公園の入口にいると見付かるかもしれないからと、光君がベンチ裏の草むらに隠れようと言って剛君が続く。少し走ったからか、ここにきてようやく、光君もテンションが上がってきたみたいだ。ぐるりと公園を囲った脛ほどの高さしかない柵を越えて、僕らはしゃがんだ。ちょうど、植木に隠れているはずだ。
この公園も、小学生のときに、よく同級生と遊んでいた場所だ、と僕が振り向いていたとき、光君が、あっ、と声をあげる。顔を戻した僕の目に映ったのは、剛君の右手と、そこに収まったタバコの箱とライターだ。
得意気な剛君の表情は、まるで武器を手にした歴戦の戦士のような精悍さを保っている訳もなく、もっと突き詰めるなら、右手は細かく揺れ動いていた。
「それ……どうしたの?」
光君の問い掛けに、剛君は間を置いて答える。
「お……親父から盗んできたんだよ。こんなときしか経験できないから」
盗んできた、それは、あの怖いおじさんに断りもなく持ってきたってことだ。よほど、勇気を振り絞ったんだろう剛君は、多分、興奮に勝る恐怖から薄ら笑いを浮かべている。引き返すなんてさせない、と光君に言っていたけれど、もしかしたら、剛君は自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
僕は、昼間の自分を思いだしていた。変わらなきゃいけない、けど、本当に変わりたいと願っていたのは、剛君だったのかもしれない。だって、僕のお父さんが剛君のおじさんだって仮定すると、とてもじゃないけど真似できない。ましてや、剛君は誰よりも、おじさんを怖がっていた。
茂みの中で、剛君がタバコの封を切る。
「光、豊……お前らも一本吸えよ。ほら」
畳んだ左手の人差指で上蓋を軽く叩き、 飛び出したフィルターの数本を箱から出さずに僕らに傾ける。
「だ……駄目だよ、剛君……だって……それは……」
剛君が強い調子で被せる。
「光、今日、俺達はここで何をしてんだ?同い年の奴等がやったことのないことをやる、それを実行する為にここにいるんだろ。こんなのは、ほんの入口だ」
なあ、豊、と僕の眼前につき出されたタバコの横箱には、金色の星が数字の「7」を彩っていた。コンビニにいったとき、レジの後ろにある棚でみた柄だ。
僕は、剛君にタバコの箱を渡してもらい、パッケージを回転させて観察してみた。
未成年の喫煙は煙草への依存を強めるから吸ってはいけない、その注意書きが僕の好奇心を強烈に煽る。
「俺の近所に住んでる高校生の人なんか、毎日、私服に着替えてベランダで吸ってんだ。大人は俺達をビビらせるけど、自分でやらなきゃわからないからさ」
高校生、その一言が、更に僕の気持ちを昂らせた。