シャルロッ党のお姉さま   作:小雲八泉

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期待されたら書きたくなる性分なのよね(´つヮ⊂)




12.外食と適性の話

「お姉ちゃんってさ、割と抜けてるよね」

 

「うっ」

 

 

 ご機嫌よう、皆さま

 無理が祟って数日寝込んだヴィオレットです。

 

 先日の親との初対面の後、体調も気にせず怒り狂った所為で熱が篭ってしまいまして、数日寝たきりになってしまいました。

 シャルには本当に心配をかけています。

 

 思えばあの女性の性格は『原作』でも変わらずでしたね。あの人が義母になるのですから、こちらとしては面倒なこと請け合いです。

 

 こんな家庭に晒されていたのなら、『原作』シャルが家族をまるで信用しなくなるのも仕方ありません。

 私達の母は妾と言われてはいますが、一般世間的にぶっちゃけると浮気相手です。正妻の義母が母を憎むのも頷けはします。

 

 しかし、親の罪を子に着せるのは何処の世界でもやってはいけないことの一つだと、そう思うのです。

 人は生まれる場所を選べません。長い経験を積んだ大人こそそれを自覚するものだと思うのですが、新しい家族はその辺りの理解には疎いようです。

 

 まあ人を変えるのは一朝一夕で出来るものじゃないですし、それまではハリネズミの如く距離感を抑えていくしかありませんね。

 

 

「ブルゴーニュ産シャロレー牛ステックシャトーブリアン、ブルーベリーソース和えです」

 

「わあ……」

 

「美味しそう……」

 

 

 絢爛なシャンデリアの下、テーブルクロスに載せられたメイン料理が置かれます。室内の光に照らされて輝く肉に二人で感嘆の声を漏らしました。

 

 色々な手続きも終わりまして、私達は漸く念願の外食ランチを堪能しています。

 ランチなので量は控えめなようですが、それでも一流のシェフが手掛けた料理は大変美味しくて頬が緩んでしまいそうです。

 

 

 こちらはフランス原産の牛、シャロレー牛のステーキです。日本でいう黒毛和牛の立ち位置にいる牛なのですが、シャロレー牛は和牛と違い白い牛なのです。

 厳選されたシャロレー牛でも一等高級なシャトーブリアンともなれば、それはもう頬っぺたが落ちるほど美味しいはずです。

 

 はしたなく喉が鳴るのを抑えながら、一口に切り分けた肉を慎重に口に運びました。

 では頂きます……。

 

 

「…………ふぁあ」

 

 

 一口咀嚼した瞬間に、濃厚な味わいが香りと共にやって来ました。甘いとすら表現できる脂と赤みが絡まったフィレが実に良く、味付けも素晴らしくマッチしています。

 

 最早言葉もありません。本物の高級料理とはここまで美味しいものなのですか。

 

 

「……すごいね」

 

「ええ、本当」

 

 

 二人で頷きあって、その後はもう一言も発さずに料理を堪能していました。

 抑えきれなくなった頬を緩ませながら。

 

 料理は人を幸せにするのだと改めて思いました。

 

 

 

 

 

 

 その後、いくつか買いたいものを購入して帰路に戻りました。

 買いたいものとは、マドレーヌ型フレームや専用メジャースプーンに専用シリコンマット……はい、製菓器具です。

 

 やはりお菓子とカフェオレは生活必需品だと私は思うのですよ。お菓子作りはそれだけでストレス解消にもなりますし。

 カフェオレ用のものは家にもあるみたいなので、製菓材料と器具だけ買って帰ろうというのです。

 

 メイドさん達にキッチンの使用許可は頂いているので、思う存分腕を振る舞うことが出来ます。

 

 彼女らの怯えた目線が兎に角居心地が悪いので……。

 

 ぷるぷる、ボク悪い娘じゃないよ!と伝えるためにも甘味で餌付けは必須なのですよ。

 何作りましょうかねえ、あんまり大きいものだと業務に差し障りがあるかもしれませんし……マカロン・パリジャン辺りが無難でしょうか。

 色も付けられて女性受けしますし。

 

 皆さんはどんなお菓子を食べます?

 やはり量産もののポテトチップスや煎餅、ビスケットの類でしょうか。

 

 大量生産大量消費の現代では多少の妥協は仕方ないのかも知れませんが、お菓子好きとしてはやはり職人手作りのお菓子を口にしたいのです。

 

 お菓子は太るとはいいますが、そもそもお菓子は決まった間隔を取って少々嗜むもの。腹が膨れるまで食べる人は間食か何かと勘違いしているような気がします。

 それも現代スタイルと言うかも知れませんが。痩せたいなら妥協無く運動をすれば良いですしね。

 

 大体5キロメートルをキロ5分くらいで走ってればいいと思います。男性はもう少し早い方がいいのでしょうか?

 

 

「あ、あの。お菓子作れるんですね」

 

「ええ、私の特技なんです」

 

 

 舗装された道をカラカラと車椅子で進みます。

 個人的にはもう車椅子要らないんじゃないかと思うのですが、冒頭でもあるようにまだまだ本調子には程遠いので、外を出歩くときはメイドさんに付き合って貰い車椅子に乗っています。そうしないとシャルが怒るんですよ。

 

 ただ病院の車椅子は返却して、デュノア社の電動車椅子を使っています。

それなら付き添い要らないじゃんと思いましたが、電動で動くとはいえ所詮車輪の付いた椅子、ちょっとした窪みにハマるだけで動けなくなるので……。

 

 

「お姉ちゃんの作るお菓子はとっても美味しいんだ」

 

「せっかくだし、メイドの皆さんにも振る舞いましょうか」

 

「そんな、恐れ多いですよ」

 

 

 上擦った声が上から聞こえて来ます。

 遠慮など要らないというのに。なんなら食べてもらった方が有難いんですよね。

 

 

「じゃあ、私の練習用に作るお菓子の処理という名目で」

 

 

 お菓子作りは勿論最初から上手くできるわけではありません。普通の料理よりも精密な腕が必要ですし、素材もデリケートなものばかり。そうなると当然失敗することもあるわけです。

 

 私は流石にもう慣れた菓子では間違えませんが、最初の頃は出来上がった大量の失敗作をどうするか悩んだものです。

 その時は結局半分は捨てて、どうにか食べられそうなところを昼のおやつにしていました。

 シャルは時折横から食べていましたが、本人の心境は兎も角、私にとっては有り難かったですね。

 

 

 

 

 デュノア家の方は相変わらず大きく、植えられた木々で目立ちにくくなっているとはいえ遠い距離でも分かります。

 あれだけ大きいと維持費だけでもバカになりませんね。

 世の中にはたったワンルームをゴミ屋敷に変える人もいますが、たとえ掃除好きな人でもあれを綺麗に保ち続けるのは骨が折れることでしょう。

 

 門前までくると柵状の前に何やら黒々としたシルエットが止まっていました。

 数日前にも見た縦長リムジンです。

 

 ────あら、あの影は。

 

 

「お疲れ様です。お嬢様」

 

「ディアナさん!」

 

 

 相変わらず綺麗な銀髪をストレートに垂らして、ディアナさんは流麗に労ってくれました。

 数日振りとはいえまた会えて嬉しい反面、デュノア社の社員である彼女が来る用事が少し怖くもあります。

 

 

「どのような用事で?」

 

「申し訳ありません、お二方に……」

 

「まあそんな気はしてた……」

 

 

 げんなりしたシャルと言葉通り申し訳なさそうに頭を下げるディアナさんに苦笑いを返すしかありません。

 デュノア社とは言いますが、別にデュノア家の私兵というわけではありませんし、そう小間使いのように私事に回せるとは思えませんから、恐らく仕事として来たのでしょう。

 

 お互いの身の上を笑い合い、咳払いと共に話が戻されました。

 

 

「シャルロット・デュノア様、及びヴィオレット・デュノア様。アルベール様がお呼びです。御足労願います」

 

 

 

 

 

 

「……私達をテストパイロットに?」

 

 

 ところ変わり、現在デュノア社の地下の通路を進んでいます。壁そのものが蛍光パネルのように光り、一切の影を写さない不思議な空間です。

 デュノア社の地下にこのような場所があったとは。ただでさえインフラの尽くを地下に埋めているのに……。

 

 

「はい。社長はお二人の潜在的な才能を感じたのだとか」

 

「どこからそう感じたんだろう?」

 

「所謂シックスセンスというヤツでしょう」

 

(流石に理由付けが強引すぎませんか……?)

 

 

 そんな話をしながら進んでいくと袋小路のような場所に出ました。白い壁が上下複雑にスライドして、ひどく開放的な空間が顔を出しました。

 中心を貫く一本の柱。それを囲うように円状の全窓が張られ、何十にも渡る階層に白い服を着た研究員がそれぞれの業務に従事しています。

 

 例えるならばSFに出てくる最先端の研究室。

 ハリウッド映画もかくやの巨大地下施設に惚けた声が漏れました。

 

 

「うわぁ〜」

 

「これは……」

 

「ようこそ。デュノア社の秘密の地下研究施設『ラグランジュ』へ」

 

 

 地上施設の地盤を支えているのだろう天を貫く巨大な柱に大きな文字で『La:grange』と銘打たれています。

 ラグランジュはフランスの著名な天文学者の名前からとったそうです。ラグランジュポイントは知ってましたが、アレはその方の功績だそうな。

 そんな偉人の名を取った施設は、見ただけで膨大な資金を費やしたのだと理解できました。

 

 

「──これ全部ISのためだけにあるの?」

 

「はい」

 

 

 ディアナさんは然りと頷きました。

 ISのためだけに、ですか。聞けば、地上のビルはISに関する営業や経理。こちらは最先端の技術を実験、研究する場所だそうです。

 ここに連れてきたということは則ち、そういうことなんでしょうか?

 

 

「……私達が実験対象とか言いませんよね?」

 

 

 一応、恐る恐る聞いた私に対して、ディアナさんは可笑しそうに笑いました。

 

 この世にISが生まれた直後の黎明期ではそういうことも往々にしてあったらしいですが、現在では厳しく規制されているのだとか。

 国連の擁するIS委員会が『ISは女性しか乗れない』と早々に結論付けたのはそんな背景もあるのだそう。

 

 

「それに、デュノア社の社訓にも反しますから」

 

 

 だから心配しなくても良いと言って励ますように笑いかけました。

 

 だったら、良いのですが。

 やがて一つの部屋に入りました。そこにはいくつかのケーブルで繋がれたISの外殻が鎮座していて、ISには丁度一人分のスペースが空いていました。

 

 

「"初期化(フォーマット)"を施したISです。貴女方にはこのISに搭乗して頂きます」

 

 

 ケーブルは乱雑に撒かれていて、急ごしらえ感が滲み出ていますね。私達の為にジェバンニが一晩でやってくれたんでしょうか。

 

 

「お姉ちゃん、あれ多分ラファールだよ。装甲とか色々外れてるけど」

 

「ほんと? 全くそうは見えないわ。というか待機状態ってもっと小さいんじゃないの?」

 

「あれは個人に合わせて形を変えてるんだ。初期化段階だと外殻が拡張領域に仕舞われてない状態で倉庫に置かれてることも多いんだって」

 

 

 シャルがこっそりと、ISのうんちくを教えてくれました。

 ISといえばペンとかロケットとかイヤリングとか、そう言った小物にも入るホイポイカプセルみたいなところがありますよね。

 具現化しなくても調整改造できるSF感全振りの代物だと思ってましたが、意外と現実味のあるものなんですか。

 

 そんなお話をしていた私達を尻目にトントン拍子に進んでいく準備、研究者さん達もいつの間にか増えてきて、ちょっとした人だかりになってました。

 

 

「どっちから乗る?」

 

「お先どうぞ」

 

 

 一つの席に座れるのは一人、となるとどちらかが先に、そしてどちらかが後にならないといけません。二人の膨れ上がった期待に対して、ガラ空きの"王座(イス)"が一つ。

 

 まあ王座は当然シャルのものなんですけどね。

 私は所詮、いないはずの不純物です。しからばシャルを優先する方が良いに決まっています。

 

 どうせ私もやることになりますし。

 

 

「それで、どうすれば?」

 

「触れていただくだけで結構です。ああ、一応離れておいた方がいいですよ」

 

 

 触れるだけでいい、相変わらず謎の機械です。どうやって接触だけで人間か、しかも女性体かを見分けているのかさっぱり見当も付きません。やはりISは近未来を舞台にしてなおオーパーツなのですね。

 

 シャルは少し緊張した面持ちで、静かに一歩進み出ました。そろり、そろりと手を伸ばして、待機状態のISにひたと手を触れました。

 

 キュイン、という軽い音と、閃光か雷光かがシャルを一瞬で飲み込みました。それは直ぐに晴れて、人より一回り大きな影が現れました。

 手足を補強するように覆われた装甲、機械的な手の平。小さな風圧を生み出す翼のような浮遊するスラスター。そして、それらを操る輝くような金色の少女。

 

 

「これがIS……」

 

 

 シャルは感嘆するように呟きました。これで乗るのは二回目になると思うのですが、あの時はそんな余韻に浸る暇は微塵もありませんでしたしね。

 

 

「気分はどう?」

 

「凄いよ……まるで自分自身の手足みたいに動かせるし、目も耳も良くなるんだ」

 

 

 パワーアシストスーツみたいな感じでしょうか。そういえば何百メートルも先の人の姿がくっきり写るくらいには視力も発達するそうですね。

 しかし、自分の手足のように動かせるってそれ結構凄いのでは?ディアナさん以下研究員達の方を向くと、何らかのデバイスを前に一同で固まってました。

 

 

「IS適性……A!?」

 

「こりゃとんでもない逸材だな」

 

 

 これだけ聞くとなんじゃとなるのですが、ISには個人単位で異なる『適性』が存在します。EからSまで大きく分かれているその中でAというのは、モンドグロッソの出場選手に選ばれる候補生に匹敵するレベル。

 

 簡単に言うと最初から大多数のIS搭乗者と適性値でアドバンテージをとれるくらいの数値なんですね。

 うむうむ、軽くチートじみてますね、うちの妹は。

 

 しかも条件は良く分からないものの、ここから更に適性値が上昇する可能性もあります。シャルならこの世界の主人公補正とも言える適性Sに至るかも……。

 

 

「この姿で私を助けてくれたのねぇ」

 

 

 改めてISを纏うシャルの姿は美麗な騎士にも嫋やかなお姫様にも見えて、思わず見惚れてしまいます。

 謙虚に、しかし誇らしげに胸に手を当てる仕草をしてはにかむシャルがかわいいです。

 

 そのまま少しばかり動かして、取りたいデータを取り終わったのか、次は私が乗るように伝えられます。

 

 

「緊張しますね」

 

「肩の力抜いてー、大丈夫だよー」

 

 

 シャルが応援か茶化しか分からない様な掛け声に励まされ、笑い、大きく深呼吸をしました。

 近未来の甲冑ともとれるISは私が袖を通すのを今か今かと待っているようです。

 

 

「…………行きます」

 

 

 伝えられた通りの手順(触るだけ)でISを起動。エンジンとは違う鈴の音のような起動音と共に、鎖を絶った視界が一気に広がっていきました。

 

 

「わっ」

 

 

 何かに繋がる感覚と共に世界が大きく開けるように知覚できるようになっていきます。

 まるでモノクロからカラーになるように、周囲が一層彩る様は呼吸を忘れてしまうよう。

 気付けば私は無機質な装甲を纏い、誰よりも高い視点で皆さんを見下ろしていました。

 

 

「お加減はいかがですかー?」

 

「シャル……とっても凄いわ、これ」

 

 

 恐る恐るというふうに少しだけ浮いて、己が重力の枷から解き放たれたのを実感します。

 例えるなら初めてハンググライダーを体験した時のような、一抹の不安と恐ろしさと、それを遥かに凌ぐ感動に似た感覚です。

 

 

「あんまり動いちゃダメだからね」

 

「駄目?」

 

「ダメ」

 

 

 シャルの過保護発言を頂いたところで、研究員の方々から驚きの声が。

 

 

「こ、こっちも適性A!?」

 

「なんだこの姉妹……」

 

 

 なんと私まで候補生クラスらしいです。あれ、意外と適性Aって普遍的な数値なのでは?

 研究者達の化物を見るような目が痛いです。

 私は私で無重力の身体の楽さについつい浸っていると、シャルが近くまで寄ってきていました。

 ああ、危ないですよシャル。

 

 ふとディアナさんの方を見てみると、両手を地面につけて項垂れていました。

 

 

「ぬ、抜かれた、初めて乗った娘に適性値を……私だって適性Bなのに……」

 

 

そ、そっとしておきましょう。

 

 

 

 




先週インフルエンザにかかって死にかけました(42度)

皆さま体調にはお気を付けてお過ごし下さいませ。



シャロレー牛……実は輸入産牛は一定の年齢以上の牛の輸入が出来ず、日本で出されるフランス産のシャロレー牛は若年のものな為、味が本場ほど深くないと言われています。

ラグランジュ……宇宙で調べた人は大体知ってるラグランジュポイント。ここを基点に人工衛星がスイングバイしたりしなかったりするよ。因みに某ロボットアニメのコロニーは殆どここにある。
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