シャルロッ党のお姉さま   作:小雲八泉

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誤字修正しました。


7.説教される話

「…………」

 

 ご機嫌よう、皆さま。

 目覚めたら全身激痛で動けないヴィオレットです。

 

 白い部屋で白いベッド。体はいたることころに包帯を巻かれ、何本もの管が体に張り巡らせています。

 ここはどこかの病院でしょうか。私達が住んでいた村には診療所的な建物しかなかったので、少なくとも元いた村では無いと思います。

 

 

「うぐっ……」

 

 

 たった2度のダイブ、2分程度の戦闘でここまでボロボロにされるとは。武器持ちに無手で挑む無謀さがよく分かります。

 何故死んでないのかは、正直言って運が良かったとしか思えません。

 

 

「……シャルは」

 

 

 首を動かして辺りを見回すと、隣の椅子に座りベッドに頭を乗せて眠っているシャルの姿がありました。

 幸い傷はないようで、あどけない顔が晒されています。

 

 

「よかった……」

 

 

 安堵でほっと息を吐きました。

 

 あの場面、シャルが来なければ間違いなく死んでいたでしょう。シャルはその機転で私の命まで救ってくれたようです。

 しかしどうしてISに乗っていたのか、色々不可解なところがありますね。

 特に何故あれほど早くシャルが駆け付けられたのかがわかりません。あの後爆速で飛ばしてきたのでしょうか。

 

 まあ、それは置いておきましょう。

 ここで懸念すべきはあの二人のISパイロット。特に私が相手をした茶髪の方が近くにいるかどうか。

 それと明日からの宿。私達の家は見事に壊されたので当分の間をどうするかという話です。

 

 ベターな答えとしては宿を借りる、もしくは親戚のところにいく、ですかね。

 因みにお金は持ってません。こんなことになるなんて一体誰が予想しますか。

 

 

「うぅん……お姉ちゃん?」

 

 

 隣の金の髪が浮き上がり、アメジストの瞳が顔を出しました。しぱしぱと瞬きを数回繰り返して「あっ」と間の抜けた声をだしました。

 

 

「お姉ちゃん!よかった……よかったよぉ……」

 

「心配を、かけましたね……っと、痛っ!」

 

「起き上がっちゃ駄目だよ!かなり酷い状態だったんだから」

 

 

 体を起こそうとしましたが、全身、特に腹の部分が形容し難い激痛を訴えてきたことで断念しました。

 痛すぎて力が入らないなんて初めての経験です。

 へなへなと倒れ込んだ私をシャルが支えて、ゆっくりと寝かせてくれました。

 

 

「……ちょっと思った以上にキツイ」

 

「じっとしてて」

 

 

 シャルに軽く聞いたところによると、外傷や骨折もさることながら内臓のダメージがかなり酷く、破裂や内出血が至る所で発生していて命の危険もあったのだとか。

 

 大体はISと木に挟まった時の損傷だと思いますが、タックル一つでここまで重傷になるんですね。人型サイズなのに侮れないパワーです。

 ISはほぼ不動から一瞬でスピードに乗れますから、納得ではあるのですが。

 

 血反吐履いてぶっ倒れた私を敵と相対した時のISを纏ったまま病院まで飛んでいったらしいです。

 私はそのまま丸一日眠りこけていた、と。

 

 

「ほんっとうに心配したんだからね!」

 

「ごめんなさい……」

 

「何で一緒に逃げなかったの!」

 

「あれを私達の村に居座らせるのが嫌で……」

 

「お姉ちゃんが倒すって?無謀すぎるよ!」

 

 

 正にぐうの音も出ない正論。確かにいくら村の人達が心配だからと言って、この世界の最強兵器とタイマン張るなんて馬鹿げてますね。

 勇気と蛮勇は違うと言われますが、今回は此彼の差を見誤ったミスでした。

 

 というかあの女は私達が目当てでしたし、私達が居なくなれば村への被害を考える必要は無かったかもしれません。

 となると完全に私の早とちりですか。心が沈みますね。

 

 一つだけ弁明させて貰えるなら、余りに急過ぎる展開の所為で頭の熱にやられたと言い訳したいんです。

 私の心の中で「チート能力あるからワンチャンいける」と無意識に傲慢になっていた感は否めません。

 

 

「反省してるの!?」

 

「反省してます。本当にごめんなさい」

 

 

 シャルの有難いお説教が心身共に沁みて入ります。とても反省してます、本当に。

 怒ったシャルには頭が上がりません。逆らえないオーラが体を竦ませて縮こまってしまいます。

 正論しか言わないので反論出来ないのも辛いです。

 

 この構図、側から見れば私の方が年下に見えますね。

 年数的には私の方が遥かに経験がある筈なんですが……今世は頭脳もそれなりの筈なのにこれは一体どういうことなのでしょう?

 

 しばらくシャルのお説教を甘んじて受け止めていました。そしてひと段落して、お互いを見合います。

 

 

「……何というか、濃い一日だった、わね」

 

「たしかに……でも聞きたいことがいっぱいできたよ」

 

 

 例えばシャルを不可解な手段で逃したことですかね?

 私はスキマの力をよく分かっていますが、シャルはそうではありません。急に現れる暗闇の穴なんて怖すぎるでしょう常考。

 

 それにシャルはよく頑張りました。急に晒された非日常の中で、的確に判断して動くことができていたと思います。

 私はわざわざ捕まったり仕留め損なったり死にかけたりとやらかし過ぎです。これではどっちが姉なのか分かりませんね。

 

 

「一応聞きたいのだけど、あの女はどうしたの?」

 

 

 聞きたいことは山ほどありますが先ずはこれです。あの茶髪の隙だらけ女、奴の動向が非常に気になります。

 こんないたいけな少女にISで奇襲かける不埒者がいては気も休まりません。

 

 

「私が来たら逃げてったよ。分が悪いとか何とか」

 

 

 それは有り難い。きっとシャルの潜在的な力に恐れをなしたのですね。颯爽とやってくるだけで敵を撃退するシャル可愛い。

 

 ……『原作』を鑑みれば、恐らく彼女はデュノア社内部の者か、若しくはこの世界における悪役の『亡国企業』の手の者だと思われます。

 どちらも無くはない可能性ですが、いかんせん情報が足りません。

 『亡国企業』は数々のISを盗み出しているとの話ですから、ISでやって来ても可笑しくはない、と言えましょう。

 

 しかし理由が全く分かりません。私達は人に恨みを買うようなことはまずしていない筈なのですが。

 

 『原作』にこんな展開は無かったはずです。だからこそ私は父の迎えが来るまでのんびり過ごしていた訳ですが、本当にどうしてこうなった。

 ラブコメバトル物の筈なのにいつから刃牙系ガチバトル物にすり替わったのでしょう?しかもメタルギアばりの非対称戦ときた。

 

 人生思い通りにはならないとは言いますが、これは少し酷すぎませんかね。

 大きな溜め息を吐いて黄昏ていると、シャルから「一ついいかな?」と言われました。

 質問でしょうか。勿論ウェルカムですよ。

 

 

「……あの黒い裂け目は何?お姉ちゃんがやったの?」

 

 

 無邪気に首をかしげるシャルに苦笑しました。まあ気になりますよね。

 ここで嘘を言うのは難しくありませんが、それをするのは余りにも不義理ですし後々にしこりを残すことでしょう。

 

 ……正直言って、打ち明けるのは怖いです。だってこの"能力"というのは、決定的にシャルと、普通の人と違い過ぎる。手が三本あるとか、足が一本しかないとか、そういう次元を超えた差です。

 そしてそれを長い時間隠してきました。三人だけの家族だった時から、今までずっとずっと。

 だから、怖いんです。

 

 でも、もう隠すことは出来ません。

 シャルはもう知ってしまいましたから。今更はぐらかしても余計に不信を買うだけです。

 

 ……覚悟を決めましょう。虚栄心でもなんでもいいです。

 

 

「……そうよ」

 

「あれは何?」

 

「私が生まれ持っていた力……そうね、超能力とでもいいましょうか」

 

 

 私は重い腕を動かして(シャルが止めようとしましたが「大丈夫」と言って続けました)指を軽く払います。すると、虚空が布のように上下に割かれ、一般で呼ばれる『スキマ』が生成されました。

 

 シャルが軽く息を呑む気配が伝わってきます。

 

 

「……これは」

 

「私が持つ力。"境界を操る能力"よ」

 

 

 それから、成る可く分かりやすく"境界を操る力"について説明していきました。バレないように小さい範囲のスキマを陰で使っていたこと、使い方によってはとても危険なこと等、私が分かる範囲で答えていきました。

 

 境界を操るなんて曖昧な能力ですが、限界まで解釈すれば相当壊れた能力です。極めれば破壊と創造、ワープまでなんでもござれな能力は、元ネタのスキマ妖怪が大妖怪に類する格を持っていた事実を納得させる力でした。

 

 しかしこの能力を公衆で使うには余りにも異端です。

 この能力の何が不味いってまずその見た目の不気味さ。空中からおどろおどろしい暗闇が覗いてる様は見るものの背筋を凍らせる禍々しさを備えています。

 その余りにバケモノじみた形は"悪魔"を連想させて然るほどの印象を与えるでしょう。

 実際初めて使った時も部屋の色と比べた場違いさに変な声が出ましたから。

 

 

「と、まあこれが私。……どう?恐ろしいでしょう?」

 

「…………」

 

 

 ふふふ、怖くて声も出ませんか?

 ……そりゃそうです。姉がまさかISも真っ青な能力を持っているだなんて、頭が湧いたかバケモノかどっちかとしか思わないでしょう。

 

 最近は昔ほど見られなくなったそうですが、シャルも歴としたキリスト教の信徒。幾ら宗教を意識しない無神論じみた若者といえど、幼い頃に築いた邪悪のイメージは拭えないでしょう。

 

 そう思いながらシャルの言葉を待ちます。

 シャルは俯いていた顔を上げて……怒ってます?

 

 

「何で隠してたのかとか、そんなのは置いとくけど……お姉ちゃん、それがあるからISに挑んだの?」

 

「えっ………………はい」

 

「……ヴィオラお姉ちゃん?」

 

「は、はい……」

 

 

 そして再開されるシャルの説教。勘弁して……ホント反省してますから。

 

 でも、シャルがこんなに怒ってくれることに少しだけ嬉しさも感じます。シャルの説教は専ら私の危機感の無さや無謀な行為によるもので、裏返せば私の心配をしてくれてるのですから。

 

 だからといって反省してないわけじゃないんです。ああごめんなさい反省してますからその溢れ出る般若オーラを仕舞ってください死んでしまいます。

 

 

「反省、した?もうしない?」

 

「もう、もうしません…………」

 

 

 ガクブルしながら出来る限り大きく頷くと、シャルは漸く説教を終えました。

 しかしシャルはこの能力に対することに何も反応していませんね。どう見てもやばい能力だと思うんですが。

 

 

「怖いとか思わないの?」

 

 

 少なくとも私は怖いです。そんな言葉を内心で呑み込んで、簡潔に不安を吐露しました。

 

 シャルはきょとんとした顔を見せて、次いで声を漏らして笑いました。それは苦笑にも得意げにも見えて、細まった目が穏やかな視線を向けています。

 

 ───その姿に母の面影が重なって、思わず見惚れてしまいました。

 

 

「全く?どんな力を持っててもお姉ちゃんだもの」

 

「────っ」

 

 

 そうこともなげに言うシャルの笑顔には一片の曇りもなく、本心からそう言ってくれているのがよく分かりました。

 ……本当、私には勿体ない妹だとつくづく思います。

 

 私の右手にシャルの手が重なって、安心させるように包み込んできて、胸を締め付ける不安が溶かされているのが分かります。

 

 泣きそうになるのをグッと堪えて「ありがとう」と言いました。私だってこの子の姉です。小指程度の見栄くらい張らせて下さい。

 

 ……自尊心がいたたまれなくなったので話題を変えます。

 

 

「……そういえばシャルはどうやってあんなに早く駆け付けられたの?」

 

 

 一番驚いたのがこれです。私とあの女は短い死闘を繰り広げましたが、その時間はどう見積もっても2分、良くて3分。

 そして例の丘までは4〜5キロ近い距離があります。

 これでは如何にISでも駆け付けられないと思うのですが。

 

 

「ああ、お姉ちゃんが出したスキマ?の通路が残ってたからそれで来たよ」

 

「……はい?」

 

 

 私何スキマを出しっ放しにしてるんですか?

 

 確かに閉じた記憶は無いのですが、だからといって意識から外したスキマがまだ健在だったなんて思いもよりませんでした。

 何ですかこの自動車の鍵を挿しっぱなしにしてた時のような後から来る焦燥感は。

 

 というか、スキマなんて不気味な空間に自分から入ったんですか。とんでもない勇気が要ると思うんですよそれ。

 

 考えてみてください。午後3時の綺麗な青空を裂くような黒い裂け目。光が入っているような印象を受けない不気味な空間に果敢に侵入するなんて相当ですよ。

 

 

「……よく入ろうと思ったわね?」

 

「半分閉じかけてたけど手でこじ開けたら何とかなった」

 

「よく開けようと思ったわね!?」

 

 

 空中に浮かぶ不気味な裂け目に手を突っ込んで無理やりこじ開けるなんて何それ怖いもの知らず。それで指が切れてたりしたらどうするんですか。

 しかも境界って私以外でも物理的に広げられるんですね。初めて知りました。

 

 

「そんな危ないことしちゃ駄目よ」

 

「それお姉ちゃんが言う?」

 

 

 そうでした。そもそも無茶をしたのは私でしたね。

 これでは怒るに怒れません。

 

 

「それにお姉ちゃんも言ってたじゃない。『信じて』って」

 

 

 そう言う意味じゃなかったのですが……まあいいです。色々な誤解と偶然が重なって今があるんですね。

 シャルの土壇場の強さにはびっくりです。

 

 ……いけませんね。今日はシャルを負かせる気がしません。

 

 

「あのISはどうしたの?」

 

 

 シャルが使ったISはその形から恐らくラファール・リヴァイヴというフランスでは知らぬ者のない程有名なISだったはずです。

 それを齎したのは恐らく倒れていた方の女。あれがどういった人なのか分からないのでそこも聞いてみたいですね。

 

 

「白髪の女の人から借りたんだ。『お嬢様なら』って」

 

「お嬢様?」

 

 

 ラファール・リヴァイヴの開発会社はデュノア社、つまり父のところです。

 白髪の女は父の部下か何か?私達の危機を察知して彼女を派遣した?

 

 父が私達を守らせるのは違和感無いのですが、自分達の見えないところで事が動いているようでいい気はしませんね。

 

 

「その人は?」

 

「隣の病室にいるよ」

 

 

 隣の病室にいるとのことですので、動けるようになったら挨拶に向かいましょう。色々話を聞きたいですから。

 

 

「……動いちゃダメだよ?」

 

「……分かってるわ」

 

 

 と、思ったら釘を刺されたので大人しくしておきます。

 トホホ、と己の惨めな状態を振り返って嘆くことしかできませんでした。

 

 内心で涙を流す私の手を握ったシャルは、悔しそうな、悲しそうな顔で俯いて声を発しました。

 

 

「……お姉ちゃんがいなくなったら、やだよ」

 

「…………」

 

 

 本当はいなかったんです。とは言えず、絞りだしたようなシャルの言葉を聞いて曖昧に笑いました。

 何故よりによってシャルの姉に生まれ変わったんでしょうね?私にとっては幸運でしたが、作為的なものを感じざるを得ませんよ神様。

 

 ……とにかく、私はシャルの姉なのですからこんな失態は二度と繰り返さないようにしなければ。

 看護師さんがシャルの後ろから顔を覗かせるのを見ながらそう思いました。

 

 

 

 

 




 IS世界の姉は大体ハイスペックポンコツ(偏見)

 なおヴィオラは普通にポンコツな模様
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