FGOキッズが型月世界に転生した末路   作:夜未

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遅くなりました。


問答

「谷栞くん?急がなきゃ席なくなっちゃいますよ?」

「───あ、はい。すみません」

 

先輩に声をかけられて目が覚める。

どうやらまた白昼夢を見ていたらしい。

しかも今回は不吉極まりないことに、()()()()()()()急に死んでしまった。

一体、夢の中の俺はなぜ死んだのだろう?

 

ああ。いけない、いけない。

またどうでもいいことに意識を飛ばしかけていた。

ついさっき無駄に気を張るのはやめようと決めたばかりなのだから、気楽に行こう。

白昼夢がなんだ。ただの不気味な夢だろう?

気にすることはないさ。

それよりは今はアリス先輩との昼食タイムの方がよっぽど重要じゃないか。

 

神父服の男にぺこりと会釈し、アリス先輩と共に───待て、()()()だと?

なぜ、学校にそんな格好をした人物がいる?

おかしいぞ、おかしいだろう。

おかしくない事がおかしいんだ。

なぜ、こんな露骨な異常を俺はおかしいと思わなかった?

 

アリス先輩を庇うようにして神父服の男と対峙する。

神父服を纏った瘦せぎすの体に、瓶底眼鏡の奥で弧を描く狐のような目。ああ、間違いようがない。

この男は、一文字 秋詠だ。

 

「なんでアンタがここにいる?」

「あれ?この魔術には自信があったんだけど、よくわかったね」

 

一文字神父はまるでイタズラがバレた子供のように罰の悪そうな苦笑を浮かべた。

油断しそうになる態度だが、彼は依然としてその足に灰色の鎧甲を纏っている。

しっかりと確認は出来ないが、おそらくは小型銃も袖口に隠している事だろう。

つまり、臨戦態勢ということだ。

 

「谷栞くん?急にどうしたんですか?」

「はぁ?どうしたもなにも──」

「無駄だよ。その娘はこの状況に違和感を覚える事ができない。いや、正確にはこの場にいる全ての生徒が、かな」

「違和感を覚えられない?」

「彼らには僕の事が()()()に見えてるんだよ。僕がなにをしても自然体に見える。それが当たり前であると勘違いして意識を向けられない。ドラえもんの石ころぼうしって言えばわかるかな?」

「残念ながらドラえもんの道具なんざどこでもドアとタケコプターくらいしか知らなくてね。なにせアンパンマン派だったもので」

『アサシン!聞こえるか?』

「なんだって?君それでも本当に日本人か?ドラえもんはジャパニーズの義務教育だろ?」

『なんやだんなはん。えらい切羽詰まった声出して』

「んなこと聞いたことがねえよ」

『学校で一文字神父から襲撃を受けた。助けに来てくれ』

「つまり君はアレか?ドラえもんの漫画を読みながらあんなこといいな出来たらいいなって色々妄想した経験がないってことか?」

『えらい面白(オモロ)いことなってんなぁ。わかった、全速力で向かうわ』

「ないね」

『頼んだぞ』

「なんとも嘆かわしい限りだね。どうやら君とわかり合うことはできなさそうだ」

「なんだよ?ドラえもんを知ってたら同盟でも組んでくれたのか?」

「まさか、残念ながらドラえもんにそこまでの思い入れはないよ。実を言うと僕もあの作品は数えるくらいしか見たことがないんだ」

「義務教育云々はなんだったんだよ」

「さあ?誰の得にもならない空言じゃないかな」

 

しょうもないことに怒り、すぐにどうでもいいと投げ捨てる。

口から紡がれる言葉全てが嘘であるような、まるで条件反射(ムイシキ)で話しているみたいな語りぶり。

一文字神父とは業務的な会話しかしたことがなかったが、存外彼はめんどくさい性格をしているらしい。

だが、そのおかげでアサシンと連絡を取れたのは僥倖だろう。

彼女が今どこにいるのかは知らないが、サーヴァントの力をもってすれば直ぐに合流してくれるはずだ。

 

それまで時間を稼げばなんとかなる……はず。

チラリとアリス先輩を確認すると、未だに一文字神父の術中に囚われているようだった。

俺がなぜこんなことをしているのか本気で理解出来ていない顔をしている。

さっきした会話の中で、キャスターもこの状態に違和感を覚えてないと言っていたので、戦力にはならない。

つまり今行動できるのは俺一人。

俺一人だけで一文字神父から時間を稼がなければいけない。

そういえばセイバーはどうした?

見渡せど姿が見えない。霊体化しているのか?

慢心して一文字神父が連れてきてない、なんてオチなら最高なんだが。

 

「とりあえず、場所を移動しないか?ここで戦闘するとしたら生徒を巻き込んでしまう」

「君たちが抵抗せずに大人しく死んでくれたら、周りに被害は出ないよ」

「それは脅しか?」

「ただの親切な提案さ。神に仕える神父が脅しなんてするわけがないだろう?」

「マトモな神父なら聖杯戦争(殺し合いゲーム)なんか開催しないだろ」

「そうは言っても聖杯戦争の監督役を神父がするのは決まりごとなんだよ。テンプレと言ってもいい。文句ならこんなシステムを一番はじめに作った人達に言って欲しいな」

 

場所移動の失敗に内心舌打ちをする。

いいや、失敗どころじゃない。

この男はいま「大人しく殺されなきゃ周りの人間を巻き込むぞ」と脅してきたのだ。

聖職者とは思えない言葉だが、彼はやると言ったらやる。

経験(白昼夢)でそれを、俺ははよく知っている。

 

「ところでさ」

「なんだよ?」

「君は一体何を願ってこの戦争に参加したんだい?」

 

また、この質問だ。

いつかの白昼夢でも聞かれた質問。

確かFGOでもマイルームで各サーヴァントに聖杯への願いを聞くことができたな、なんて他人事のように思い出した。

彼らは一体何を願っていただろうか?

俺は、一体何を願いたいのだろうか?

何か適当に答えようとしても喉から声が出ない。

当然だ。その適当な答えすら俺は思いつかないんだから。

 

「だんまりか。まあ、わかっていたことではあるかな。けれど、これだけは聞いておこう。

────君は、本気で聖杯戦争を勝ち残るつもりなのかい?」

「は?」

「僕とて好きに人を殺したいわけじゃないんだよ。僕の鏡(あっち)は殺人者だが、僕自身は平凡な神父に過ぎないからね。だからもし君が聖杯戦争をここで降りるというなら、僕が君を殺す必要はなくなるんだ」

 

特に表情を変えるわけでもなく、神父はそう宣う。

大事な交渉というわけでもなく、本当にどっちでもいいと内心思っているのが透けて見えるやる気のない提案だ。

降伏(サレンダー)すれば見逃してくれるだと?

確かに冷静に考えれば、もうゲームから降りたプレイヤーを殺す必要はない。道理は通っている。

 

「本気で言ってるのか?」

「もちろん。僕は嘘はつくけど、約束は守るタチなんだ。ついでに言うとそっちの方が楽だからね。君はただ令呪で命令するだけでいいのさ。『自害せよ』ってね」

「そんなこと……」

『あー、だんなはん。緊急連絡や』

『どうした?アサシン』

『高校に着いたんやけど、鬼払いの結界が張ってあるわ。強烈(きょおれつ)なヤツ。入れんことはないんやけど、時間かかりそう』

『どれくらいだ?』

『んー、(はよぉ)ても5分はかかりそうやなぁ』

「どうしたんだい?急に黙って。あ、もしかしてアサシンと連絡を取ってるのかな。だとしたら残念ながら対策をさせて貰ったよ。鬼に対する術式なんて五万(ごまん)とあるからね。この高校には鬼は入ってこれないと思ってくれ」

 

パチンと一文字神父が指を鳴らすと、虚空からセイバーが現れる。

しかもご丁寧に抜刀済みで準備万端と来た。

 

「さて、答えを聞こうか」

 

ああ、クソったれが!

万策尽きたとはこのことか。

笑えない。お世辞にも笑えない。

どうする?どうすればいい?アサシンの言葉を信じるならあと5分は時間を稼がなきゃいけない。

今までは会話で無理に稼いできたが、この様子からはとうてい出来そうにない。

周りの様子を伺うに、セイバーにも自然体の魔術とやらを掛けているらしく、廊下には相変わらず生徒が居残っていた。

逃げるのはダメだ。他の生徒が巻き込まれるかもしれないから。

戦うのは無理だ。魔術酒も持って来てないし、アサシンは校舎に入ってくることすら出来ないから。

だとしたら、だとしたら──俺に残された選択肢はもう一つしからないじゃないか……ッ!

 

「……わかった。俺はこの聖杯戦争を、()退()()()

「うん、僕としてもそちらの方が有難いね。とは言え言葉だけじゃあ足りないな。ほら、令呪は残っているんだろう?」

「…………」

『アサシン』

『ん?今ちょっと忙しいんやけど』

『ごめん』

「───令呪をもって命じる『自害せよ、アサシン』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

令呪が然りと輝き、しばらく経つとアサシンとのパスがプツリと途切れた。

あと一画残っていた令呪も、解けるようにして消えてゆく。

俺が、マスターではなくなった証拠だった。

 

「よし、君の覚悟は見せて貰ったよ。君はこれから聖杯戦争とは何の関係もない一般人だ。」

 

一文字神父が柔和な表情でそう告げると、セイバーは霊体化して姿を消した。

助かった?ああ、助かったのだ。

そして安心の束の間、酒呑童子を生贄にしたという罪悪感が胸を蝕む。

本当にこれで良かったのか?

自分のために、彼女を犠牲にして、俺は本当に……。

いいや、これでいい。これでいいんだ。

そうだ。これで良かったのだ。こんな詰んだ状態で生き残るにはそれしかない。もともと俺が聖杯戦争に参加したのだって、サーヴァントに会ってみたい一心だったのだし、目的はもう完了している。聖杯にかける願いなんかない。聖杯戦争で勝ち残る手段もない。だとしたら、こうするしかなかった。俺は間違っていない。確かに酒呑には悪いことをしたけど、彼女もきっとカルデアにでも戻って金時とイチャイチャしてることだろう。そうだ、そうに違いない。彼女のことだから、笑いながら今回の聖杯戦争を話しているに違いない。生き残るためだったんだ。仕方ない。しょうがない。だから俺は───

 

「じゃあ、君の後ろの娘を殺すからどいてくれるかな?」

「え?」

 

背後を振り返る。

アリス先輩は相変わらず立っていた。

少し困ったような顔をして、俺のことを待ってくれていた。

一文字神父が何を言っているのかわからない。

わかりたくない。

 

「ほら、その子もマスターだろう?上手く術中にはまっているうちに殺した方が楽だからね。もちろん君のことは殺さないよ。だって君は自分のサーヴァントを殺してもう聖杯戦争には関係ない人間になったからね

でも、彼女は別だ。今もマスターとして健在している。

ああ、グロ耐性がないなら目を覆ってどこかに逃げればいいよ。流石に友人が死ぬのを目の前で見たらトラウマになるかもしれないからね。

───さあ、そこをどいてくれよ」

 

アリス先輩を差し出す?

簡単なことじゃないか、アサシンと同じだ。

ここで彼女を見殺しにすれば、俺は生き残れるんだ。

カチャリと神父の手元から金属の音がする。

いつか見た小型銃だ。人を殺すための凶器だ。

あの銃ならアリス先輩の命なんて容易に散らせられるだろう。

息が切れる。

きっと即死だ。苦しくない。

 

「ア、アリス先輩も降伏すればいいんだろ?」

「いや、それはダメだ。二人以上見逃すのは不都合が出るからね」

 

ハッ、ハッ、ハッと走った直後みたいな呼吸音。

仕方ないといった表情で一文字神父がこちらに近づいて来て、ちょうどの俺の肩越しに手を伸ばしてアリス先輩の頭に押し付けるように銃を向ける。

カチリと、撃鉄をあげる音がする。

 

「ああああああああああ!!!」

 

気づけば一文字神父を突き飛ばしていた。

怖かった。目の前で人が死ぬのが怖かった。

少しよろけた一文字神父は呆れた表情を浮かべる。

 

「全く、なんて邪魔するんだ?さっきは簡単にアサシンを見捨てたクセに」

「ち、違う!それは……!」

「何も違わないよ。アサシンが目の前にいなかったから実感がなかっただけで、これらは何も変わらない」

「違う!違う!!」

「まあ、いいや。だとしたら君も殺さなきゃね」

「は?いやだって俺は」

「そのマスターを守るというんだろう?だとした一般人とて容赦はしない。それが、君の選択なんだから」

 

真っ黒な銃口が今度は俺に向けられる。

凶器が、殺意が、俺に向けられる。

アリス先輩はその様子をなんの違和感も覚えずに見ている。

周りの生徒たちは友人と幸せそうに笑っていた。

一文字神父の心情は顔からは読み取れない。

セイバーは姿を現さない。

キャスターの声は聞こえない。

 

アサシンは、もういない。

 

 

俺を助けてくれる人は、誰一人としていない。

 

 

そして、廊下に脳漿がぶちまけられた。




ひたすら神父に踊らされた話でした。
でも主人公が本気でアリスも見捨てていたら神父は主人公を見逃すつもりでいました。
彼は約束は守る神父(自称)なので。

また、作中の描写からなんとなくわかる通り、主人公は目の前にアサシンがいたならば自害させることなんて出来ません。覚悟が足りませんね。

鬼払いの結界というのは元ネタ皆無の設定なんですけど、長年鬼と戦って来てるんだからそれくらいの魔術開発されてるだろうってことで登場です。
効果としては鬼が通ることが困難な壁で覆うとかそんな感じ。
壁で覆う系の結界なので、ワープは素通りです。つまり令呪ワープを使うのが最適解でした。もっとも、主人公は令呪ワープの存在を知らないのでそんな事思いつきもしないんですけど。

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