対して、剛君は相変わらず、声に緊張と興奮が入り交じっている。二人の様子を眺めている僕も、今にも吐きそうなほどだ。それだけはしてはいけない、と僕は口を空に向けてみた。すると、僕らが夜空に発した一声が、湿った空気に乗って、夜空に浮かぶ星に吸い込まれていってるような不思議な気持ちになった。
この場には、両親も学校も、僕らをイジメる奴等もいない。まさに、三人だけの世界、は言い過ぎかもしれないけど、そう思ってしまう。
昼間は騒がしかった蝉の鳴き声が、ほとんど聞こえてこないのも一因なのかな。そんな感慨に耽けていると、剛君が僕の肩を叩いた。
「なあ、これからどうする?とりあえず、散歩でもしてみるか?それとも、川を遡ってみる?」
もて余した気勢が両足に流れ込んでいるのか、それとも、早く大人に見付かる前に逃げようとしてるのか。けど、それは僕も同意見だった。なにより、ここは僕の自宅の裏、お父さんかお母さんにバレてしまえば水の泡だ。
熱気冷めやらぬ剛君は、ひとまず置いて、光君に尋ねた。
「どこか、行きたいところってある?」
光君は首を横に振って、いつもの常套句を口にする。
「二人が行きたいところで良いよ……僕もそこに着いていくから……」
剛君が、水を刺された気分だと言いたげに舌打ちすると、光君の肩が内側に縮まった。僕は、剛君から光君への追撃が始まる前に二人の間に入る。
「今日は散歩だけにしておこうよ。遠くへ行くのは次回にして、今回は夜道に馴れるってことでさ。ね?」
優しく同意を求められた光君が遠慮ぎみに頷いたのを見て、剛君も眉間に皺を残してはいるけど、分かったよ、と言ってくれた。
ようやく、開かれた僕らの英雄譚の一ページ目は、森に住む三人組のロビン・フット物語や、戦国時代から江戸時代の有名なお殿様達みたいにスマートなとこや荒事もなく、ただの散歩となった。だけど、僕らはなにもかもが未体験の世界に足を踏み入れた。その充実した達成感を同級生の誰よりも早く手に入れたんだ。
誰からともなく、目的地も持たずに歩き出した僕らは、いろいろな話しをしていた。どうやって家を抜け出したか、とか、昨日のアニメを見たか、少年向け週刊誌に連載されている漫画の先の予想、いつもと変わらない話題だけど、誰も学校のことには触れない。
一つ道路を挟んだ先にある国道を走っていく車の音に、囁き声を邪魔されるのが嫌になってきた剛君が、公園に行こうと提案した。僕らも賛成して、車が走っていない内に、二百号線を横切り、下り坂を駆けて割子川公園へ入る。