FGOキッズが型月世界に転生した末路 作:夜未
神意を受けて、罪科または訴訟を決定するという考えから行われた裁判。鉄火・熱湯・くじなどを用い、正しければ神の加護により罰を受けないとした。
デジタル大辞泉より引用
グツグツと煮えたぎる鍋をみる。
今朝食べたアツアツのカップラーメンより遥かに熱そうだ。
この中に手を突っ込め?
それで火傷してなかったらセーフ?
バカじゃないのか?火傷してない方が余程怪しいだろ。
「冗談、だよな?」
「まさか。これは私の時代でも使われていた魔女を見分ける素晴らしい方法だわ」
キャスターの目は本気だ。
本気でこの方法で魔女を見分けられると信じている。
正気じゃない。
いや、そういえばFGOでもアビゲイルは狂気っていうクラススキル持ってたな……。
バスターUPだけでいいのになんで本当に狂ってしまったのか。
『なんとか打開策とかないか!?』
『魔術師なら魔術つこうて治せばええやん』
『俺にそんな高度な治癒魔術使えねぇよ!』
思わず念話で救いを求めるが、叶わず。
俺を心配する様子もなく、カラカラと笑っている。
どうやら止めるつもりはないらしい。
くそ、どうするべきか。
もしここで俺が躊躇って熱湯に手を突っ込まなかった場合、キャスターは俺を魔女認定して襲ってくるだろう。
そのカウンターとしてアサシンがキャスターを殺害、なんてことも普通にありえる。
わざわざ命張って助けたのにそんなことになったら本末転倒もいいところ。
なんとかしてここはやり過ごさなければいけない。
鍋の手をかざしてみる。蒸気に手が包まれた。
グツグツと浮かんでくる泡が、炭酸ではないことが証明されてしまった。
見た目は熱湯にしか見えないが、実は炭酸水でしたーなんでオチは用意してくれてないらしい。
けれど、どうにも妙だ。
蒸気に手を包まれているというのに、その熱を感じない。
それどころか湿り気すら感じない。
まさな幻覚?きっと本物だろう。
そもそもあのキャスターがそんな手心を加えてくれるとは思えない。
白昼夢の中では慈悲もなく殺しに来ていた。
だとしたら、何故だろう?
あ、いや……まさか……そうか!
ならばイケる!これならイケるぞ!
「この熱湯に手を浸すとして、どれくらいの時間すればいいんだ?」
「そうね……じゃあこのロザリオを取って貰おうかしら」
自分の首元からロザリオを取り、チャポンと音を立てながら鍋にロザリオを投入する。
よしよし、ツイてるぞ。
もし鍋に数分間手を浸しっぱなしにしろ言われたら詰んでいたかもしれないが、鍋の中のロザリオを取るくらいなら
「この鍋の中のロザリオを取って、火傷してなかったらいいんだな?」
「ええ、そうよ」
「言質とったからな!」
胸の前で十字を切り、神に祈る
「我にご加護を〜」とかそんな感じでブツブツ呟き。
しばらくそうした後、カッと目を見開いて鍋に手を思いっきり突っ込んだ。
そして、鍋底を漂っていたロザリオをわざと時間をかけてを掴み、今度は勢いよく引き抜く。
ゆっくりを手を開き、ロザリオを視認。
「これほどの加護を……おお、我が神を感謝します」
そして締めには神へ感謝するフリ。
俺の腕は、そもそも
その理由は極めて単純。
今朝に頭からかぶっておいた
その効果は防壁といいながらも体の表面に保護膜を張ってくれる程度なのだが、今回はそれがシチュエーションにドンピシャだった。
頭からかぶらなきゃいけないし、酒臭いし、効果は微妙だしとあまり信用していなかったのだが、何事も備えて置くものだ。
「これは……たしかにツトムおにいちゃんは魔女ではないみたいね。良かった」
正直俺からしたら熱湯に手を突っ込んで全く濡れてない方が魔女っぽいのだが、どうやらキャスター的にはセーフだったらしい。俺が頑張った大袈裟な神への祈りのおかげもあるかもしれない。いや無いな。
キャスターが纏う雰囲気が、不気味で狂気的なモノから昨日のような年相応の少女のものへと戻る。
難は去ったようだ。
「それで、これからどうしましょうか」
「どうしよう、とは?」
なんとか未曾有の大ピンチをくぐり抜けた俺は、これからの事に頭を悩ます事になった。
あざとく首を傾げるアリス先輩に和みながら、一文字神父の思考を考えてみる。
白昼夢からの情報によると、どうやら彼はどうしても叶えたい願いがあるらしい。
それを叶えるためにどんな手を使ってでも聖杯戦争に勝とうとしている。
彼が従えているサーヴァントは、セイバー源頼光。
アサシンとは致命的に相性が悪く、白昼夢内ではキャスターもあっさりとセイバーに殺されていた。
いや、そもそもアサシンにもワンパンされていたし、キャスター自体があまり強くないのかもしれない。
星5のアルトリアがオルタになった途端星4に下がることもあるのだから、
キャスターのレア度は置いといて、セイバーはとにかく強い。
準人権鯖と呼ばれていただけあって、もしかしたら今回の聖杯戦争では最強な可能性すらある。
少なくともアサシンやキャスターがタイマンしても勝てる気がしない。
だとしたら、このままアリス先輩と手を組んでしまうのが一番いいだろうか。
二体掛かりならなんとかなるかもしれない。
本当はFGOと同じように三体パーティを組めたら一番なのだが、アーチャーは力を貸してくれそうにないし、バーサーカーとは敵対関係だ。
だとしたら、俺が取るべき行動は……。
「先輩。とにかく今は学校に行きましょうか。流石に学校では手を出してこないでしょうし。詳しい相談は道すがらにでも」
魔術の秘匿はこの世での常識だ。
俺も父親に口を酸っぱくして教え込まれた。
下手に家に引きこもるよりは、人が多い場所に紛れたほうがずっと安心だろう。
「じゃあ、放課後また
「はい、わかりました」
そうして、俺は初めて放課後の約束をしながら先輩と校門で分かれた。
「待ちました?」
「いえ、私もいま来たところですから」
周りから突き刺さる嫉妬の視線に思わず愉悦を覚える。
ふはは、美人な先輩とのデートみたいなやりとりが羨ましいか非モテども!
お前たちも俺のようになりたいならまず教会で祈るところから始めるんだな!
「あの、どうしました?そんなにキョロキョロして」
「問題ないです。
朝の約束どおり合流してから、アリス先輩と二人で帰宅路を歩く。
今朝、登校しながらサーヴァントたちの意見も聞きながら相談した結果、やっぱり協力同盟を組むことになった。
なったのだが……なんというか、英霊というやつらは実に恐ろしいもので、サラッとトンデモない提案をしてくる。
一番初めはキャスターだった。
少女らしい無垢な表情で「せっかく同盟を組むのだから、しばらくは一緒に住んだらどうかしら?」なんて言い出した。
アサシンは面白がってそれにノリノリで肯定。
なぜかアリス先輩も断らなかった結果、アリス先輩は聖杯戦争中はうちに泊まることになったのだ。
確かに完全なる一般家庭であるアリス先輩の実家にいるより、魔術師の家であるうちにいる方が防衛力はあるのだが、美人の先輩が家に泊まりにくるだなんてギャルゲやエロゲみたいなシチュエーションに困惑を隠せない。
あ、そういやfateって元々はエロゲなんだっけ?
興味ないから全く調べたことなかったけど、もしやこのシチュエーションもそのせいなのだろうか……?
「そういえば、うちに泊まるのはこの際いいですけど、ご両親は大丈夫だったんてすか?」
「はい、大丈夫です。ちゃんと了承はとっておきましたから」
「そうなんですか。じゃあ安心ですね」
「荷物もキャスターちゃんとアサシンさんに頼んで学校をやってるうちに運んで貰いました。準備万端です」
ふんす、と自信満々に答える。実にあざとい。
そんな具合に会話に花を咲かせながらアリス先輩と帰る。
何度も行きだけじゃなく帰りもアリス先輩と一緒にいたいな、なんて考えたことがあったがまさかこんな突然叶うとは……。
無意識に少しはしゃいでしまう。
だからだろうか、俺は周りのことが目に入っていなかった。
赤信号の待ち時間。
アリス先輩との会話に盛り上がっていた俺は、背後に忍びよる人物に気づかなかった。
「うぉ!?」
強い力で背中を押されてバランスを崩す。
真っ直ぐに、
頭が真っ白になる。
真っ白になって、「これは危ない、早く戻らなきゃ」なんて考えるよりも早く、俺は突っ込んできた自動車によって吹き飛ばされた。
すぐそばにいたアリス先輩の悲鳴が響き渡る。
周りの人間が一斉に動きを止める。
全身が痛くて熱くて、頭もまともに働かなくて、「ああ、これは死んだな」って本能的にわかった。
前世でも交通事故で死んだのに、今世でも交通事故かよって。
けれど、今回は前世と少し違った。
前世では勢いよくトラックに轢かれた。
けれど、今回はつくづく運が悪かったらしい。
俺は車に轢かれた。轢かれたけど、即死じゃなかった。
激しい痛みと死が忍び寄ってくる感覚のなかで、俺は
痛くて痛くて。
一体俺がどれくらいの時間そうしていたのかなんてわからない。
たったの数十秒間だったかもしれないし、数時間だったかもしれない。
苦しくて苦しくて。
気が狂いそうだった。
ぐしゃぐしゃになった全身が、熱かった。
体から
脳から放出されたアドレナリンによって時間が引き延ばされる。
寒くて寒くて。
アリス先輩の泣いてる声がした。
キャスターの心配する声がした。
痛くて苦しくて寒くて熱くて悲しくて悔しくて痛くて寒くて熱くて悲しくて苦しくて悲しくて痛くて寒くて熱くて悲しくて苦しくて痛くて痛くて痛くて痛くて。
なのに、死なない。
痛くても死なない。苦しくても死なない。寒くても死なない。熱くても死なない。悲しくても死なない。悔しくても死なない。死にたくなくても死なない。
───死にたくても死なない。
激痛と苦しみのなか、死がゆっくりと近づいてくる。
もはや眼前まで近づいてくる。
だというのに死はおれをつかまえない。
思コウがにぶって、感カクがきえていいく。
けれど痛みだけはいつまでもいつまでもいつまでも。
ああ、くるしい。ああ、いたい。
ああ、どうか、おれを、はやく、しなせて、ください
キャスターの神明裁判を目の前で乗り越えた故に、キャスターはこれからは主人公に魔女疑惑を抱きません。
なにせ彼女は本気で神明裁判を信じているので。狂気Bは伊達じゃないんですね。
ちなみにアリス先輩はメールで義親に友達の家に暫く泊まると伝えており、夫婦仲崩壊で精神的余裕もない義親はそれを了承しました。
また、アリス先輩が主人公の家に泊まることをokしたのは、ギスギスしまくってた実家から逃げ出せるからです。
しかも、キャスターの英才教育によってアリス先輩は悪人=魔女という洗脳をされているので、魔女ではない主人公を信頼しており、男女の間違いが起こる可能性など少しも考えていません。ピュアですね。