FGOキッズが型月世界に転生した末路 作:夜未
「ところでヤシオリくんはどのクラスのサーヴァントを召喚したんだ?」
誰かの声が聞こえる。
なんでもない雑談をするような、そんな声が。
気づけば首を抑えていた。
血は流れていない。
息も漏れていない。
それどころか傷ひとつない。
わかっているのに、わかっているはずなのに、息苦しくて、自分の息が弾んでいるのがありありと感じられた。
今回の白昼夢はあまりに生々しかった。
鬼に首を引っこ抜かれるとか、突然現れた絞首台で吊られるとか、そんな馬鹿らしくない本当の死の恐怖。
ゆっくりと己の命がこぼれ落ちて行く感覚。
終わる自分の人生と、続いて行く他人の人生。
「どうかしたかい?」
俺の様子を不審に思った一文字神父が声をかけてくる。
眉尻が下がっていて、いかにも心配そうな顔だ。
「いや、なんでも───」
白昼夢を思い出す。
俺はなんで死んだんだった?
誰が俺の首を切り裂いたんだった?
───あの男は一体いつ教会に来たんだった?
一文字神父を無視して礼拝堂に駆け込み、教会入り口に背を向けるようにして跪き、神に祈るフリをする。
いや、今回ばかりは本気で神に祈る。
「ちょっと、ヤシオリくん本当にどうしたんだよ?」
一文字神父のそんな声が聞こえてくると同時に教会内に鳴り響く不快音。
木製の扉を開ける音。
「あれ?君との約束は一時間後の筈なんだけどな」
「まァまァまァ、そう
聞こえてくるのは一文字神父と聞き覚えのない、いや夢で聞いた男の話し声。
バシバシという人の体を叩く音まで夢とまったく同じだった。
「どうせ暇してたンだろォ? って、アレ?もしかして俺ほんとにお邪魔だった?」
背中に感じる視線。
彼らの声すら聞こえないかのように必死に祈る。
神さま神さまお願いします。どうか、どうか、見逃してください、と。
「……ああ、そうだね。ここでは彼の祈りの邪魔になってしまうから場所を移そうか」
「チッ、仕方ねェな。しっかし、今時のガキがどうしてあそこまで必死に神に祈る事があンのかねェ。今時神なんざいなくても願いを叶える方法程度いくらでもあるだろうに」
「ここから追い出してもいいかい?」
「オイオイ、冗談だろうがよ」
毒にも薬にもならない会話を交わしながら遠のく二人の声。
遠のいていく方向を鑑みるに、教会の奥に行ったらしい。
二人の声が完全に聞こえなくなってからゆっくりと祈りを解く。
心臓はまだバクバクと高鳴っていた。
教会からそそくさと抜け出し、帰宅路につく。
もう胸の動悸は収まっていた。
「あれ?えらい顔色悪いけどなんかあったん?」
「ッ!?」
背後から聞こえてきた甘い声に思わず驚く。
収まったはずの心臓が握り締められたように痛んだ。
「なんだ、酒呑か……」
しかし、振り向くとそこにいたのは前世から見慣れた少女。
可愛らしい姿には似合わない良い飲みっぷりだが、それもまた酒呑の魅力だろう。
「なんや、ほんまに真っ青やないか。どないしたん?」
「なんでもない」
「そぉ?」
アサシンを見る。
酒呑童子、星5のアサシン。
日本で有名な鬼で、イベントでは黒幕をやっていたし、英霊剣豪七番勝負ではガウェインレベルに猛威を奮った。
強いサーヴァントだ。
ジャックや山の翁には劣るかもしれない。
だが、それでも攻略サイトでの評価はA。
その強さは、FGOで聖杯も金フォウをつぎ込んで使い続けた俺がよく知っている。
心の中で小さな火が灯る。
その火はどんどん大きくなり、やがて猛る大炎となった。
ああ、どうして俺があんな奴を恐れなければいけないのか。
どうして俺がこんなにビクビクしなければいけないのか。
気に入らない、気に入らない。気に入らない!!
「酒呑 」
「ん?なぁに?」
「今晩、戦いに出よう」
絶対に、潰してやるッ!
顔に大きな刺青を入れた男などそういない。
あいつはすぐに見つかった。
使い魔によってもたらされた情報によると、好都合なことに刺青の男は
今晩から聖杯戦争が正式に始まるというのに、ずいぶんと気楽なものだ。
情報の通り廃工場へ行くと、確かにそこに白昼夢でみたあの男がいた。
「ふぅん、あん人が獲物?えらい不注意やねぇ。それだけ自分の英霊に自信があるってことやろうか」
「関係ないさ。酒呑より強いサーヴァントなんてそうそう引けないからな」
酒呑で苦戦するサーヴァントとなると最低でも星4以上。
となると確率は4%だ。
俺みたいに最高の触媒を用いた確定ガチャならまだしも、普通の奴がたった一度のチャンスで狙うには無理がある。
例外があるとすれば、相性不利のキャスターだが、それはもうアリス先輩と一緒にいたのを確認している。
負けるはずが、ないのだ。
「オイオイ、そろそろ出てきたらどうだ?そんな不細工な気配の消し方だと流石にわかるぜ?」
刺青の男が声を上げる。
どうやらバレていたらしい。
シラを切ってもいいが、どうせ負けることはないのだ。
堂々と姿を表してやろう。
「アレ?
「さあ?しらないな」
「まァいいか。しかし、坊主がマスターとなると横の女の子がサーヴァントか?ガキとガキの陣営たァ、この俺をしても
鈍く光るバタフライナイフをくるくると手元で回しながら男が言う。
ナイフの煌めきをみて少し身体が
心を落ち着けるように一つ深呼吸。
酒呑を垣間見る。
負けるはずがないのだ、落ち着け。
「冗談も休み休みに言えよ」
「ハッ、そりゃそうか。こんな儀式に参加する奴がおめおめと逃げるはずがねェよなァ」
刺青の男を睨む。
ニタニタと笑う男は負けることを考えていないようだ。
絶対に潰してやる。殺してやるッ!
「バーサーカーァ!」
「ヒヒヒ!ウマソウダァ!」
男の掛け声ともにサーヴァントが現れる。
現れたサーヴァントの特徴は、全身傷だらけの
顔は
しめた!
あのサーヴァントは見覚えがある。
前世では一度も使うことなく、名前もまともに覚えていないが、それこそが雑魚の証拠。
アレはたしか星一のバーサーカー。
ネットでは強い強いと言われていたが、所詮最低レアの雑魚に過ぎない。
「あの雑魚をぶちのめせ!アサシン!」
「ふふ、昂ぶるわぁ」
俺か叫ぶと、アサシンがバーサーカーに飛びかかる。
大剣と大斧がぶつかり合い、廃工場に激しい衝撃が走った。
この場で補足しておくと、バーサーカーの姿は2部1章のミノタウロスの仮面が壊れてないバージョンです。
それと、なぜ三度目の死なのに今回の死だけ主人公が過剰反応しているかというと、主人公の今までの死因がトラックの交通事故(即死)、首もぎ(即死)、首吊り(意識が即落ちるため苦しまない)の三つだったためです。
ゆっくりと死を自覚しながら死ぬのが初だってわけですね。それ故にあそこまで過剰反応してました。