FGOキッズが型月世界に転生した末路 作:夜未
佐倉アリスの聖杯戦争
「神はいつでも私たちを見ていらっしゃるから、力の限り信じなさい」
「喜しい時も、怒れる時も、哀しい時も、楽しい時も、常に神に祈りを捧げなさい。祈りは必ず届くはずだから」
「信じるものは救われる。祈れるものは救われる」
そんな言葉をアリスの母親はいつも呟いていた。
恐らくそれは自己暗示だったのだろう。
彼女は決して幸せとは言える人生を送っていなかった。
虐げられ、追い込まれ、戯れに拾われて、捨てられた。
手元に残ったのは、自分を捨てた男によく似た娘が一人。
世間知らずの小娘か経験する、よくある話だった。
しかし、彼女は立派だった。
生まれてきた赤ん坊を見たとき、どれだけ苦しもうと立派な母親になろうと覚悟を決め、必死に努力した。
だが、頼れるものが誰もいないシングルマザーというのは誰が予想するよりも遥かに過酷なもので、次第に彼女は神に救いを求めるようになった。
そして、その命はアリスが7歳になろうかという時に散ることとなる。
子持ちの小娘に許される仕事は全て安月給で、無理に働いた結果だった。
過労によって体を崩し、それからは転げ落ちるように死に向かっていった。
病院にかかる金もまともになく、硬く冷たい布団の上で彼女は生涯を終えた。
その有様をアリスはじっと見ていた。
最期の最期まで愛娘の頭を撫でながら、神に救いを求めながら、死んでいく母親の姿を見ていた。
こうしてアリスの中にカミサマが生まれた。
しばらくして、彼女は遠縁の親戚夫婦に引き取られる。
夫婦はもともと子に恵まれておらず、アリスをとても大切に育てた。
これまでと違ってなに不自由のない生活のなか、アリスは母親と同じように教会に通い始めた。
母親の死を、その悲しみを、カミサマに
スクスクと育ち、アリスは中学生になった。
アリスはその頃にはもうクラスで一番と言われるほどの美貌を手に入れていた。
美しい金髪に涼やかな碧眼。
彫刻のような整った顔立ち。
圧倒的だった。
マドンナ扱いされ初めるのも時間の問題だと思われた。
だが、その美貌が仇となった。
クラスの中で最も力を持っていた女子生徒に目をつけられてしまったのだ。
気づけば周りに友人は誰一人おらず、靴箱には画鋲が入っているようになった。
彼女はその苦しみを祈りに変えた。
ああ、カミサマお願いします。
神という概念すらも理解せずに、ただ暴力的に願い続けた。
ある日、夫の浮気をきっかけにして義両親の仲が砕け散った。
仲の良かった夫婦は、暇さえあれば口論をするようになり、家で気の休まることはなくなっていた。
彼女はその悲しみも祈りに変えた。
ああ、カミサマお願いします。
自分の感情を全て右から左へと流すように、神に押し付け続けた。
毎朝毎晩毎日毎春毎夏毎秋毎冬毎年。
何か感情が生まれる度に教会へと足を運ぶ。
喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも。
全てを神に
そうすればいつか、救われると信じて。
高校生になってしばらく経って、アリスはモデルにスカウトされた。
彼女に新しい居場所ができたのだ。
アリスは神に感謝した。
苦しい学校でもなく、悲しい家でもない新しい居場所を与えてくれたことに。
だがしかし、その功績は奮わなかった。
いくら美しかろうとコネの一つもない小娘が生き残れるほどモデルの世界は甘くなかった。
初めは来ていた仕事は、すぐに途絶えてしまった。
そんな中持ちかけられた、モデルの先輩からの紹介。
アリスはその話に乗った。
祈り続けた神からの助け舟だと思ったからだ。
そうして、その結末が───
「なんで……私……そんなつもりじゃ……」
止まらない動悸と、体の震え。
アリスの視点の先には、ひとりの男が倒れていた。
でっぷりと太った腹を空に向け、仰向けに倒れる男。
寝ているように見えなくもないが、その男から尚も流れ続ける鮮血がそれを否定していた。
そんな筈がない。
そう信じながらアリスは男の脈を確認する。
けれど手首を触ろうが首を触ろうが脈が見つからない。
脈がない。
なぜこんなことになったのか?
簡単なことだ。
モデル界に流れるよくあるうわさ。
それが本当で、アリスはその餌食になりかけ、必死になってそれに抵抗しただけなのだ。
激しい揉み合いの抵抗。
バランスを崩した男は、運悪くもその頭蓋骨を砕いた。
「なんで……なんでなの……」
この話は、神からのご褒美だと思った。
祈り続けた自分へ遣わされた神からのチャンスだと思ったのに。
だがその実態は、権力だけはもっている男の醜い性欲だった。
「わたしは、わたしは悪くない!」
悪くない筈がない。
誰がどう見たって過剰すぎる防衛。
誰かに見つかったら逮捕は免れないだろう。
そんな事はアリスだってわかっていた。
ああ、カミサマ。
と、懲りもせず神に
その場に膝をついて、願うように
罪悪感も、恐怖も、不安も。
けれど、今回ばかりは訳が違う。
どれだけ祈ろうと、その罪は許されないとわかっていたから。
神は、殺人を許してくれないと知っていたから。
「わたしは………悪くない……」
口から絞り出すように声を出す。
そうしなければ崩れ落ちてしまいそうだった。
掠れ掠れになった小声を聞いて、情けなくなる。
視界は
ボロボロと頬から雫が落ちる。
誰かに、許して欲しかった。
神じゃなくてもいい。この際悪魔だっていい。
とにかく自分を肯定して欲しかった。
誰かに、
「ええ、そうね。貴女は悪くない」
独り言だったはずの声に、返答があった。
声変わり前の小さな女の子の声。
気づけば見覚えない人影が、男の死体の上に腰掛けていた。
キラキラと輝く白銀の髪。
どこまでも吸い込まれそうな金の瞳。
まるで、天使のようだとアリスは思った。
「こんなに怯えてしまって可哀想に」
死体から踊るように降り立った少女が、アリスに触れる。
優しく、その涙を掬うように。
「だけど、安心して。だって、この男は魔女だもの」
「ま、じょ?」
「ええ、そうよ。人の世界に潜む神の敵。殺すべきモノ」
少女が語る。歌うように。
アリスを見る金色の瞳はまるで無機質なガラスのようだった。
「だから、貴女は悪くない」
少女が告げる。
アリスが、求めていた言葉を。
アリスが、求めていた許しを。
涙が止まらなかった。
神は私を見捨てていなかったと、アリスは思った。
神が与えたもうた救いはあの男ではなかった。
この少女こそが、神が与えた救いなのだ、と。
あゝ、その姿はまさに───
「天使様……」
「天使?ふふ、違うわ。わたしの名前は■■■■■・■■■・■■■。聖杯によって呼ばれたサーヴァントの一人よ。
あなたが、私のマスターね?」
それは奇跡だった。
この部屋に配置された小物が1cmでもズレていたらこんなことは起こらなかっただろう。
だが、奇跡は起こってしまった。
部屋の小物、男の死体、アリスの立ち位置。
それらが、偶然にも原始的な生贄魔法陣に酷似していた。
魔法陣が、成立してしまった。
かくして
アリスの遠い先祖の魔術師の血を導として。
こうして、アリスは聖杯戦争に巻き込まれてゆく。
勘が良い人は気づいているかもしれませんが、アリス先輩はめだかボックスの蝶ヶ崎蛾々丸を元ネタにしてます。
今回の話から薄々分かる通り、起源も『転嫁』です。神に祈るというのは責任転嫁に似てるなーって考えてたらこんなキャラが生まれました。
というかここだけの話、キャスターの性格も一部めだかボックスの球磨川からイメージしてます。
この陣営だけ過負荷オーラやべぇな。
次回からはまたFGOキッズくん視点に戻ります。
ご感想お待ちしております。