シャルロッ党のお姉さま   作:小雲八泉

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日間ランキング41位 Σ(´◉⊖◉`;)

皆さま本当にありがとうございます!
これからも頑張ります⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝




14.研修とお菓子作りの話

 ご機嫌よう、皆さま。

 

 一番得意なお菓子はマドレーヌなヴィオレットです。

 

 整備課の方々と紹介と挨拶を交わした後、整備課リーダーさんにIS工学の基礎を学びました。

 基礎の段階で天体物理学や量子力学の豆知識が度々出てきたのは流石ISだと思いましたが、そこまでディープなものでもありませんのでスムーズに答えていきました。

 

 特に時空のゆらぎに関しては一身上の理由で少し調べていたこともあったので。

 主に私の内にある能力、"境界を操る"ことに関係があるかどうかという話なのですが。……最近使ってないからといって忘れてたわけではありませんよ?

 

 

「お姫様よ、アンタ本当に中学生かい?」

 

「ええ勿論」

 

 

 小手調べとばかりに出された設問を解いた私にそんな懐疑が飛んできました。

 前世も含めれば立派な大人ですから、と言いたいところですが、第二の人生を歩むほど過去になると前世の勉強も薄れていくもので。知識のほとんどは現在の私と教諭達の仁義なき応酬の賜物ですね。

 

 私自身も本が好きで、知識をため込むことに抵抗を感じない体質なのもプラスとなっています。

 知識は多ければ多いほど良いのです。問題はそれをどう使うか、ですが。自慢するだけでは折角の宝をいたずらに腐らせているのと同じですから。ん?何だか私の噂をする人がいるような気が。

 

 

「これなら心配は要らなさそうだね。早速実地研修といこうかい!」

 

「はい、よろしくお願いしますね」

 

 

 なんだか上機嫌な整備課リーダーさんについていき、ISのOSや簡単な仕組みについて実践を交えながら教わっていきます。

 これでも昔はISのことについて本を漁って暇を潰すというちょっとストイックじみた趣味を持っていたのですが、やはり実際にやると本の知識とは色々と違いますね。

 

 技術は日進月歩進化していくもので、2、3年前の科学本が現在でも有用とは言えないことが多々あります。

 現役のIS技術者の話は大変興味深いものだらけで、メモを持って来ていなかったのが口惜しいです。なるべく多くの知識を頭に叩き込んで持って帰りましょう。

 ん、あれ?

 

 聞いている内に違和感を感じたのは、整備課リーダーさんが弄りながら教えている剥き出しのISの精密なマシン部分。

 その説明だとこことかそれとか変ですし、このままにしてると困ると思うんですが。

 

 

「あの、ここどうして繋がってないんでしょうか。この配列なら繋がらないと駄目では?」

 

「……まじかー」

 

 

 してやられたとでも言うような整備課リーダーさん。どうやら私にも実践させる時の引っかけ用にISの整備状況を瑕疵ある状態にしていたようです。この先生新人に容赦なさ過ぎる。

 なんか私の先生って尽くスパルタなのですが私何かしましたかね。

 

 

「えーい、教えがいが無いねえ。もう応用までやってしまおうか」

 

「えっ」

 

「ほら覚えるんだよ! アンタが悲鳴上げるまでやってやるわ!」

 

 

 折角用意していたサプライズを潰された整備課リーダーさんは何かのスイッチが入ったのか私が降参するまで教え込むことにしたみたいです。だから容赦なさ過ぎませんか!?

 

 内心の絶叫すらあげる暇もなく飛び出てくる夥しい数の知識と技術。ISは世界最高の精密機械、そんなISを作り整備する人の長にただの小娘が叶うはずもなく。

 途中までは何とかスムーズにいったものの、何時間も続く呪文のような専門的な用語と技法の嵐に次第に経験と知識が追いつかなくなり、最終的に目を回して白旗を上げてしまいました。

 ばたん、きゅー。

 

 

「はあ、はあ……漸く落ちたか」

 

 

 し、新人いじめです…………。

 なんで今日来たばかりの新人に専門技術の最先端を求めるんですかね。

 うう、頭が痛い。甘いものが食べたいです。最近こんなのばっかりですよ。

 

 

「とんでもない小娘がきたもんだよ。流石社長さんのお姫様だ」

 

「いえ、私は勉強が得意なだけの一介の村娘で……」

 

「普通の村娘は航空力学も量子力学も学んじゃいないよ」

 

 

 ですよね。それもこれも全部あの元担任の先生のせいです。

 普通必要で無い内容すら私に教え込んだあの先生、大恩ある恩師でもあるのですが、やはり普通ではなかった。当然ですが。

 あの外見マッドのフランス版二宮金次郎め……。

 

 とはいえ一部は趣味で調べたものもありますから、私もまた同じ穴の狢であるのは否定できません。

 知識欲に溺れてしまうともう何もかもを知りたくなってしまうのです。

 

 私はまだちょっと勉強が強いくらいですが、先生は女尊男卑で男性教育者が弾かれていく中、下手な市街図書館より知識が溜まった頭脳の価値だけで周囲を納得させた本物の賢者でしたから。

 多分あの人ならソクラテスの質問責めにも勝てると思いますね。

 

 

「はぁ、まあ問題は無さそうってのは間違いないか」

 

「と、とりあえず終わりますか?」

 

「ああ、今日は付き合わせてしまってすまないね。これからよしなに頼むよ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 とりあえず今日はこれでお開き、ということになりました。

 なんというか、ただの研修になってしまいましたね。

 

 シャルも待ちくたびれていると思いますし、帰ったら慰労がてらお菓子を作って振る舞いましょう。

 使用人の方々も呼んで、みんなで楽しく賑やかにできるといいですね。

 

 

 

 

 

 

 皆さんお菓子を作ると聞いて、まず最初に思い浮かべる材料は何ですか?

 

 おそらく卵でしょうか?和菓子でもカステラは卵を使いますし、洋菓子、とりわけ焼き菓子は卵によくお世話になります。あのふわふわ生地には必ずと言っていいほど卵が使われるのです。

 

 砂糖もそうですね。甘さを生み出す上で一番多く使われるのが砂糖です。世の中には砂糖とアーモンドだけで作る菓子もあるのです。世界は色々なもので溢れていますね。

 

 

「よーし、お姉ちゃん頑張っちゃうぞ☆」

 

「な、何が始まるんです?」

 

「お菓子作りだよ。お姉ちゃんの特技なんだ〜」

 

 

 では作っていきましょう。まずはレモンの皮を擦り下ろし、ベーキングパウダーと薄力粉を合わせてふるいます。バターは熱に弱いので慎重に温度を調節しながら溶かしておいて、それとは別に型にバターを塗っておきましょう。

 

 同時にもう一つくらいお菓子のメニューを追加したいので、皮を剥いたリンゴを4当分ほどにしたものを必要分作っておきます。残りのレモンの皮も使うので、合わせて確保しておきましょう。

 

 生地にはグラニュー糖ときび砂糖を混ぜて、擦り下ろしたレモンの皮をゴムベラで擦り合わせて風味をつけます。コツは砂糖に押し当てるようにすると上手くいきますよ。

 そして先ほどの粉類を加え、ホイッパーで混ぜていきましょう。

 別のボウルには卵を入れて塩を少々。こちらもホイッパーで溶きます。サラサラになるくらいになれば良いですね。

 

 さあもたもたする暇はありません。四等分したリンゴをさらに小さく切ります。芯の周りは除いて、鍋にスキマでゲートイン。そのままグラニュー糖とレモンの皮を擦り下ろして汁を入れ、弱火で煮込みます。

 

 更に別にフライパンを用意。そこにバターを溶かし、プンパニッケル(ドイツの純ライ麦パン)をそぼろのように崩してローストし微量のグラニュー糖を適当にゲートイン。馴染んだら火から下ろしましょう。

 こちらは完成が早いので専用グラスも用意しておきます。

 

 

「お嬢様、凄い手際ですね……あ、あのいくつも浮かぶブラックホールのようなものは、噂に聞く『お嬢様の殺意の波動』……!」

 

「何その強そうな技名……。……どうやってあの量のお菓子をあんなに手際良く作ってるのか、よく知らなかったけど……なるほど"スキマ"を使ってたんだね、お姉ちゃん」

 

「ちょっとズルだけどね」

 

 

 一歩も動かず、50センチほどの小さなスキマで物を行き来させて作業工程を短縮する私と、調理を見ているシャルと調理場係のグニーさん。たしかに異様な光景ですが殺意の波動って、そんな物騒なものだと思われていたんですね。

 本質はそれ以上ヤバい代物なのですが、まあどんなに切れ味の良い刀も調理場ではただの捌き包丁です。

 

 そういえば私は能力をシャルに見せまいと試行錯誤していたので、シャルはこの光景を見たことがないはずです。

 色々と受け止められて吹っ切れた今なら思う存分見せてあげられますね。

 

 

 さて、粉類を入れたボウルに溶いた卵を入れて、ホイッパーで混ぜながらバニラオイルと蜂蜜を加えては混ぜ、加えては混ぜをしていきます。静かに泡立たないように。

 そうしたものに溶かしたバターを少しずつ加え、こちらはゆっくり混ぜましょう。それをゴムベラで整えて……。

 

 スキマにぽいー、完全に外界と遮断します。

 これはこの能力の悪よげふんげふん、"境界を操る能力"を最大限に利用した有効活用法です。

 

 簡単に言うと早く進む時間だけがある空間に小さい冷蔵袋と生地を突っ込んで、一日寝かせるところをほんの数分で終わらせてしまおうという、料理界の人なら喉から手が出るほど欲しがる奥義なのです。

 なおこの技は集中力を損なうと作っていたものがボウルごと時空の狭間から現世の何処かに幻想入り(行方知れず)してしまうので扱いは慎重に。

 

 今のうちにリンゴのお菓子の方をやってしまいましょう。

 本日何回目かのボウルを用意、生クリームと数滴のバニラエッセンスを泡立てます。

 小さなガラスの壺のような専用のグラスに煮込んだアップルソースとローストにしたそぼろのパンプニッケルを複数交互に加え、最後にラズベリーソースと作ったホイップクリームを加えて、こちらは完成です。

 

 そろそろ仕上がったはずなのでスキマから生地を取り出します。いい感じです。

 これを絞り袋に入れて型に注入。いくつかにはラズベリーやレーズンなども入れてしまいましょう。それをプレートごと大型オーブンにぶち込みます。

17、18分ほど焼いたものを皿に並べれば完成です。

 

 そして……昨日作っておいたミルフィーユをテーブルにどかりと置けば、あら不思議美味しいお茶会の会場です。

 

 

「という訳で完成です!」

 

「おー! すごーい!」

 

「見てはいけないものを見た気がします……」

 

 

 と、いう訳でお菓子を紹介しましょう。

 まずは私の得意分野でもあるマドレーヌ。世界でも指折りの有名なお菓子ですね。このお菓子の作り方を真似たケーキ風のお菓子は世界中にあります。

 貝殻のような模様が食欲をそそる、お茶会の定番お菓子ですね。レモンの風味をカフェオレと共に召し上がれ。

 

 次はリンゴの方ですね。こちらは日本人には馴染みのないものだと思います。

 紹介します。ヨーロッパではデンマークなどでもお馴染みのドイツのデザート、乾いた風と農家の優雅なひと時。

 濃厚で甘美な味が特徴の"ベールで隠れた農家の少女(verschleiertes bauernmädchen)"です。

 

 とっても可愛らしい名前ですよね。日本では殆ど馴染みがないせいで和名がないのですが、このお菓子はとても美味なデザートとして北ヨーロッパでは有名なのです。

 女性にも人気の一品なので、グラスは可愛らしい意匠を込めたものを選ぶととても雰囲気が出ますよ。

 

 作り置きしていた三品目はケーキ界の大御所ミルフィーユ、矢羽模様の美味しいケーキです。今回はストロベリー風味に仕上げました。

 切り分けが容易になるよう横長に作ったそれを切り分けてテーブルに並べていきます。実はケーキを切る形は円を切った三角形より角角とした四角形の方が多いのです。日本ではお馴染みの切り分け方は、タルトの方によく使われますね。

 

 

「さぁさ、使用人の皆さんも一緒にお茶会しましょうか」

 

「い、良いのですか?」

 

「花は多い方が華やかでしょう? カフェオレと紅茶の準備をお願いします」

 

「は、はいただいま!」

 

 

 グニーさんと使用人達は喜色を膨らませて準備を始めてくれました。それを見つめながら、シャルが隣で笑いました。

 

 

「お姉ちゃんのお菓子は皆好きになるよね」

 

「だと嬉しいわね」

 

「少なくとも私はどんなパティシエや有名なパティスリーのお菓子より、お姉ちゃんの作るお菓子の方が好きだよ」

 

 

 輝くような笑顔を向けられて思わずドキリとしてしまいます。ああ、やはり目に入れても痛くない可愛さと尊さです。フランスのキュート世界遺産として登録すべき……いやこの可愛さが世に広まれば不逞の輩が出現しかねません。ここは私のマイフォルダに仕舞っておきましょう。

 

 

「私は何よりもシャルが大好きよ」

 

「なんで真面目そうに恥ずかしいこと言うかな……」

 

 

 照れてるシャルも可愛い。今すぐ押し倒して膝枕してなでなでしながらドロドロに甘やかしたいところですが、シャルも恥じらいや矜恃を知る14歳。見られる視線も増えた今では少し躊躇われます。

 

 

 

 そんな睦み合いも程々に、大きなテーブルに使用人の方々を座らせて、みんなで優雅なお茶会を開きました。

 いつも頑張ってくれている皆さんへのご褒美という形をとりましたが、私が皆さんとお茶を楽しみたいだけです。

 

 女性だけあって皆さんお菓子には興味津々で、目をキラキラさせて期待してくれるのでこちらとしてもワクワクするもの。

 シャルは度々私とティータイムをしているため慣れたものですが、使用人の方々の中にはおっかなびっくりと少しずつ食べたり飲んだりしてる人もいます。

 そんな中私は手本を示すよう丁寧に寛ぎながら、使用人達と楽しいお話に花を咲かせました。

 

 興味深かったのは調理場のグニーさんが一級のパティシエでありミシュラン公認の3つ星シェフであること。

 えっそれとんでもない実力者じゃないですか。

 目を瞠ってびっくり仰天な私にグニーさんは照れ臭そうに笑いました。

 曰く、料理にこだわる両親の間に生まれて、余りにも舌が肥えすぎて世間の料理が合わないから自分で作り始めたのが始まりらしいです。

 どうりで家内飯にしてはやたら豪華だなとか思ってたんですよ。セレブの家なのでそういうものかと思ったのですが、この人が原因だったんですね。

 

 しかし、使用人の方々も綺麗な人達ばかりです。そんな彼女達が思い思いに団欒を楽しんでくれる様はとても絵になります。

 

 

「しかしお嬢様、どうして使用人である私共にこうまでしてくれるのですか?」

 

「……私は周りが笑ってた方が安心するだけですよ」

 

 

 家や学校や職場、そんなコミュニティは互いに笑顔であればあるほど円滑に上手くいくものです。

 まあそんな崇高なものでもなく、単純にギスギスした関係が気に食わないだけですがね。それと万が一を考えて使用人の人達の信頼を得ていた方が後々にも有効だと思っただけです。

 人の行動はいつだって打算的なのですよ。

 

 あ、あと私のストレス解消兼趣味です。

 

 

「……んっ! これ美味しい」

 

「"農家の少女(メートヒェン)"っていうの。美味しいでしょう?」

 

 

 このお菓子、なんで日本には少ないんでしょうね?甘過ぎるせいでしょうか?いや最近の菓子はどストレートに甘い物も多いはずですし、作り方もそう難しくはありません。

 やはり名前ですか。名前が長いのがいけないのですか。

 

 我が渾身のマドレーヌを摘みながら、カフェオレを味わいます。

 ああ、こういうのどかな時間を過ごすのはいつぶりでしょうか。最近はとんと良いことが無かったですからね。

 

 ちょっと慣れたのか羽目を外し始めた皆さんの笑顔が綻び咲く様子を肴に、カフェオレボウルを傾けました。

 

 

 

 

 

「……失礼します」

 

 

 そう言って入った先は、この屋敷の中で唯一私やシャルは入ったことがない場所。

 いいえ、正確には入れない場所です。

 

 

「顔を見せるなと言ったでしょ、あの女の娘」

 

「了承した覚えはありませんよ」

 

 

 そこにいた妙齢の女性──義母は、私を射殺すような目で睨み付けました。

 その背後には大きなカーテン付きの窓があり、そこから外を見ていたようでした。

 外は雨が降っていて、夜も更けて見える物も無いのに何を見ていたのでしょうか。

 

 

「今日は使用人の皆さんとお茶をしまして、作った焼き菓子が余ったので置いておきますね」

 

「いらないわそんなもの。とっとと出ていきなさい」

 

「……義母様がよければ、シャルにも顔を見せてあげてくださいね」

 

「──出ていけと言ったでしょう!!」

 

 

 ……やれやれ、ですね。

 これ以上は拗れてしまいますから、私は菓子の入ったバスケットを適当なところに置いて、部屋を出ました。

 義母は意固地なほどに私達を避けて、いつ外に出ているかも分からないほど見ることがありません。

 

 使用人の方々に聞いたところによれば、私達が来る前は普通に家を出歩いていたとのこと。

 そうまでして私達に会いたくないのでしょう。

 

 余り突かない方が良いと子供の本能が呼び掛けますが、このままでは余程きっかけが無ければ取り返しのつかないところまで離れてしまいます。

 一番避けなければならないのは、疎遠による家族の形骸化です。

 

 どうにか関係を改善できないものか……。

 

 ……みんなハッピーエンドになれれば、それが一番なんですがね。

 

 




ベールで隠れた農家の少女(verschleiertes bauernmädchen)……日本語訳でフェアシュライアーテス・バウエルンメートヒェン。日本語では検索かけても出ないほどマジで見ないドイツのお菓子なのだが、北ヨーロッパでは結構盛ん。とろりとしたパンプニッケルの食感、甘味とストロベリーソースの酸味が程よく合っていてとても美味。
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