FGOキッズが型月世界に転生した末路   作:夜未

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久々の更新。


ハッタリ

前世で、スマホ越しに何度も見た光景。

金色の粒子となって、ひとりのサーヴァントが無に帰った。

 

「──あれ?」

 

そうして、俺はようやく正気に戻る。

だが、現状が理解できなかった。

どうして俺は拳銃を持っている?

どうして俺は拳銃を一文字神父に向けている?

いつもの白昼夢とは違う、薄ぼんやりとした膜が脳を覆っているようだった。

意識がはっきりしてくると、ようやく自分がどうしてこんな状況になっているのか思い出す。

しかし、その記憶は本当に自分がやったのかと疑いたくなるほど実感が湧かなかった。

 

「全く、やってくれたね」

 

一文字神父が左手で頭を抑えながらそう呟く。

頭が痛い問題と考えているのが目に見えてわかる表情だった。

けれど、その目に諦めの色はない。

なにかを企んでいると、直感で感じ取れる。

 

想像より幾分も軽く、なんとなく手に馴染む小型拳銃(デリンジャー)を構え直す。

狙いは真っ直ぐ脳天。

そのはずなのに、うまく照準が合わない。

しばらく照準と格闘したのち、自分が震えているのだと気づいた。

 

「なるほど。キャスターのスキルが解けたみたいだね。思うに、アレは人に狂化を付与するスキルなのかな?」

 

キャスターのスキルが解けた?

そう言われてみれば、周りの喧騒は無くなっていた。

チラリと周りを確認すると、群衆は生徒に戻り、「なんでこんなところに集まっているんだ?」なんて表情で顔を見合わせている。

拳銃を構えた俺がいてもみなが気付かないのは、おそらくまだ一文字神父の魔術が効いているからなのだろう。

一文字神父(対象)に対して違和感を覚えさせない魔術は、一文字神父が拳銃を向けられているなんて状況の違和感も揉み消してくれるらしい。

例外(スキル)によって視認されていたが、その例外(スキル)が終われば魔術の効果は再発現する。

要はそういうことなのだろう。

ゾッとするほど強力な魔術だ。ウチのショボい魔術も見習ってほしい。

 

「う、動くな!動くと撃つぞ!」

「その震えた腕で?そんなガタガタ揺れる銃身じゃあ、この距離でも当たらないさ」

 

悠々とした動作で動き出す一文字神父。

たしかに、こんなガタガタ震える銃身では怖くもないだろう。

自分でもなんでこんなに手が震えるのかわからなかった。

まるでオモチャみたいな拳銃に、こんな本当に人を殺せるかもわからないような拳銃に、俺は恐怖している。

あたかも、この拳銃が人の命を奪えることを()()()()()()()()()()()()()()()

 

一文字神父は俺を中心として四分円を書くように歩き、校庭側の壁を背に立ち止まってこちらを向く。

窓から見える青空を背に立つ一文字神父は、妙にサマになっていた。

 

 

「一つ聞きたいことがあるんだ」

 

一文字神父が口を開く。

拳銃なんて怖くないと言わんばかりの余裕の態度だ。

なぜ彼は怖くない?この近距離で凶器を突きつけられ、どうして恐怖しない?

俺が震えてるからとはいっても、この距離では震えなんて関係なしに当たる。

正確に脳天を撃ち抜くことはできないかもしれないが、少なくとも体の何処かには当たる。

だというのに、なぜ……?

 

対策があるというのか?

足にあんな鎧を纏い、小型拳銃を隠し持っているような奴だ。

なにか秘策があってもおかしくはない。

だとしたら、俺は完全に無意味な脅迫をしていることになる。

脅迫どころが隙だらけの間抜けだ。

 

本当にそんな対策があるのだろうか?

そもそも秘策あるとしたらもう行動を起こしているはずだ。

セリフがブラフであってもおかしくない。

だとしたら、ここで撃てば一文字神父を倒せることになる。

撃ちさえ出来れば勝ちなのだ。

 

どっちだ?どっちなんだ?

結局のところ、撃てばわかる。

撃ってしまえば真実がどちらなのかわかるのだ。

秘策かブラフか。

けれど、もし本当に神父が秘策を用意していたなら……。

撃てばわかる。撃てばわかるのに、確認するのが怖くて引き金を引けない。

圧倒的に有利なはずなのに、ほんの少しの不安によって引き金が固められているようだった。

 

「ヤシオリくん。君が聖杯に祈る願いとは、一体なんなのかな?」

「聖杯に祈る願い……?」

 

俺の必死の思考など気にもせずに神父が質問を飛ばしてくる。

白昼夢でも聞いた質問だ。それも一度だけじゃなく、何度か。

そして、俺はまだその質問に一度も答えられていない。

 

「なんでたってそんなことを聞くんだ?」

「うん?そうだな……願いが同じだったら協力出来るかもしれないだろ?」

「はあ?こんな状況から協力?バカじゃないのか?」

「さて、どうだろうね」

 

男は曖昧に笑う。

なんとなく、化かされているような気がした。

一文字神父によって雰囲気を全て掌握されているような、そんな感覚。

 

「お、俺の聖杯への願いは……」

 

聖杯への願い?

そんなもの、ないじゃないか。

俺はただ酒呑童子に会いたい一心で聖杯戦争に参加した。

俺にとって聖杯戦争は目的であって過程じゃない。

聖杯戦争に参加して、本物のサーヴァントと出会うことこそが目的だったんだ。

願いなんて、あるわけない。

 

けれど、何となくここで黙ってはいけない気がした。

このまま神父に()らせてはダメな気がした。

予感というよりは経験則。

 

「君の願いは?」

 

一文字神父が急かすように繰り返す。

 

俺の願いは叶いは……なんだ?

 

『アリス先輩と結ばれたい』

聖杯で作った愛なんて虚しいだけだ。

『大金が欲しい』

どうせすぐ使い果してしまう。聖杯の無駄使いだ。

『嫌な奴に死んで欲しい』

今世にはそんな恨んでいる相手は居ない。

『幸せになりたい』

幸せってなんだよ?薬でもキメたみたいになるかもしれない。

『前世に帰りたい』

それはない。

この世界の主人公(フジマルリツカ)になりたい』

酒呑童子(推し鯖)には会えたから別にいい。

『未来を知りたい』

知ったところでどうなる?

『根源に至りたい』

なんか没個性的で嫌だ。

『ゴキブリの死滅』

ゴキブリだって生きてるんだぞ!

『最強の存在になりたい』

戦闘(痛い思い)はしたくない。

『ハーレムが欲しい』

胃が痛そうだし、刺されそう。

『ガチャ運が欲しい』

今世(1999年)にはまだソシャゲがない。

 

どうせなら、普通じゃ叶わない大きな願いが良い。

どうせなら、カッコいい願いが良い。

どうせなら、ドヤ顔で言ってやりたい。

 

ああ、そうだ。アレがちょうどいいじゃないか。

 

「俺の願いは、世界平和──恒久的世界平和だ」

 

世界平和。

聖杯でもないと叶わない願いで、かっこよくて、まるで主人公みたいな願いだ。

それを聞いた一文字神父は少し眉を顰めていた。

 

「世界平和?それは世界の人が皆が傷つくことなく幸せに〜ってやつかい?」

「ああ」

「ふむ……」

 

なるほど、なんて具合に声を漏らしながら一文字神父は考え込んでしまった。

顎に手を当てウンウンと唸る。

なんで考え込んでるんだ?

まさか一文字神父の願いも世界平和だったりするんだろうか?

 

「世界平和、ね。うん。そうだね」

 

考えをまとめるように、コクコクと頷き、いつも通りの笑顔を浮かべる。

 

そして、狐めいた笑顔のまま彼は宣言した。

 

「やっぱり、君は僕の敵だ」

 

瞬間、けたたましい音とともに校舎の壁が吹き飛ぶ。

一気に視界が開き、次いでバチバチと音を鳴らしながら帯電する鎧甲が目に入った。

 

蹴り壊したのか?銃を突きつけられたこんな状況で?というか公共施設をなに破壊してんだよ。税金だぞ?いやそうじゃなくて、そうじゃなくて……このままでは、逃げられる?

 

「な、何やってんだアンタ!撃たれたいのか!?」

「いやぁ、ずっと言おうか悩んでたんだけどさ」

 

人が丸々通れそうな穴を背後に背負い神父は笑う。

 

小型銃(それ)、弾入ってないよ」

 

小馬鹿にするように、滑稽なものを見るように、そんな嘲笑を神父は浮かべていた。

 

弾が入ってない?いやそんな筈がない。

だって俺は、実際にこの銃で撃ち殺されたのだから。

だが、アレはあくまで白昼夢。白昼夢が100%当たるという根拠もない。

一文字神父の言っていることは本当か?

嘘だろう。

しかし、嘘だとしたら銃を突きつけられてあんな表情浮かべられるか?

実は本当なのかも?

いや、でも……

 

嘘のハズなのだ。嘘のハズなのに神父の表情が、声のトーンが、纏う雰囲気がその言葉を嘘だと断言させてくれない。

 

そんな俺の一瞬の迷いを狙い、神父の腕がうねる。

銃を隠し持っていたのとは逆の袖から飛び出たそれは、ワイヤーだった。

まるで漫画やアニメに出てくる糸使いのように、神父はワイヤーを器用に操って隙を晒していた俺の左腕を凝固に搦めとる。

糸使いといえば細い糸を使った斬撃が代名詞だが、流石に現実でそんなことが出来るはずもないらしく、ワイヤーが巻きついた左腕には圧迫感のみが与えられた。

 

なんのつもりだ?

 

両手で構えていた銃を右手一本で構え直しなから、俺はその行動に首を傾げた。

左手のみを拘束したところで、銃を撃つ動作になんの邪魔にもならない。

むしろ、二人が繋がったことによってより逃し難くなったとすら言えるのではないか?

銃を構え直すのと並行動作で、強度を確かめるようにワイヤーを引っ張るとワイヤーを越しに神父を引っ張れた感覚があった。

……()()()()

 

弾かれたように神父へ顔を向ける。

けれど()()()に気づいても、時は()うに遅かった。

なぜなら、神父へ向けた視界に映ったのは、彼が勢いよく穴に身を投じる姿だったからだ。

 

踏ん張らなければ。ワイヤーを解かなければ。

そんな思考を実行するよりも早く、ワイヤーは俺を空へと引きずり込んだ。

 

 

浮遊感。

 

 

内臓が軒並み持ち上げられる感覚。

 

胸の奥がバカみたいにうるさくなって。

 

わけもわからず息が苦しくて。

 

眼下の白いグランドに目がくらむ。

 

一瞬であるはずの時間が引き伸ばされて、妙に頭が冴える。

主観が客観へと変わり、ゲームアバターでも見てるかのように状況を俯瞰する。

 

腕を引っ張られて落ちた為に、見事に頭から俺は落ちていた。

 

神父は?

神父は俺よりも更に下にいる。不平等な事に彼はしっかり足を下に向けて落ちている。

スローモーションの映像の中で見える笑顔、雷電を纏った鎧甲。

どうやら彼方は着地の秘策があるらしい。

 

一方俺は?

下には神父。

落下軸が微妙にずれており、クッションには出来そうにない。

 

上には青空のみ。

 

横には校舎と街並み。

校舎に捕まるには些か以上に距離がある。

 

手元には銃一つ。

ポケットの中身は学生証とハンカチ。

 

そして、左腕に巻きつくワイヤー。

 

 

真下から風が吹く。

 

グラウンド(タイムリミット)はどんどん近づく。

 

 

考えろ、考えろヤシオリツトム。

 

必死に頭を働かせて、どうにか助かる方法を考えろ。

 

 

ワイヤーを逆に利用して、無理だ。

 

銃の反動で、間に合わない。

 

神父を真下に、不可能だ。

 

 

キャスターに助けを、届かない。

 

 

せめて足から、出来ない。

 

 

酒呑を呼んで───

 

 

 

 

「あ 」

 

漏れる声。

 

響く音。

 

林檎のように、柘榴のように。

 

 

 

ナニカが砕ける音がした。

 

 

 




サラッと出しましたが、この物語は1999年のお話という設定です。
apoの聖杯大戦が2000年頃の話らしいのでそのちょっと前ってことにしました。
1999年の2月です。

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