FGOキッズが型月世界に転生した末路 作:夜未
野叉彰の聖杯戦争
しいていうなら、生まれたこと自体がオリジンであろう。
男は、なんの変哲もない平凡な家庭に生まれた。
母親一人、父親一人、3歳年の離れた兄が一人。
どこにでもいるような、普通の家族だ。
説教として怒鳴られることはあっても、理不尽に
両親も我が子を雁字搦めにするような過干渉というわけでもなかった。
むしろその逆の放任主義に近かっただろう。かといって完全に放置するわけでもなく、ダメなことはちゃんとダメと伝える。
3歳年上の兄は、兄として弟の世話を見ようと優しく接し、喧嘩にだって発展したこともなかった。
お世辞にも不幸だなんて言えない、恵まれた家庭環境だ。
そんな家庭に、彼は生まれた。
そんな幸せな家庭に、彼が生まれてしまった。
彼がソレに目覚めたのは小学校に入ってすぐことだった。
ある日、偶然目に止まった古臭いサスペンスドラマシリーズ。
ストーリーも、映像技術も、演技も、そのサスペンスドラマはとことん平凡だった。
特に心を惹かれる要素もなく、当時流行っていた流れにストーリーを当てはめただけのような
けれど、そんな駄作こそが彼の起源を揺りうごかす事となる。
サスペンスなら必ずある犯人による被害者の殺人シーン。
そのシーンが幼い少年の脳にべったりと刻まれていった。
トラウマ?いいや、そうじゃない。
ひらがなを覚えるように、足し算を覚えるように、彼は当たり前の知識として殺人を覚えたのだ。
人は、頭を打ったら死ぬ。
人は、首を絞められたら死ぬ。
人は、腹を刺されたら死ぬ。
人は、背骨を折られたら死ぬ。
人は、動脈を切られたら死ぬ。
人は、高所から突き落とされたら死ぬ。
人は、銃で撃たれたら死ぬ。
人は、車に轢かれたら死ぬ。
人は、海に沈められたら死ぬ。
人は、燃やされたら死ぬ。
人は、毒を飲まされたら死ぬ。
人は、精神的に追い詰められたら死ぬ。
人は、獣に襲われたら死ぬ。
人は、必ず死ぬ。
ああ、こんなものかと少年は悟った。
人間は
その頃には彼は中学生になっていた。
答えを得たならば、それが正しいのか確かめたくなる。
数学のテストを検算したくなるように。
中学2年生の夏休みのこと、彼はそんな軽い気持ちで始めて人を殺した。
彼が得た答え通りに、あっさりと殺せてしまった。
彼には、人を殺す天賦の才があったのだ。
気づけば男は裏世界に身を浸していた。
人を殺せば金が貰えた。
息をするように人を殺す男にとっては、それはまさに天職。
むしろ何故他の人間がやらないのか不気味に思うほど、彼にとっては簡単で、割りの良い仕事だった。
あいつを殺せ、と命令してきたから目標を殺してやった。
所持金が底をついて悲しかったから殺してやった。
特別機嫌が良かったから殺してやった。
涙ながらに懇願してくるから殺してやった。
頼まれたから仕方なく殺してやった。
殺してやりたかったから殺してやった。
特になにもないけど殺してやった。
そうして裏社会で有名になり始めた頃、彼の元へ一つの依頼が舞い降りてきた。
ターゲットはある神父。
その依頼が、彼の人生を大きく変えることなる。
細身の体に、ニコニコと弧を描く狐目。
清廉なる雰囲気を湛えた教会に、わざわざ足を運んでターゲットを見にきてみれば、現れたのはそんな男。
瓶底メガネも相まって、いかにも鈍臭さそうな神父というのが第一印象だった。
「はァ?なんであんなヤツがこんなに報酬良いんだよ?あんなの俺に依頼しなくても殺せるだろ」
とうとうと聖書を朗読する神父を横目に教会から出る。
ターゲットも確認したし、もう十分だと判断したからだ。
どうやらあの神父はこの教会で暮らしているようだし、夜にでも忍び込んでその首を掻っ切ればいい。
きっと、料理用のナイフでだってそれくらい容易いだろう。
けれど去り際、神父が妙に男を見てみるのが少し気になった。
いや、正確にいうならば嫌な予感がした。
そして、こういう時の嫌な予感というのは当たるのが相場なのだ。
「やぁ、いらっしゃい。君が来るのを心待ちにして待っていたよ」
草木も眠る丑三つ時に教会へ忍び込んだ男へ歓迎の言葉が送られる。
場所は礼拝堂。窓から差し込む月光によって昼とはまた違った神聖さが満ちていた。
昼と同じように、神父はニコニコとした笑顔を晒している。
だというのに、男にはその神父が昼間とは全くの別人物に思えた。
「……てめェ、何者だ?」
「僕が気になるのか?
そうだな……僕の名前は
「巫山戯てんのか?」
「ふざけてなんかないさ。君が欲した情報を僕は言っただけだ。ああ、でも一つ言い忘れてたことがあった」
神父の口がクルクルと淀みなく回る。
経験から神父は己よりも弱いと直感しているのに、男はどうしても動けなかった。
無警戒に立っているだけの神父が、
なにかを仕掛けているんじゃないかと疑ってしまって、下手な行動を取れなかった。
「君に僕を殺すように依頼した依頼者だよ」
「はァ?」
「ちょっと君に会ってみたかっただけだよ。
「そこまでして俺になんの用だよ。殺って欲しいライバルでもいんのか?」
神父の口がクルクルと淀みなく回る。
刺青男を絡めとるように、雁字搦めに逃がさないように。
「まさか、僕はアゲハ蝶と人だけは殺さないと決めてるんだ。君に来てもらったのはもっと別の用だよ」
「別の用ゥ?」
そこでようやく男は気づいた。
いや、正確には神父の目が始めて開いたと言った方が正しいか。見えなければ気づきようがない。
「君には、僕の
神父の口がクルクルと淀みなく回る。
けれど神父の瞳は、どうしようもなく淀み切っていた。
男にはその瞳に見覚えがある。既視感がある。
鏡の中の
男は直感する。この神父は鏡写しの自分だ。
毎朝鏡の向こうに立っている、自分なのだと。
男はいつか顧客から聞いたことがあるジェイルオルタナチブ理論というモノを思い出した。
世界の全ての事物は代替が可能であるというケッタイな理論だ。
たとえ俺が
「予備……予備ね。確かに俺とてめェならピッタリだろうな」
どうしようもなくそっくりで、どうしようもなく同じだった。
見た目は全くの真逆だ。
顔に大きな刺青を入れた軽薄な男と、神父服に身を包んだ狐目の神父。共通点を見つける方が難しい。
けれど、二人は共にわかっていた。
互いを互いに鏡写しの自分だと認識していた。
神父の手が、男に向かって差し伸べるように向けられる。
「
だからさ、聖杯戦争って興味ないかい?」
神父はニコニコとした笑顔ではなく、心の底から浮かべるような醜い笑顔を浮かべていた。
「乗ってやるよ。この詐欺神父め」
刺青男もまた、神父と同じように歪んだ笑顔を浮かべて、その手を掴んだ。
こうして、
刺青男掘り下げ回でした。
本当はもう少し後でやる予定だったんですけど、本編が予想以上に難産なのでこっちを先倒しで投稿しました。
カンが良い人は気づいているかもしれませんが、
戯言シリーズを読んだことがある方ならきっと神父のモデルもバレてしまうでしょうね。零崎人識の鏡写しと言ったら彼ですから。
ご感想お待ちしてます。