんです」

 

「父の?」

 

「はい。元フランス空軍のIS部隊に所属していた経験から、様々な仕事を任されました」

 

 

 大半はテストパイロットとしてですが、と言いました。

 

 デュノア社の製造するIS《ラファール・リヴァイヴ》の設計思想に、信頼性の高いパーツと内部構造、汎用性に富む武装と運用姿勢が求められたらしく、軍人だったディアナさんはそのアドバイザーとして貢献したのだとか。

 テストパイロットもほぼ単独でこなしていたそうです。

 

 その結果出来上がったのがあの傑作機ですか。何気に凄いことしてますねこの人。

 

 

「名前もラファール・"リヴァイヴ"ですから、空軍の象徴であるラファール機の"再来"とあっては気合も入りました」

 

 

 そう誇らしそうに言うディアナさんに、確かにと一人納得しました。

 

 フランスにとってラファールは、いわばアメリカのF-22ラプター、日本にとってのF-3のような、軍の威信をかけた産物です。

 ISによってそれを世間から否定された彼らにとっては今でも、ラファール(疾風)の名は決して軽くはないのでしょうね。

 

 特にラファールは前共同開発計画で要望を無視されたフランスの意趣返しも込めて、ユーロファイターに負けないようかなり頑張ったそうですから。

 その名を冠するラファール・リヴァイヴも、それはもう大々的に報道してましたし。

 

 

「まあそのような話は後ほど。……私が今回アルベール様から任されたのは、御二方を隠れて警護することでした。

 先月から御二方のことを見ていたんです」

 

「そんなに前から……」

 

 

 ということは、シャルとピクニックに出た時にはもう見られていたのでしょうか。監視されている気配なんて微塵も感じませんでした。

 ISは五感を高める機能が備わっているので、おそらく遠くから見ていたのかもしれません。

 

 あ、あの時のISがディアナさんだったんでしょうか。

 流石名探偵ヴィオラちゃん。

 

 

「いいえ、あのISはただの訓練生のモノです。訓練にしては高度が低すぎたので後で怒鳴っておきました」

 

「あっはい」

 

 

 違いました。哀しい。

 

 脳内で掛けた伊達眼鏡がすっ飛んでいくのを哀愁漂う感じで眺めていました。

 

 そんな一人漫才を脳内で披露していると、ディアナさんの声がみるみる萎んでいきました。

 

 

「そうしてあの日まで警護を務めさせて頂いたのですが……あの賊達(・・)を相手に遅れを取ってしまいました。本当に────」

 

「ストップです」

 

 

 この人あれです。一つの失敗を長く引きずる私と同じようなタイプです。

 分かりますとも。償いきれない責任は恐ろしいですよね。

 

 ──うん? いま()って言いました?

 

 

「待ってください、あの、女は一人ではなかったのですか?」

 

「はい、三人いました。二人は撃ち落としたのですが……最後に不覚を取ってしまいました」

 

 

 しょんぼりと言うディアナさんを焦点の合わない目で眺めながら、私はサッと背筋が凍る思いをしました。

 ……ディアナさんが残り二人を落としていなければ、シャルを逃しても意味がなかったかも知れない。

 いえ、彼女がいなければ私達二人共────。

 

 

「いえ……でしたら、こちらからも御礼を言わねば」

 

「いいえ! 本当は御二方に危険が及ばぬよう倒し切らねばならないのに──『私達を救ってくれてありがとうございます』っ!」

 

「私の感謝を受け取ってはくれませんか?」

 

「……はい、有難く」

 

 

 どこまでも愚図ってしまいそうだったので、遮ってでも感謝の言葉を伝えました。

 三対一で二人撃破した後にあの女と戦ったディアナさんは相当な手練れなのでしょう。

 シャルが駆け付けた時に素直に引いてくれたのは、ディアナさんがシールドエネルギーを削ってくれていたからかもしれませんね。

 

 考えてみれば人類最強の兵器に狙われて生きていただけで儲けものですし、何よりディアナさんは命の恩人ですから。

 

 私達の感知しないところで色々あったようですが、一先ずは父がシャルの味方なのがはっきりしただけでも嬉しいものです。

 

 

「ディアナさんがISを託してくれたからお姉ちゃんを助けられたんです」

 

「シャルが駆け付けてくれたのも貴女がいたからです。むしろ誇ってください」

 

「っ、──ありがとう、ございます!」

 

 

 感極まったように再び頭を下げられて、お固いなあと二人して呟いて、シャルと顔を見合わせて笑い合いました。

 

 こんな人達がいるデュノア社なら、私達もやっていけるかもしれません。

 

 

「それにお礼を言うのはまだ早いかもしれませんよ?」

 

「へ?」

 

「デュノア社のこと、父のこと、ISのこと。聞きたいことは山ほどあるんですから、しばし付き合ってくださいな」

 

 

 身体を起こさないまま、しかし期待を込めてニヤリと笑った私に、ディアナさんが目を丸くして固まるのを思考の端に捉えました。

 シャルの身を守るためにも、あらかじめデュノア社の内情を知る必要があるのは疑いようもありません。

 

 それに、フフフ……今世で蓄えた知識を補完するまたとないチャンス。そうそう逃せはしませんよ。

 

 

 

 

 

「ダメだよお姉ちゃん。安静にしなきゃいけないんだから」

 

 

 が、ダメ…………!

 家内カースト最上位の妹による、圧倒的不許可……!

 

 磬子(けいす)が鳴って灰色に染まる私を尻目に、シャルがディアナさんに向き直りました。

 

 

「ディアナさん。そろそろお姉ちゃんを休ませてあげたいので、このくらいでお願いします」

 

「あ、はい。分かりました」

 

「いや、あの……」

 

「退院したてなのにわざわざ来て頂きありがとうございました」

 

「いえいえ、こちらこそ宜しくお願い致します」

 

 

 有能シャルによる迅速な対応に涙が出ますよ。

 違います待ってほしいんです。ISの構造とか敵の組織とか聞きたいことがいっぱいあるんですよ!?

 

 

「では、失礼します」

 

「はい。お疲れ様です」

 

 

 しかし現実は非情で、ぴしゃりと閉まった扉を黙って見送るしかありませんでした。

 思わず涙目でシャルを責めるように見ても仕方ないと思います。

 

 

「シャルっ!なに──」ピトッ「っ」

 

「お姉ちゃんも聞きたいことはいっぱいあるんだろうけど、怪我人なんだから無茶はしちゃダメだよ」

 

 

 ジト目に近い視線で私を窘めるシャルの、細い人差し指が私の唇を止めました。強制的に言葉に詰まりながら、頬に紅が射すのを感じます。

 

 おかしい。私が怒ってるはずなのに逆に叱られてる気がします。

 

 

「そんな、私はまだまだ元気よ」

 

「本当に?」

 

「え、ええ」

 

「疲れてきてるし、瞼も重くなってるでしょ? 隠しても分かるんだよ?」

 

「うっ」

 

 

 バレテーラ。

 そんな無駄なところでハイスペックを発揮しなくてもいいんですよ。

 

 

「ひ、人って意外ともつものなのよ?」

 

「お姉ちゃん?」

 

 

 ダメみたいですね。

 これ以上食い下がっても認めてくれそうにありません。

 もうちょっと情報が欲しかったのですがね。

 

 ……最近シャルの押しが強くなってきた気がします。

 

 

「お姉ちゃんはもっと自分を大事にして」

 

 

 言われるほど危なっかしいですか?

 確かに今回はやってしまいましたが、普段は寧ろ欲望に忠実な姉だと思うのですが。

 

 溜まった淀みを吐き出すように溜め息をつくと、堪えていた眠気が一気に襲ってきました。

 

 

「んむぅ……」

 

「眠い?」

 

「少しね」

 

 

 そう言うと、シャルは寝たままの私の手に手を重ねて「寝るまで一緒にいてあげる」と言いました。

 暖かい体温と微かな心音を感じて、心地良い静寂が流れます。

 

 

「お姉ちゃんがベッドで寝るのを見るのは久しぶりかも?」

 

 

 そういえば、シャルと一緒に寝るのはいつからやめたんでしたっけ。

 詳しい日は定かではありませんが、シャルが恥ずかしがって一人で寝ることを覚えたからでしたね。

 

 母と二人で微笑ましく見ていた記憶があります。

 

 

「むーっ、二人してバカにして……」

 

 

 そんなことはありませんよ。

 それくらいシャルが好きで可愛かったんです。

 

 そういえば母と私は何かと話が合うので、母直伝のカフェオレの作り方やタルトの焼き方などを伝授してもらったものです。

 

 シャルは絵本が好きでしたから、よく母の膝の上に乗って一緒に読んでいて、騎士様とお姫様の物語に目を輝かせていましたね。

 

 

「懐かしいなあ……あの頃に戻りたいよ」

 

 

 そうですね……。

 母は天寿を全うしましたが、いつかまた、あの時みたいに一緒に。

 

 今度は父や義母とも……一緒に……。

 

 

「すぅ……」

 

「…………」

 

 

 その後のことはよく覚えていません。

 しかし、悪い夢は見なかったと思います。

 

 

 

 

 

 

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