FGOキッズが型月世界に転生した末路   作:夜未

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交渉

「うぉっ」

 

足が(モツ)れて転びそうになるのを、寸でのところで耐える。

周りを見渡すと、ここは商店街から少し教会側に進んだ位置であるようだった。

もう少し進めば墓地が見えてくるだろう。

 

「あら、ツトムおにいちゃん大丈夫?」

「ちょっと足が縺れただけだから大丈夫だ」

 

側にはデフォルメされた羊を抱きかかえた少女。

キャスターは俺が突然転びそうになったことに驚いているようだった。

 

また、白昼夢を見ていたようだ。

眉間をこする。

当然穴は空いていない。

そのことに少しホッとして、今度は墓地の方角を睨みつけた。

あの墓地にはアーチャーがいる。

少なくとも白昼夢ではそうだった。

いつもならあんな縁起の悪い夢を見たのだし、それを回避するように動く。

だが、今回ばかりは少し事情が違った。

 

「なぁキャスターちゃん。俺ちょっと用事思い出しちゃった」

「え?そうなの?」

「ああ。ここから学校の方に行って、川に沿って歩いていけば教会に着くから」

「わかった。ツトムおにいちゃんとごはん食べるの楽しみにしてたのに残念だわ」

「ほんとごめんな」

 

本心からそう言ってくれているらしいキャスターに心を痛めつつ、道を別れる。

俺は墓地へ、彼女は学校へ。

それはほぼ()()の方角である。

 

キャスターが見えなくなったのを確認してから、魔術回路を切り替える。

炎を吸い込んで内側から全身が燻されるイメージ。

ゾワゾワと背筋に悪寒が走り、魔術回路が本格起動したのを感じた。

 

『アサシン!アサシン聞こえるか!?』

 

魔力パスを通じてアサシンに念話を飛ばす。

やり方は一文字神父から聞いていたが、実際にやったのは初めてだった。

 

『なんや旦那はん。こないなこと出来たんか』

 

甘く蕩けるような声が頭に響く。

おおう、これヤバいな。

あんま何度もやってたら癖になりそう。

 

『さっき初めて挑戦した。じゃなくて!急いで来てくれ!場所は墓地前。下手したら戦闘が起きるからちゃんと戦闘できる姿で来てくれよ』

『何するつもりなん?』

 

『アーチャーのマスターと、交渉をする』

 

 

 

 

「それで、ホントにここにアーチャーがおるん?」

 

ものの1分も経たずにアサシンは墓地の前に現れた。

文字通り跳んで来たらしい。

格好は今朝渡した芋ジャージではなく、いつもの紫の着物。

戦闘準備は万端といったところか。

 

「ああ、いるはずだ。たぶん。おそらく」

「そこは断言してくれへんかなぁ」

 

アーチャーと交渉する目的はただ一つ。

俺たちの天敵たるセイバーの処理だ。

対セイバーといえばアーチャー。

バーサーカーでも悪くはないが、あの刺青男と手を組むのは絶対嫌だ。

しかも星五のアーチャーとなると、これはもうセイバーなんて楽に倒してくれるだろう。

セイバー版頼光のレア度がわからないが、例え星五同士だとしても相性有利さえあればゴリ押せる。

そのためにもアーチャーのマスターと話をつけて、うまい具合に共闘関係(フレンド)になっておきたい。

 

「よし!行くか!」

 

俺は自らの頬を叩いて気合いを入れ、墓地へと進んだ。

 

 

 

墓地には足を踏み入れると、アーチャーはすぐに姿を現した。

スタンバっていたのかと疑問に思うほどのスピードだったが、サーヴァントを従えたマスターが現れたのだからその早さも当たり前なのかもしれない。

女神(アルテミス)クマ(オリオン)が警戒した顔持ちで俺たちを見る。

いや、警戒してるのはクマ(オリオン)だけだな。

女神(アルテミス)の方はニコニコ笑っていて心情が読み取れない。

アサシンにしばらく控えておくように念話で頼み、アーチャーに話しかける。

 

「そう、警戒しないでくれ。俺はお前らのマスターと交渉に来たんだ」

「交渉だぁ?そんなおっかないサーヴァントを連れてか?」

「小心者だからな。大目に見てくれよ」

「ダーリン、あの人嘘はついてないわよ?ホントに話し合いに来たみたい」

「……はぁ、オマエがそういうならそうなんだろうな」

 

クマ(オリオン)がポリポリと頭をかく。

ぬいぐるみということもあって、可愛らしく見えないこともない。

結構好みの外見である女神(アルテミス)に目が吸い込まれそうになるが、意識してクマ(オリオン)に目を向ける。

 

「けど、可哀想ね。あの人たちの目的は果たせそうにないわ」

「それはどういう意味だ?」

「あー、言葉通りだ。俺たちのマスターがアンタらと会話することは絶対にない」

「ん?交渉決裂かいな?」

 

黙っていたアサシンが口を挟む。

会話の雲行きの怪しさを察して警戒しているのだろう。

俺の前へ出ようとするアサシンをジェスチャーで抑え、アーチャーとの話し合いを続ける。

 

「なんでだ?」

 

アーチャーからの殺気は感じないが、アーチャーの返答によっては戦闘となるだろう。

そう考えたら喉がカラカラに乾いて行く気がした。

そして、返って来たアーチャーの答えは、

 

「俺たちのマスターはもう死んでるんだ」

 

俺の予想を超えたものだった。

「は?」

「だから、もう死んでるんだって。昨日キャスターに()()()ちまった」

「すごかったよねぇ、私たちも危なかったし。あの子ちょっとした権能に届いてるんじゃないかしら」

「アンタも気をつけた方がいいぞ。あのキャスターに宣告されて、宝具を使われたらもう終わりだ」

「マスターが居ない?じゃあお前ら魔力はどうしてんだよ?」

「単独行動のスキルをしらねぇのか?アーチャーのサーヴァントはマスターが不在でもしばらく活動ができるんだ」

 

単独行動?

それってクリティカル威力が上がるだけのアレか?

ただのパッシブスキルにそんな効果あるはずないのだが……。

この世では変わっているのだろうか。

 

「まぁ、そんな訳でアンタらが幽霊と会話でも出来ない限り俺達のマスターとは交渉不可能ってことだ」

「じゃ、じゃあせめて───」

「ついでに言うと、俺たち自身も交渉に応じるつもりはない。別に聖杯戦争で勝ち残りたい訳じゃないからな。コイツと二人でいられたらそれだけで十分だ」

「ダ、ダーリン!そんなに私のことを思って……!」

「あ、でも美女がいたら是非紹介してくれると嬉しいです。はい」

「ねぇダーリン。射法・玉天貫(みこっと)、しとく?」

「すいません調子乗ってました許してください!」

 

 

こうして、アーチャーとの交渉は決裂に終わった。

 

 

 

沈みきった気分で教会へ向かう。

アサシンは交渉が終わると共に何処かへと消えてしまっていた。

ゲーセンにでも行ったんだろう。

アーチャーとの交渉によって、もう昼頃など通り越していたが、もしかしたらアリス先輩が待っていてくれないかという未練からだった。

 

立て付けの悪い教会の扉を開くと、そこにいたのは美人の先輩ではなく、狐目の神父。

 

「おや、どうしたんだい?随分とお疲れのようだけど。悩める子羊の悩みなら、聞いてあげるよ?」

 

一文字神父は貼り付けた笑顔でそう尋ねた。

 

 

 

「コーヒーにミルクと砂糖は?」

「ミルク一つ」

「了解」

 

教会の奥、生活スペースのキッチンで一文字神父にコーヒーを入れてもらう。

こんな場所には初めて入ったが、思っていたよりこじんまりとしていて、庶民的だった。

今の俺は一文字神父に勧めらるままにテーブルについていた。

 

「そんなにキョロキョロするなよ。恥ずかしいだろ?はい、ミルク入りコーヒー」

 

そういう一文字神父の手には二つのコーヒー。

差し出された方のコーヒーを受け取る。

一口飲んでみると、強い香りと、ミルク入りだというのに感じる深い渋み。

何というか、あまり飲んだことがないコーヒーだ。

俺が普段買うような缶コーヒーやパックコーヒーとは違った、高いヤツなのだろうか。

 

「美味しいかい?」

「大人の味がする」

「砂糖持ってこようか?」

「いいや、これでいいよ」

「そうか、存分に飲んでくれ。おかわりもあるからね」

 

またひとくちコーヒーを飲む。

なんだかやたらと一文字神父に見られている気がする。

コーヒーに自信でもあるんだろうか。

 

「しかし、君も苦労してるみたいだ。やっぱ聖杯戦争絡みなのか?」

「まあ、そんな感じかな」

「こんな儀式だからね。疲れてしまうのはしょうがないさ。そういえば、君は一体何を願うんだっけ?」

「え?俺は……」

 

何を願うか。

そんなこと考えすらなかった。

ただ聖杯戦争のお誘いがきて、サーヴァントに会ってみたい一心で参加したのだから。

俺は一体、何を願うべきなのだろう。

 

「言えないかい?秘密の願いというわけか」

「別にそういうわけじゃ……」

「ミナまで言わなくていいよ。願いってのは胸に秘めておくものでもあるからね」

 

一文字神父が自らのコーヒーに目を落とす。

俺の茶色のコーヒーとは違って真っ黒で、俺にはとても飲めそうにない。

というか一文字神父もコーヒーを全然飲んでない。

まさかカッコつけてブラックにしたけど、苦くて飲めないってオチか?

 

「願いというのは恐ろしいものだよ。叶う可能性があるものは特に」

「それはどうして?」

「どんな手を使ってでも叶えたいと思ってしまうだろう?

詳しくは言えないが、アーチャーのマスターなんて絶対にありえないはずだった願いが叶うチャンスが転がり込んできたって喜んでたよ。きっと彼はどんなイカサマをしてでも勝ち残ろうとするだろうね」

 

アーチャーのマスター。

神話に語られる狩人(オリオン)を、いやもしかしたら女神(アルテミス)を召喚しようとした人物。

故人となってしまっているが、もし彼が健在でアーチャーの力を存分に奮っていたら、大きな脅威となっていたはずだ。

 

「それに、イカサマに関してはぼくも人のことを言えないしね」

「え?」

 

一文字神父の言葉に聞き返そうとして、世界が流転する。

上は下へ。

左は右へ。

 

全身から力が抜けて、座っていたはずなのに崩れ落ちる。

一文字神父その様子に少しも驚いていないようだった。

 

「誰にも言ってないけど、実はぼくもマスターとして参加してたんだよ」

「まあ、こんなこと君みたいな死に損ないにしか話せないけどね」

「毒が効いてくれて本当に良かった。なかなか効かないから心配したよ」

「君のサーヴァントはアサシンだったよね?じゃあ君が消えればそのサーヴァントも敗退だ」

「これで勝者へと近づいた」

 

世界が流転する。

上は下へ。

左は右へ。

神父は悪魔へ。

 

 

そして、生は死へ。

 

 

「ぼくの願いのために、死んでくれよ。ヤシオリくん」

 




前話でアーチャーが主人公を攻撃したのは、自分のマスターの仇であるキャスターと一緒にいたのと、アサシンがいるのにキャスターと共にいる浮気者だったからです。
アルテミスゆえ仕方ないですね。
今回はアサシンと一緒に居たからセーフでした。

ちなみにアーチャーのマスターの聖杯でもないと叶いそうにない願いというのは、不治の病を患った子供の治療とかそんなんです。
最も、その願いは「凄い魔術の才能をもつ跡取りを失いたくない」という実に魔術師らしい感情から来てるんですが。


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