FGOキッズが型月世界に転生した末路 作:夜未
同じ話の別視点なので、順番はあまり問題はありませんが、前話今話を両方読んでくださると幸いです。
まさかのセイバー目線。
「僕は、絶対に敵マスター以外の人間を傷つけない。だが、もしも君が僕の所業を悪だと断じたならば、迷いなく僕を切ってくれても構わない」
頼光が召喚された時、彼女のマスターは開口一番にそんなことを言った。
宣言するように。宣誓するように。
彼は酷く澱んだ瞳をしていた。
この世全ての破滅を、うっかり覗き込んでしまったかのような淀み。
けれど、その中に悪心はなかった。
深い絶望と灼けるような焦燥はあれど、その瞳の中に悪はいなかった。
故にこそ、頼光は彼を信じることにしたのだ。
しばらく
まず、彼の本質は善である。
他人のために何かをしてやれるような、善人のそれである。
それと同時に、彼の行為は悪である。
利益のために他人を騙し、追い込むような悪人のそれである。
いわば、
現代風に表すならばダークヒーローという奴だ。
一度だけ一文字に聖杯に託す願いについて尋ねたことがある。
その時の彼の答えはただ一言。
『セカイを救うことだよ』
逡巡もなく、男はそう言い放った。
ああ、
彼ほどの
「貴方、魔女ね」
キャスターがそう宣言すると同時に、辺りの
一文字の魔術によって見えなくなっていた頼光の姿が、彼らにも見えるようになったらしい。
ポーカーフェイスを貫きながらも、彼女は内心顔を顰めていた。
なんと醜悪な手なのだろう。
一文字は確かに周りの
抑止力として虚勢を張っておき、抵抗も許さず敵マスターを
それこそが彼の作戦だったのに。
その作戦も最早元の木阿弥。
本当に周りの
なんて最悪なことをしてくれたんだと頼光はキャスターを睨みつける。
「認識されている?キャスターのスキルの効果か……厄介だな」
現状を忌々しく思っているのは一文字も同じらしい。
一文字はわかりやすい程に表情を歪めている。
『マスター、
『ここまで生徒たちに注目されてしまったら作戦は破綻だ。暗殺なんてできたものじゃない。ごめん、これは僕の失態だよ』
『いえ、そのようなことは』
『彼がアサシンを呼び出さずにキャスターに頼るというのは本当に予想もしてなかった。彼のメンタリティなら必ずアサシンを呼ぶと誤認識していた。失敗した。外に貼っておいた鬼払いも無駄になっちゃったな。
ところでセイバー、注目を集めている事以外に異常はないかい?』
『ええ、はい。身体共に十全です』
『ならキャスターの能力は本当にただ注目を集めるだけか? いや英霊の能力がその程度のはずないだろう。もっと他の要素が……全く、これだから不測の事態は嫌なんだ』
相手は動かないが、頼光たちもまた行動を起こせない。
キャスターのスキルによって、セイバー陣営は完全に釘を刺されていた。
このまま戦闘に突入でもした日には、周りの
特に
だからこそ呼び出す暇すらなく、或いは結界によって時間を稼いでいるうちに敵マスターを電撃撃破したかったのだが、こんな状況になってはどうしようもない。
今はまだ到着していないが、相手は必ず呼び出しているはずだ。
キャスターの能力によって、
アサシンが到着してしまえば、頼光は周りの
それに、キャスターもまだどんな力を残しているのかわかったものではない。
気配こそ周りの
『……ここは一旦撤退するのがよろしいかと』
『そうだね。今日のところは───』
その時、停滞していた戦場が動いた。
正確には戦場に巻き込まれていた一人の少女が、動いた。
ブツブツと小言を呟きながら歩き出し、頼光を睨みながら演説のように声を張り上げた。
「この女は、魔女です!人非ざる
その一言を聞いた瞬間、頼光は胸の奥に鋭い痛みが走るのを感じた。
想起する。
傷ましいモノを見るような女中の視線。凍った表情を浮かべる
「
胸の痛みが過ぎると、次は腹わたが煮えくりかえるような怒りが沸き起こった。
頼光は憤怒する。
バケモノ?悪?一体何を言っているのだこの小娘は。
民草の味方、朝廷の
なんたる世迷言か。なんと見苦しい妄想か。
民草を守ってきた
果たしてどちらが悪なのか。
果たしてどちらが悪なのか。
そんなこと──考えるまでもなく知れている。
決まりきっている。
「民草の守護者たる私が……? いいえ、いいえ、そのような戯言を「おい!誰か先生呼んでこい!」「はあ?先生呼んでどうするんだよ。こういう犯罪者は警察だろ?」「ヤバイヤバイヤバイ!」「ちょっと男子!こういう時こそ出番でしょ!」「下手に刺激したらヤベェだろうが!殺されるかもしれないだろ!?」
それ故に、頼光は理解できなかった。
何故、周りの
なぜ、周りの
なぜ、
だって、その目は
「───え?だ、だから
「いやァ!こっち見た!」「怖いよぉ……」「みんな!男子が前に出て女子を守るんだ!」「生徒会長!?俺死にたく無いんですけど!?」「クッソォ!くるなら来やがれ!」「動いたぞ!剣を抜くかもしれないから気をつけろ!」「そんなこと言ったって!」「数で押せば!」「囲め囲め!」
わからない。わからない。わからない。
なんで自分が怖がられているのかわからない。
なんでそんな目で見られるのかわからない。
頼光は守護者である。民草を守る守護者である。
彼女の行動を観察すると、それはすぐに理解できる。
彼女は、民草の守護者がするべき行動のみを実行するのだから。
頼光は守護者である。民草を守る守護者である。
そう、己で決めたのだから。そうあれかしと願われたのだから。
そうでないと、頼光はまた戻ってしまう。
女中から畏れられ、父に敵視される
だから縛った。雁字搦めに己を縛った。
守護者がするべき行動のみを選んだ。
守護者がするべきでない行動は全て捨てた。
故に、頼光は守護者である。
故に、頼光は守護者でなければならない。
そうしないと───嫌われてしまうから。
「
知らず知らずのうちに、頼光は声を荒げていた。
【ダメだ。こんな行動は
頭ではそうわかっている。わかっているのに、止められない。
自分の抱いている想いの名前がわからなくて、感情のままに腕を振り下ろす。
その行為だけで周囲には突風が巻き起こり、周囲の
【ダメだ。こんな行動は
頼光に向けられるのは、恐怖と敵意に塗れた民草達の視線。
ちがう。
尊敬と、憧憬に満ちた視線をこそ向けられるべきなのだ。
そのためにこそ頼光は守護者になった。
認められたかった。受け入れられたかった。
だから、頼光は
「────。──────」
誰かの声がする。聞き覚えがある男性の声だ。
けれどそれもすぐに頼光の意識からはじき出された。
それどころじゃなかった、というのが彼女にとっての事実だろう。
その対価を払い続ける限りは、頼光はヒーローであり、人間達にも受け入れられる存在である事を許される、
だというのに、この現状はなんだ?
左をみても、右を見ても、後ろをみても、前を見ても。
守るべき民草が
手負いの猛獣を見るように、恐ろしい悪人を見るように。
「違う!違う!
その視線は自分ではなく、キャスターに向けるべきモノの筈だ。
わからない。わからない。わからない。
どうして自分がそんな目で見られている?
どうして
頼光の口からはスルスルと思考が漏れでる。
彼女の精神は、限界に瀕していた。
敵に悪意を向けられるのはいい。
仲間に畏怖を抱かれるのはいい。
だが、民草に敵意を抱かれるのは───。
「警戒しとけよ!何をしてくるかわからないからな!」「武器!バット持って来たぞ!」「ナイス!これであの頭おかしい女を叩きのめせる!」「あんなバケモン女に、そんな武器で勝てるか?」「な、無いよりはマシだろ」「剣防げるかもしれないだろ!」「誰か早くあの女を殺してよぉ!」
けれどその叫びすらも群衆の喧騒に飲み込まれた。
頼光の言葉は、誰にも届かなかった。
「悪は、誅さなければなりません」
頼光とは正反対に、喧騒に響く声。
視線を向けると、そこに立つのは
演説でもするように、勝鬨でもあげるように、その少女は凛として言葉を放った。
まるで、
「そうだ!」と
「悪を許すな!」と
「悪に誅罰を!」と
「殺せ!」と
「
【ダメだ。こんな行動は
【ダメだ。こんな行動は
腰が抜けるように蹲り、ただ泣き叫ぶ。
【ダメだ。こんな行動は
【ダメだ。こんな行動は
【ダメだ。こんな行動は
【ダメだ。こんな行動は
ポロポロと、
わかっていても、もうどうしようもない。
『判決を下す。汝の罪状は■■であること」
『『『■■。■■。その女を■■。でなければ、■■■■■■こともできない!!』』』
声が聞こえる。
自覚はあれど、頼光はもう止まらない。
「ああ、違うのです。私はアナタたちの為に!許してください……私をどうか───」
───どうか、
「死をもって、その罪を償いなさい」
かくして、死刑は執行された。
「人間は怪物に喰われる。怪物は英雄に倒される。そして、英雄は人間に殺される。」
そんな言葉がありますが、聖杯戦争内で英霊が人に殺されることはあるんだろうか?
そういう発想でこの話を書きました。
つまり、キャスターとは人間の属性を持つ唯一のサーヴァントなんです。英霊殺しに特化してます。
それが、ピンポイントで頼光のトラウマを突いた結果、このような結末になりました。
FGOの頼光というのは母親や鬼殺しというイメージが先行しますが、作者は頼光の本質は「おままごとをしている幼女」であると考えています。
大人の体と巨大な力、しかし精神は幼い。そんなイメージなんです。
その彼女が負けるとしたら、どのようなシチュエーションになるか考え続けた結論でもあります。
こんな可哀想な目に合わせてしまいましたが、作者は頼光を100レベスキルマにして愛用してるほど好きです。
共に獅子王を倒し、バーストⅡを倒し、ビーストⅠを倒し、最近ではシンを滅ぼしました。
自分の中で最強のサーヴァントだからこそ彼女を倒すのにこうするしかなかったのかも知れません。
ご感想お待ちしてます。