FGOキッズが型月世界に転生した末路 作:夜未
白昼夢が頭に叩き込まれ、堪らず膝をつく。
くうくうと空腹を主張していた腹からすっぱいものがこみ上げて来て、口を押さえてなんとか耐えた。
なんだあれは?
なんだ今の
追い詰められ、チェックメイトを宣言されて、アサシンを殺して生き残って、アリス先輩を見捨てられずに殺される。
今までの白昼夢の中でも最高に最悪な
「や、谷栞くん!?どうしたんですか!?」
「どうしたんだ?調子が悪いなら保健室にでも行くことをオススメするよ?」
アリス先輩の声が聞こえる。
一文字神父の声が聞こえる。
落ち着け。今の状況を整理するんだ。
まず、俺は一文字神父を認識している。その存在を違和感として遺憾無く感じられている。
だが、相変わらずアリス先輩とキャスターは一文字神父の術中だ。
次に、まだアサシンには連絡を取っていない。
一文字神父と適当な問答をやりながらアサシンと連絡を取ろうとして、白昼夢を見た。
吐き気が治まってきた。
考えろ、考えろヤシオリツトム。
白昼夢の情報を整理するんだ。
アリス先輩、キャスターは共に俺の最期まで目覚めることはなかったこと。
この高校には鬼払いの結界とやらが貼ってあり、アサシンを今から呼んでも間に合わないこと。
一文字神父は霊体化したセイバーを今も連れていること。
そして、彼は俺が逃げたら躊躇いなく周りの生徒達を巻き込むだろうということ。
ああ、クソ。もうこの時点で詰んでいる。
フル装備一文字神父と、大英雄であるセイバー。
この二人をなんとかできる
魔術酒もまともに持ってきていない俺では戦闘は不可能。
アリス先輩は言わずもがな。キャスターは教会でセイバーに一方的に殺されていた。
対抗できる戦力がない。
───いや、本当にそうか?
刹那的に脳裏を走った発想。
自分の考えの筈なのに、その発想に吐き気が湧き上がってきた。
詳細は不明だが、キャスターは
その強力さは、俺もよく知っている通り。
アサシンをして、防戦一方へと追い込まれかけた
だが、そのスキルは周りの環境に強力さを左右される。
例えば、人が全く寄り付かない人払いが成された教会などでは、その効果は発揮出来ないだろう。
必要なのは周辺の人なのだ。
昼下がりの商店街のような、人の多さ。
思考は疾る。
未だ嘗てないほど軽快に、調子よく。
だが、同時に精神は掻き毟られる。
吐き気は湧き出て、息は切れ、全身が小刻みに震える。
白昼夢内ではキャスターは確かにセイバーに負けていた。
だが、それは
ちゃんとキャスターに有利な
いや、もし倒せなくても
だが、キャスターの能力は、人を
湯水のごとくとは正にあの様。
キャスターがただ能力を発動するだけで、その場は戦場よりもなお凄惨な地獄となる。
「先輩、俺の言うことを復唱してくれませんか?」
「え、いいですけど……」
悪魔の発想だ。最悪の発想だ。鬼畜生の発想だ。
思いついてしまった自分が気持ち悪い。
気づいてしまった自分が憎い。
だけど、だけど俺は───
「令呪をもって命じる」
「れ、令呪をもって命じる」
───死にたくない!
「「『 キャスターよ、目を覚ませ 』」」
虚空から突然現れた少女は、目を見開き、違和感に気づく。
聖杯より与えられた知識によると、ありえない状況。
どうしてタダの高校に神父などが現れようか。
そんなの、おかしいに決まっているのだ。
「あら?どうして
かくして
「令呪を使ってキャスターを目覚めさせたか。アサシンを呼ぶべきだったと僕は思うけどね」
けれど、一文字神父の表情は変わらない。
なぜなら、彼には最強のサーヴァントがいるのだから。
一文字神父がわざわざ言葉をかけるまでもなく、セイバーが霊体化を解き、キャスターの前に立ちはだかる。
昨日無茶をしてでも中断させた二人が、皮肉にも
一文字神父は余裕の表情だ。
セイバーも少しの警戒すら抱いていない。
キャスターを脅威だなんて思っていないのだろう。
それに、キャスターの本人の戦闘力はそこらの一般人と変わらないとアサシンは言っていた。
アサシンとライバル関係にあるセイバーなら、当然同じようにキャスターの戦闘力など読み切っているはずだ。
負ける要素などサラサラない。
そう、思っているのだろう。
「どうして気づかなかったのかしら。こんな違和感、わからない方がおかしいのに」
こいつらは知らないのだ。
キャスターの恐ろしさを。
その脆弱さゆえに恐ろしいと、
即ち彼女は無辜の市民に過ぎないのだ。
警戒などするはずがない。
英雄ならば、むしろ守る側にすら近いキャスターに警戒など抱かない。
慢心を、してしまう。
英雄ならば、英雄であるほど、少女に慢心してしまう。
魔術もまともに使おうとしない少女に、油断してしまうのだ。
彼女の
「まるで……そう、まるで魔法みたい。人を騙す魔法みたい」
キャスターは唄う。
小鳥のさえずりのようなささやかな声。
一文字神父もセイバーも、そんなこと気にはしない。
タダの少女の呟きなど、気にも留めない。
それこそが、
俺は知っている。
身をもって知っている。
その言葉を告げられたら、もう負けなのだ。
全身が疼く。
白昼夢であるはずの記憶から痛みを
殴られ、蹴られ、罵声を浴びせられる。
容易に地獄を作り出す、少女の言葉が脳の中でリフレインする。
少女が地獄をつくる条件は二つ。
ひとつ、周りが人に溢れた環境であること。
ふたつ、対象が少女の言葉を抵抗せずに受けること。
ここはどこだ?
学校だ。そう広くない建物に総勢400人近い生徒たちがひしめき合う、学校だ。
対象は何をしている?
静観している。陣地外のキャスターに何が出来ようか、ただの少女ではないかと判断し、静観している。
条件は完全に揃っていた。
「ああ、わかったわ。わかってしまったわ」
キャスターは、人形を片手に抱えたまま天を指し、その指をゆっくりとスライドするように指をセイバーへ向けた。
犯人を追い詰める名探偵のように。
判決を告げる裁判官のように。
ごっこ遊びをする少女のように。
「貴女、魔女ね」
───魔女宣告を、つげた。
これまで何度も作中で語られた通り、キャスターはめちゃくちゃ弱いです。スキルと宝具がメインで、本体の性能はそこらの女の子と変わりません。素のステータスが無力の殻レベルです。
そんな女の子がブツブツ言ってるだけ。
百戦錬磨の英雄ならば、そりゃあ油断してしまうというものです。
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