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ご機嫌よう、皆さま。
どちらかと言えば猫が好きなヴィオレットです。
花も咲く8月の陽気は暖かく、こうして風に吹かれているだけなのに自然を感じているような気になります。
今日は二人でピクニックに来ました。
村の外れにある丘までは大体2キロくらい。人の少ない村で更に正規の公道ではいけない秘境ですので、私達以外の人影はいません。
そんな訳で私達は適当な歌を口ずさみながら色々と入ったカゴを片手に、丘の中腹までやって来ました。
ここは花も多くじっとしていれば鳥もやってくる自然の宝庫です。
「ここにしましょうか」
「はーい」
木の木陰もある適当なところで止まり、マットを敷いてカゴや器具、水分等を降ろしました。
カゴから定番のサンドイッチやブドウ、切り分けたリンゴ等の果物やジュースの入った瓶などをぽいぽいと出しては置いていきます。
更にリンゴのタルトに一口サイズのピッツァにマカロンに……。
「……そんなに持ってきてたの?」
呆れたようなシャルの言葉にハッとなって出すのをやめます。
危ない危ない、実は半分以上はスキマから取り出しましたなんて口が裂けても言えません。
人ならざる力ですから、そこのところはちゃんと意識しておかなければ。
取り敢えず伝家の宝刀で誤魔化しておきましょう。
「て、てへぺろ」
「……」
胡散臭いものを見る目線が突き刺さりますが、努めて澄ました顔でマットに腰を降ろしました。木漏れ日が風に揺れるのがなんだか心地良いです。
コップを二つ取り出してオレンジジュースを注ぎます。
今日は地元の方から貰ったものを消費する目的もあり、このオレンジジュースもその一つ。ミキサーにかけた生のジュースを冷やして持ってきたのです。
ほかの果物やサンドイッチの具もそう。こうしてほのぼのしてると忘れそうになりますが、世間一般では私達は唯一の親である母を亡くした寄る辺のない子供なので、それを憐れんだ近所の皆さんから度々お世話になることがあります。
自分で言うのもなんですが、私達は容姿も良いですからその効果もあるでしょう。人間皆現金ですから。
二人とも母に似てますしね。逆に言えば母の見てくれが非常に良かったといえます。
しかし『原作』にもある通り、実は父の方は普通に生きているのですが……まあ、見たこともありませんし実質いないでいいでしょう。まだお呼ばれしてませんし。
母が死んだ時、葬式にも遺産相続にも首を突っ込まない徹底ぶりには流石に変な笑いが出ましたよ。
父が予め遺産相続を放棄していたようなので、勿論全て貰い受けましたとも。
因みに相続分の財産はそれまで埋もれてた取り立て債務があって大体消えました。まあ現金だけで家具とかは普通に持てましたから十分です。
ついでに相続前にその債務を見逃した財務管理の方にはあとでロシアンシュークリームを送っておきました。
自分の確認の甘さを呪うといいですよ、HAHAHA。
「〜〜♪」
ブドウをひとつまみちぎって皮を剥き、口の中に放り込みます。購入したブドウに良く付いている白い粉、これはブルームと言いまして、ブドウの実を乾燥から守る特徴があります。
これがあると鮮度が長持ちしますので、洗い落とすのは食べる前にしましょう。
「あ、これ美味しいー」
シャルはリンゴに目を付けたようです。青い皮を兎の耳の形にして可愛らしく仕上げたそれは見るものに不思議な食欲を与えます。
しかし青い皮なんて珍しくもなんともないですが、違和感が半端じゃないというか、もう少し赤くても良いんじゃないとか思わないでもないです。
「赤いリンゴもあるにはあるけどねえ」
「リンゴってふつう緑色だしね」
「ん?リンゴって赤いでしょ?」
「え、緑色でしょ」
「えっ」
「えっ」
なんということでしょう。私とシャルとの間にこんなにも食い違う価値観があったなんて。リンゴって緑色なんですか?青い……は日本特有の認識ですが、リンゴは普通赤では?
「ちょっとまって、リンゴが緑なら赤い果物って何?」
「ん、ラズベリーとか」
確かにラズベリーは赤いです。しかしラズベリーがポンと出て来るなんて凄いですね。個人的に赤い果物って言われても真っ先に出てくるのはリンゴですから、なんだか新鮮です。
「まあまあ、美味しければなんでもいいじゃない」
「それはそうね」
シャルのもっともな意見に賛成し、ピッツァを摘みました。
カエルしかり、昆布しかり、タコしかり。
美味しければなんでも許されるものです。
逆に形も味もアレな食事はしばしばネタとして面白さを提供してくれますね。
スターゲイザーパイというイギリス産の料理がありますが、パイから魚の頭が突き出るというユニークな仕上がりになっています。味は人を選ぶのだとか。
「美味しいわねー」
「ねー」
広げられた食べ物を思い思いに頬張りながら、シャルと顔を見合わせて笑いました。
美味しいものを食べれば皆笑顔になれる、そこは全世界共通の概念だと信じています。
たまに食べさせあいっこしながら和気藹々と過ごしていると、甲高い風切り音を響かせる不届きものが雰囲気を壊してしまいました。
───ドオォォォォン!
「きゃっ」
「うひゃあっ」
丁度シャルにあげるところだったので、少し苛立ちながら空を見上げると、歪なヒト型を保つ影が上空を高速で通過しているところでした。
「あれはIS?こんなとこに来るなんて」
「まったく、近所迷惑ねえ」
訓練でしょうか?こんなところで音速を超えられると非常に迷惑極まりないのですが。
田舎なら爆音響かせてもいいとか思ってるんですか?
「あのハエ叩き落としてやろうかしら」
「いや無理だよ」
鼻息荒く睨め付けた私を苦笑しながら諌めるシャル、ふぅ、とため息を吐いて力を抜きました。
いや実際には出来ないんでしょうが、ちょっと驚かせて墜落まで持っていけませんかね。
遠ざかっていく影を見ながらため息を吐いて、うさぎ型のリンゴを頬張りました。あ、甘くて美味しい。
あのちんまい機械が世界のパワーバランスを簒奪したなんてにわかには信じ難いことです。
しかしもっと信じられないのはあれが元々宇宙用作業服を想定して制作されたスーツだと言う発明者の主張ですね。
「篠ノ之束は一体何を思ってアレを作ったのかしらね」
「篠ノ之博士ってあのすごいヒト?」
「そうそう、IS作った人」
最初のISが表舞台に姿を見せた『白騎士事件』と呼ばれる事件で出てきたISには既に火器管制機能やレーダーが標準装備されていたといいます。
篠ノ之束も最初はとても自慢げに話していたと聞きますから、これが意図しないものであった訳ではなさそうです。
「そういえば白騎士事件って結局どういう事件だったの?」
「ああ、シャルはあの時のこと覚えてない?」
「ニュースがひっきりなしに伝えてたのは覚えてるけど、細かいところはよく知らないんだ」
白騎士が日本を救ったって学校では教わったけどね。と言ってカプッとリンゴを頬張るシャル、そうですか、まあ5歳の頃ですし仕方ないでしょう。
『白騎士事件』ですか。ええ、知っています。
話せば長い、そう、古い話です。
事の始まりは防衛省及び各大使館からの急電によるものだったといいます。
───我が国に向けて弾道ミサイルが発射された、正確な数は不明、数千に及ぶ可能性ありという絶望的な報告です。
ところで皆様、弾道ミサイルの火器管制システムがどのような仕組みになっているかご存知でしょうか?
そもそも弾道ミサイルのほぼ大半は、あの世界最大の危機、冷戦の時期に大量に生産されたものが占めています。
つまり核弾頭が搭載されている訳です。
そんなものを敵国へ向けて発射したときには当然第三次世界大戦待った無しでしょう。
主導的立場であるアメリカとソ連は当然それを避けようとしました。ましてやハッキングされて世界が終わるなんて絶対に避けねばなりません。
故に、弾道ミサイルの発射までのプロセスは全て人力で行うのが基本です。
しかも滅茶苦茶厳重な段階を踏むので、誤作動もまずありえません。
しかし『白騎士事件』では、示し合わせたように全世界の弾道ミサイルや搭載ミサイルが一斉に"ハッキング"されたと各国は主張しています。
これに関しては諸説あるようですので今は置いておきましょう。
ともかくそのミサイル群約2000は全て日本に向かっていました。
当時の日本政府は仰天したでしょうね。いつも通り平和な世界で仕事していたら、何の前触れもなく急にミサイルがすっ飛んできたんですから。
警備中のイージス艦、PAC3等迎撃群はすぐ様対応に当たったそうですが、なんといっても弾道ミサイル。巡航型はなんとかなるにしてもこちらはそう簡単に落とせやしません。
誰もが諦めたその時、IS『白騎士』が出てきたんです。
その訳の分からない機動と最先端過ぎる火器でミサイル群を撃墜。颯爽と現れたヒーローの登場に世界は沸き立ちました。
その映像は未だに数多くの転載を経て再生されているようで、『英雄』とか『神様』とか言われているほど人気な白騎士です。フィギュアもありますよ。
で、諸説ありますがここまでは良いんです。
ありがとう白騎士で終わるところなので。
ミサイルを粗方落としたISは、次に接近しつつあったアメリカの太平洋機動艦隊を撃滅したそうです。
ついでに日本のも。
そのせいかヒーローとして崇められながら兵器としての価値を見出されたISなのでありました。
そしてなんやかんやあって晴れて篠ノ之束は国際指名手配になりましたとさ。
ちゃんちゃん。
───という話を適当に掻い摘んで説明しました。
「……取り敢えず、
「……そうね」
とばっちりを受けた当時の日本政府及び国民には同情を禁じ得ません。
しかもISの研究のために設立された学校であるIS学園の資金を集めたのは日本、管理も日本。しかし所属は国連。
ただでさえミサイルの破片の回収や壊滅した艦隊の再建で禿げ上がっているのに、追い打ちをかけるような仕打ちに涙が止まりませんよ。
『原作』では篠ノ之束がこれ見よがしに自分がハッキングしましたアピールをしていたので、あれは恐らく彼女の仕業なのでしょう。
そんなことしないで普通に打ち上げればいいじゃないとか思うのは私だけではないはず。
まあそんな話はほどほどに。
豆粒大になったISを見送りながらタルトに舌鼓を打ちます。
ピクニックに来たことを忘れてはいませんよ。
「お姉ちゃん色々持ってき過ぎだよ」
「美味しいでしょう?」
「……美味しいけどさ」
シャルは下の方を見て、自分の脇腹を摘みました。
私達は基本太らない体質ですが、一応身体が弛まないように運動などは心がけています。
運動はいいものです。身体が入れ替わるような清々しさを感じます。
「気になるなら、後でジョギングしに行く?」
「そうしようかな」
うんと頷いた時、近くの芝からガサガサと音がたちました。何事かと振り向くと、半寸ほどの小さな影が飛び出してきました。
ちんまりとした体躯、つぶらな瞳、後ろに垂れた長い耳、ひくひくと忙しなく動く鼻先。
「……ウサギ?」
「……ウサギね」
野ウサギがいました。見るのは久しぶりですね。
しかし本来臆病なウサギがどうしてこんなところに?
ふとウサギの目線を追うと、さっきの衝撃で飛んで行ったのか、ブドウがマットの外に落ちていました。
ウサギはブドウ目掛けて少しずつ、少しずつ近付いてきます。その迫真ぶりに思わず声を潜めてしまいます。
シャルも生唾を飲み込んで見守っていました。
―――ダッ!
そしてブドウに手の届く範囲に来たところで、パッと咥えて走り去って行きました。
「…………」
「……ウサギガニゲテル!」
「?」
「いえ、言わなきゃいけないと思って」
ウサギと言えばこのフレーズでしょう。かの迷言を齎した偉大なアニメに感謝。
「……ウサギ肉食べたくなってきたわ」
「急に!?」
ウサギ肉、意外と美味しいんですよ。伝統的な料理としても使われますし、彼の国日本でもウサギが食べたいという理由だけで鶏肉と偽ったり数え方まで変えたり……。
「……じゅるり」
「やめて」
追い掛けて捕まえようかと思いましたが、どうせ今日は解体ナイフなんて持ってきてないので意味がありません。
それに解体の仕方なんて知りませんし。
じゃあ何で捕まえようと思ったのかという話になりますが。まあ、ノリです。
そんなことを話していると、少しずつ野生の動物たちが姿を見せ始めました。というよりは、私達を避けなくなったのでしょうか。
草むらの奥で鹿の角が見えたり、小鳥がこぼれたパン屑を拾ったり、カナブンが木にくっついていたり……。
「……のどかだねぇ」
自然界の音だけが聞こえる木陰で、気の抜けた声を発するシャルに頷いて微笑みました。
『原作』の流れから、こうして静かな時間を過ごせる日々はそう長くはないのでしょう。
でも、もう少しだけ。
隠し事の一切を忘れて、平穏に過ごす時間を下さい。