シャルロッ党のお姉さま   作:小雲八泉

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 本日二度目の投稿。


6.竦然の空

「っぅ…………ぁ……」

 

 

 背中に刺さる瓦礫の痛みで目を覚ましました。

 何が何だかわからないままショックで回らない頭を抑えて立ち上がり、何が起こったのかと辺りを見回します。

 

 最初に目に飛び込んできたのは、目も覆う惨状でした。

 

「……そん、な」

 

 

 私達の家はほぼ半壊していて、空が場違いな青を曝け出していました。

 母と共にし、シャルと一緒に遊んでいた応接間はもはや見る影もありません。

 

 これは一体何があったのですか。こんなの酷すぎる、私達の家が。

 

 

「───っ!シャル!?」

 

 

 頭が無為な言葉を羅列して、ハッとなって一番大切な人の存在を思い出しました。

 

 そうです。シャルの部屋は二階。この崩壊に巻き込まれたら一溜まりもありません。

 一度考えたらもう不安が心を埋め尽くして、嫌だ嫌だと外聞も聞こえない体で必死にシャルの部屋へ向かいました。

 

 

 シャルの部屋はギリギリその形を保っていました。私の方は完全に崩れていて、タイミングによっては助からなかった可能性を感じます。

 

 

「シャル!!」

 

「お姉ちゃんっ───!」

 

 

 果たして扉を開けた先には、傷一つないシャルの姿がありました。

 ああ、よかった。心を落ち着けるように抱きしめて存在を確かめました。

 

 

「無事でよかった……」

 

「一体何があったの?」

 

「分からない。でもいい知らせではなさそうよ」

 

 

 漸く回り始めた頭を動かして、意識を失う直前のことを思い出します。

 あれはたしかにISの姿でした。僅か数秒の失神でしたが、その間に何処かに行ったようです。

 しかしまだ近いのでしょう。戦闘音が近くで聞こえていました。

 

 

「お姉ちゃん怪我が、血が」

 

「大丈夫よ、骨はやってないもの」

 

「でも頭から垂れてる……擦り傷だらけ」

 

 

 私のことはいいのです。人間意外と死なないのですよ。

 泣きそうなシャルを宥めて辺りを見回しました。

 兎に角、ここは危険です。しかし外は更に危険です。

 

 ISのものらしき戦闘音は少し鳴りを潜め、誰かの話し声が聞こえていました。

 

 

「ちょっと行ってくるわ」

 

「お姉ちゃん?……私も行く」

 

「危険よ。待ってなさい」

 

「お姉ちゃんも危険じゃない!」

 

 

 ぐっ、聞き分けの悪い子ですね。

 ここで駄々を捏ねられるとシャルも助からなくなるかもしれません。それにいざという時の為に近くにいた方がいいかも、ですね。

 

 その時は私の……"異形の能力(スキマ)"でシャルだけでも逃しましょう。

 

 私はシャルの手を繋いで、階段を駆け下りました。声は中庭の方でするようです。そのままそちらの方に向かっていきました。

 

 そっと瓦礫の隙間から声の方を覗きました。

 

 それは実に対照的なISと二人の女でした。

 一人はボロボロの様相で壁に背を付けて座り込んでいて、もう一人は下卑た笑いを響かせて銃を突きつけていました。

 

 

「残念だが、あの姉妹は殺させてもらう」

 

「何故そんな……」

 

「何ってそりゃ仕事さ。依頼人のご意向だよ」

 

 

 久し振りに英語を聞いた気がします。少し集中して聞いていると、そんな言葉が耳に入りました。

 

 今の少ない会話から、茶髪の女はとある姉妹を殺そうとしているのが分かります。この辺りで姉妹なんて私達だけですから、恐らく私達でしょう。

 シャルがハッと息を呑むのを尻目に、観察を続けました。

 

 

「まさか暗殺を察知する奴がいたとはね、依頼主側の情報漏れか……デュノア社の社長も伊達じゃないってか?」

 

「…………」

 

「だんまりかよ、まあいい。……そこの奴に聞くまでさ!」

 

 

 銃口が私達の方に……!?

 

 咄嗟にシャルに覆いかぶさって伏せました。

 

 その直ぐ上を嫌なものが通り抜けていくのが分かります。

 あれに当たったらきっと死んでしまう。初めて明確な死の足音が聞こえてきて、「ひっ」と恐怖が喉を震わせました。

 

 

「おやぁ?おやおや、これはターゲットの姉妹じゃないか!?ハハハッ運がいい!!」

 

 

 より一層近づいた声が私達を指差しました。不味いです。今直ぐにでもスキマを使わなければ……!?

 

 

「ぁ……が……!?」

 

 

 首が絞まって、痛い、苦しい、体がシャルから引き剥がされて宙吊りにさせられたのが分かりました。

 

 

「お姉ちゃん!?」

 

「探す手間が省けたぜ!こいつらを殺せば依頼完了ってか!」

 

 

 ISのパワーは戦車すら押し返すといいます。ならばその握力は、軽く握るだけでも私を死の淵に追いやることができるのでしょう。

 そんなことを残った思考で考えました。

 

 

「ぐぅ、こ……の……」

 

「……んー、そそるねぇ。ここはクソ田舎だし警察が来るのも遅そうだし、ちょっとテメエで遊ぶか」

 

 

 霞む目を凝らして女の行為を見続けます。女は私の左手を機械の手で包み、引っ張り始めました。

 ───!?いだ、痛い痛い痛い!!

 

 

「ああああ!!?いっ、やめ」

 

「そらそら、振りほどかないと腕が千切れるぞ?」

 

 

 女は嗜虐的な笑みを浮かべて、少しずつ力を強めていきます。どうやら私を時間一杯まで甚振って殺すつもりなのでしょう。

 

 恐怖で声が震えて、痛みで目がぶれようとしても、何とか集中します。

 

 私は専らスキマばかり使っていましたが、その本質は境界。つまり創造と破壊、らしいです。

 物体に働きかけるのは得意ではありませんが、これだけ時間があれば。

 

 首を締めていた機械腕に右手を添えて───能力を解放。

 

 バキンッという金属音と耳を竦ませる嫌な音共に、女の乗っていたISの左腕が粉々に粉砕されました。

 

 

「なっ───何ィ!?」

 

 

 力が緩んだ隙に左手を引っこ抜いて、シャルの方に走ります。

 

 シャルは倒れていた白髪の女の方で屈んでいて、何やら切羽詰まった話をしていました。

 シャル、と声をかけると、私に気付いたシャルはこちらを振り向きました。

 

 

「お姉ちゃん!抜けられたの!?」

 

「何とかね。───聞いて、貴女達を逃がします」

 

 

 最早一刻の猶予もありません。逃げる場所も手段も伝えられないのは歯痒いですが、そんな暇はないのです。

 スキマに集中します。そういえば、シャルに見せるのはこれが初めてですね。

 

 

「お姉ちゃんは」

 

「……残るわ」

 

 

 本当は全員で逃げたいところなのですが、ISはセンサーも搭載されているので、そう時間もかからずに見つかる可能性が高いです。

 それに、この村で暴れさせるのはダメです。私達を助けてくれた方が大勢いるんですから。

 

 

「───っ、まって、イヤ……」

 

 

 それに、シャルにはなるべくこの力を見られたくない、人間じゃないと思われたくないんです。

 

 だから───。

 

 

「信じて」

 

「お姉ちゃ───!!」

 

 

 二人をスキマに落とします。私のできる限りもっとも遠い座標に、あの誰も知らない花の丘に。

 どうか遠くまで逃げてください。満身創痍の女の方も、どうかシャルの助けになってくれることを願っています。

 

 

 

 

 

「……──っーたく、どんな魔法使ったか知らねえが、舐めやがって……お陰で依頼済ませても赤字だぜ」

 

 

 後ろから余裕そうな声が聞こえてきました。振り向くと腕を一本無くしたISがこちらに向かってきています。

 恐らく右手だけでも問題ないと思っているのでしょう。事実私が普通の人間ならそれで間違いはありません。

 

 

「そうですか。多分その依頼出来なさそうですね」

 

「ほざけクソガキ……ん?他の奴はどこに行った」

 

「二人ならちょっと宇宙に行ってくるって言ってましたよ」

 

「はぐらかすなよ、寿命を縮めたいのか?」

 

「さて、どうでしょう?」

 

 

 ここからは一切の出し惜しみはしません。神より承った異能をフルに使い、この木偶人形を解体してやりましょう。

 ……勿論怖いです。声が震えていないか心配になるくらいには。

 

 でも、私が最後の壁というのなら、やってやろうじゃありませんか。

 

 

「まぁいい、テメエから殺すか」

 

「──その首貰い受けます」

 

 

 先手必勝。スキマで上空を取り、自由落下しながら左手に集中します。

 行いますは繊細もクソもない大雑把な袈裟斬り。指定は何もなく、故に全てを両断する手刀の一閃。

 繊細さなんて求めてる暇はありません。

 

 ───その綺麗な首を下さい。

 

 

「んな、どこ行った!?」

 

 

 女からすれば急に姿が消えたのですから困惑するでしょう。故に奇襲。正に初見殺しの一手です。

 これを外すと後がキツイ。ここで決める!

 

 

「死ね」

 

「───っ!?」

 

 

 全力の殺気を左手に乗せて、全てを切り分けんと手を振り下ろしました。

 

 空気が裂け、地面が割れ、木々は道を開けました。国境線の如く、世界が真っ二つになるように一本の直線が引かれます。

 私の全霊をかけた一太刀は───咄嗟に回避をしたISのスラスターの一部を切断していきました。

 首は───勿論残っている。

 

 

「コイツ、スラスターを!!」

 

 

 失敗したなら長居は無用です。スキマを繋げて木の後ろに隠れました。

 

 頭に血が上った女はやたらめったらに銃を乱射していました。銃弾が木を掠めるたびに私の中で死の足音が近付くのが分かります。

あの銃弾が少しでも私の体を抉ればそれだけで勝敗が決してしまいます。

 

 

「はっ───はっぁ、ぅ」

 

 

 瓦礫の下敷きになった時のダメージが大きいですね。血が出過ぎているのか、体がかなり怠いです。

 思えば内臓か何処かでもやられていたのでしょうか。

 

 とにかくあのISを何とかしなければ、しかし慣性制御を用いるISの機動力はどうやっても消し切れるものではありません。

 絶対防御はそれを貫いて余りある力で持って抗すれば、本体にダメージを与えることができます。そこを突くしかありません。

 隙を晒せば死ぬ。それは念頭に置いて、慎重かつ大胆に行きましょう。

 

 再度スキマを上空に繋げます。今度はより近く、相手の後ろを的確に突きます。そして女の背から首に抱きつきました。

 

 

「アァ!?てめ、どんな手品を!?」

 

 

 ISは人型。故に背中まで手は届きません。女は滅茶苦茶な機動で私を振り落としにかかりますが、私も全力でしがみつきます。

 相手を絞め殺すつもりでしがみついていますが、相手はIS、ここから私を殺す手段などいくらでもあります。

 

 だからこそ、思考する時間は与えません。

 

 今度は外さない。境界を分ける力の全てを使って、私の腕を巻き込んででも首を落として見せます。

 右手に力が集まるのが分かります。私の一切の自重を無くした一撃を食らわせましょう。

 

 女は左手を伸ばして私の頭を掴もうとしますが、残された一本では上手くいかない様です。

 

 体が右に左に、爆発的な加速と停止を繰り返されて目が回りそうです。

 しかしここで離してしまうと逃げの一手しかなくなり、つまり今度こそ詰みになります。

 

 

「───!!舐めんじゃねえええ!!!」

 

 

 絶対防御を確実に貫ける力まであと少しといったところで、女の暴れ方が尋常じゃなくなってきました。

 そして、私を押し潰さんと、大きな木に背中ごと突っ込んでいきます。

 まずい、これはタダでは済まない、でも離せば今度こそ死ぬ。

 

 考える時間は、全く与えてくれませんでした。

 大型トラックかと思うほどの衝撃が駆け抜けて、体から嫌な音がいくつも聞こえてきます。

 

 

「────────っぁ」

 

 

 私は、その衝撃に耐えられませんでした。

 

 力が抜け、女の背を掴めずに倒れ込みます。

 

 

「……ふぅ、何だか分からん力を持ってるみてえだな。瞬間移動か?……まぁ、それもこれで終わりだ」

 

 

 痛い、痛い。呼吸が浅くて思考がまとまらない。

 殆ど見えない目で、女が遂に態勢を整えて銃口を突きつけたのが分かりました。

 万事休す、です。もう策はありません。

 鉛玉は今度こそ私を撃ち抜くでしょう。

 

 

「───ま、だ」

 

 

 駄目です。まだシャルが逃げ切れる時間を稼げていない。まだ死ぬわけにはいかないんです。

 それに私自身が死んでしまってはあの子に合わせる顔がありません。

 

 纏まらない頭を叱咤して体を起こそうとしますが、一度肺から抜け切った空気は簡単に私を立ち上がらせてはくれませんでした。

 

 まだ…まだ死ねない。

 

 フラフラになりながらも足を伸ばして、霞む意識を振り絞って能力を使うための準備をします。抗戦の意思を示すために身体を隠すように片腕を上げました。

 

 痛みと苦しさに震える身体を歯を食いしばって動かします。あの子が待ってるんです、まだ生きなきゃいけないんです。

 

 

 

 だから、まだ。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 ────どうしてシャルの声が聞こえるのでしょう。

 

 

 

 痛む身体を逸らして後ろを向こうとしましたが、それよりも早く強い力で引っ張られました。一瞬後に私がいたところを銃弾が掠めました。

 

 私をしかと抱き留めたその腕は、まるで戦うために生まれたような尖ってゴツゴツとした機械の腕。

 その腕は私を金色の少女の懐にそっと連れていきました。

 

 

「なぜ……逃げなかった、の──帰って、きたの」

 

 

 私はシャルを逃がすために戦ったのです。だから、シャルが帰ってくるなんて悪夢以外の何者でもありません。

 

 何故ISを纏っているのかなんて聞きません。

 でも、貴女がやろうとしていることはとても危険なことだと、部の悪い賭けだと聡い貴女なら分かるはずです。

 

 どうして帰って来たんですか──。そんな悲嘆の思いを込めて暗く霞む目を何よりも近い顔に向けました。

 

 もう体は言うことを聞きません。最後の力は失われて、シャルの腕の中で視界が真っ黒に染まっていきます。

 こんな絶望的な状況で、私は意識を手放そうとしていました。

 

 

「───助けに来たんだよ」

 

 

 なのに、どうして私はこれ程までに安堵感に包まれているんでしょうか。

 なんで、貴女は笑っていられるんですか。

 

 ───近くで見た妹はとても勇ましく、頼もしい姿をしていました。

 

 

 

 




 6話になって漸く初戦闘(ベリーハード)でした。

 チート能力持ちとはいえ、のんびりと暮らしてきたヴィオラちゃんが勝てる訳ないんだよなぁという話。
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