FGOキッズが型月世界に転生した末路 作:夜未
大剣が空を裂き、大斧が地を砕く。
腹わたにまで響く衝撃波は止むことなく、廃工場全体がギシギシと軋んでいた。
英霊同士の戦闘は圧巻だった。
一人と一人の戦いのはずなのに、軍隊同士がぶつかっているかのような止むことのない破壊音。
目まぐるしく入れ替わる攻防。
攻めて防いで逸らして狙って砕いて欺いて。
戦闘なんて素人もいいところの俺の目ではそれを追うことすら能わない。
どちらが優勢なのか。
どちらが劣勢なのか。
予想すらつけられない。
戦闘が始まってはや5分。
二体は互角であるように思えた。
負けてはいない。だが勝ってもいない。
その現状が俺を苛立たせる。
なぜだ?
どうして星一の雑魚サーヴァントに酒呑が苦戦する?
特にバーサーカーなんて格好のカモのはずなのに……ッ。
噛み締めた歯がギリギリと音を立てる。
楽に殺れると思ったのに。
あの男を、潰せるはずだったのにッ!
刺青の男を睨みつける。
相手はバタフライナイフを弄りながら野球でも観戦するようにヤジを飛ばしていた。
余裕の態度。苛立つ。ナイフが煌めき、心臓が痛む。
ああ、イラつく。ムカつく。
今この瞬間にあの刺青面を吹っ飛ばしてやれたらどれだけ爽快か。
しかしそれは不可能だ。
俺の魔術は、攻めることに向いていない。
防ぐ為の準備は万全にしているが、サーヴァント同士の戦闘が始まってから男は俺を一瞥すらしていなかった。
「ちょっとばかし、時間がかかりすぎてんな。このままじゃ他の奴らも寄ってきちまう」
戦闘音の合間を縫って男の呟きが聞こえてきた。
どうやら相手側も少し焦っているようだ。
「チッ、しょうがねェ。バーサーカー!」
白い巨体が名を呼ばれて一瞬止まる。
その隙を狙ってアサシンが攻撃を加えるが、丸太のような腕に少し傷をつけただけで防がれて致命打とはならなかった。
「宝具使用を許可する!」
宝具!?
すっかり頭から抜け落ちていた。
そりゃあ、あれだけバシバシ戦っていたらNPだって貯まってしかるべしだ。
あのサーヴァントの宝具は一体なんだった?
攻撃か?バフか?防御か?
バスターか?アーツか?クイックか?
あーくそ!思い出せねぇ!星一の雑魚だろうと一回くらいは使っとくべきだった!
もし
「アサシン!一度戻れ!」
「はぁい。あちらさん宝具つこうてくるみたいやけど、うちらも対抗して宝具つかう?」
「いや、そうじゃない。
令呪をもって命じる!『アサシンよ!宝具を完全に防げ!』」
令呪。
サーヴァントへの絶対命令権。
FGOではリトライやNPチャージくらいしか使い道がなかったが、この世では様々な使い道があることを一文字神父から聞き及んでいる。
その一つが令呪での
令呪の強制力を使ってサーヴァントの性能を引き上げる方法だ。
バーサーカーの魔力が爆発的に高まり、空間を歪め始める。
「キヒヒ!ハテガナイゾォ、オワリモナイゾォ……
そして、廃工場は迷宮に呑まれた。
どこまでも続く石造りの道。
壁に覆われ天井を塞がれ、そこはまさに迷宮という他ない。
いや、違う此れこそが迷宮なのだ。
世界最古の大迷宮。
神が作りし、
英雄以外が立ち入ることは即ち死を意味する“人を喰らう罠”。
そんな場所に、俺は一人で立っていた。
「どこだ……ここ?」
ズキズキと痛む頭を抑えながら周りを確認する。
壁道天井。
ゲームに登場するダンジョンのようだ。
周りを見渡してもアサシンは見当たらない。
「おぉい!アサシン!どこに居る!」
大きな声を上げて呼びかける。
その大声はら空虚な迷宮の中何度反復し、山彦のように返ってきた。
しかし、酒呑の甘い声で返事が返ってくることはない。完全に分断されてしまったようだ。
「な、なんだよここ……」
その時、目の前の角の向こうから物音が聞こえてきた。
コツコツという石畳を叩く音。足音だろう。
なんだ、返事はしないけど、居るんじゃないか。
俺はその足音の主が酒呑だと思い、自らその角へと近づいていった。
一歩、一歩と近づくにつれ、その足音がおかしい事に気づく。
妙に音が多いのだ。
たった二本の足にしては音が多すぎる。
音の多さから予測すると、おおよそ3人分くらいだろうか?
その尋常ではない音の様子から、俺の中の小胆が顔をだし、猛烈に不安になる。
本当に酒呑か?
だとしたら誰と居るんだ?
まさか寝返った?
いや、バーサーカーの足音にしては音が軽すぎる。
だとしたら一体……?
音を立てないように忍び足でゆっくりと角へと近づき、息を殺して覗き込む。
六本の足。鋼ような甲殻。不気味に光る複眼。手から生えた鎌が迷宮の僅かな光を反射して光る。
それはカマキリだった。
ただし、その大きさは2mをゆうに超え、毒々しい紫色の体は明らかに尋常な生物ではない。
本能的な恐怖から、すぐに頭を引っ込める。
なんだアレは?なんだアレは?なんだアレは?
ありえない。あんな生物が現代に実在するはずがない。
無意識に息が上がって行く。
逃げなければ、ただその一心で俺は走りだした。
迷宮の中はカマキリ以外にも化け物で満ちていた。
どれもこれもが普通じゃなかった。
どれもこれもが容易に俺を殺す事が出来ると本能的に悟った。
だから走り続けた。
化け物に見つかって追いかけられても、巨大な蜘蛛の巣に掛かりそうになっても、ひたすらに走り続けた。
階段を駆け上がり、駆け降り、いつのまにかワープしていても気にせず、延々と。
出口を探すなんて
ただ怖かった。
ただ恐ろしかった。
そして何よりも、もう、死にたくなかった。
だから走り続けた。逃げ続けた。
方向も何もわからずにひたすらに、ぶざまに。
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっても。
恐怖で頭の中がからっぽになり、自意識すら薄れても。
自分の走る足音だけ聞きながら、めちゃくちゃに逃げ続けた。
そうして───
「オイオイ、マジかよ。この大迷宮の
気づけば
疲労と恐怖でガクガクと震える足腰を必死に宥めながら、声が聞こえた方を見ると、そこにいたのは刺青の男。
その側にはバーサーカーが控えている。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「なんだ息も絶え絶えか?どうやらマジで一人でこの迷宮を攻略したと見える。サーヴァントはどうした?死んだか?それとも令呪が無くて呼べなかったか?」
男が何か話しかけてきているが、脳が働かなくて何を言ってるのかが理解できない。
とにかく心臓と喉と、足と腰と、頭と目が、痛んで痛んで仕方なかった。
「チッ、なんだよ無視かよ。それとも話せないのか。まァどっちでもいい。おい、バーサーカー!」
焦点が合わない視界が急に暗くなる。
見上げると、巨大な何かが俺の目の前にいるようだった。
「せっかくご自慢の迷宮をお客様がクリアしてくれたんだ。お前が終わらせてやれ」
少しずつ焦点があって行き、やっとその正体がわかる。
白い巨体。牛の鉄仮面。処刑道具のような大斧。
刺青の男のサーヴァント。
弱いはずのサーヴァント。
星一の、バーサーカー。
「アァ、コワイカ?コワイヨナァ?」
そうだ。思い出した。
こいつは俺がチュートリアル以外で初めて引いたサーヴァントだ。
聖晶石を集めるまでが我慢できなくて、フレンドポイントで回した俺の元へ、一番はじめに来てくれたサーヴァントだ。
大斧がゆっくりと持ち上げられて行く。
その真名は確か───
「ヒヒヒ!シネェ!」
そして、大斧は俺ごと地面を砕いた。
なぜカマキリ?と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、これにはちゃんと元ネタがあります。
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