新山君の言いたいことは僕にも分かった。あの女性がいなかったこと、煙草を持ってきたこと、これで二つだ。鬼山の言い付けは守っている。
しかし、鬼山は信じられないことを口にした。
「は?なに?言い訳なんて男らしくねえことすんの?」
新山君から血の気が引いていった。鬼山は、胸ぐらから手を離して僕らに訊いた。
「なあ、コイツ、お前らの知りあい?」
僕は言葉にはせずに、一度だけ首肯する。すると、鬼山と他の四人が嫌らしく口角をあげた。
「一毅、さっきな、そっちの奴が俺にタメ口きいてたんだよ。ムカついたから、その分もプラスな」
新山君が首だけで振り返る。目頭には、とてつもない憎しみが込められているのだろうけど、脅えて口出しすらできない僕らにはどうしようもない。
その確認を終えた鬼山が続けて言った。
「良かったな。一毅が敬語も使えねえお前らの為に、制裁を引き受けてくれるそうだから、もう帰って良いぞ」
「さ……さっきはすいませんでした……」
新山君の報復を恐れての行動だろう。剛君が半歩だけ前に出て頭を下げた。けど、鬼山は薄ら笑いのまま、犬でも追い払うように右手を軽く揺らすだけだ。
早急に離れたいとばかりに、光君が僕の袖を引っ張る。僕も同じ気持ちだった。新山君の報復は怖いけど、この状況には耐えられそうにない。
剛君の背中を叩き、僕らが踵を返して公園から出た数秒後、新山君の呻き声が聞こえてきて、それがスイッチの役割を果たしたのか、光君が走り出し、僕と剛君も続いた。
僕ら三人のうち、誰かが殴られていた場合、次は自分の番になるんじゃないかと身構えてしまうけど、光君や剛君以外の人が叩かれたり、蹴られたりする音は、とても怖いものだった。人が人に固めた拳をぶつける、真剣に考えてみると、常識の外にある出来事だ。僕らは、常識の内側に戻りたくて走り出したのかもしれない。
公園に続く坂を登りきった光君が、空を仰いでいると、僕と剛君も同じ位置に並んだけれど、その順番が公園のときと変わっていないことに気付いた僕は、然り気無く光君と場所を入れ換えた。そうしないと、さっきの恐怖がより鮮明になりそうだったからだ。
信号の点滅と、月明り、街灯だけがある道路は薄暗くて、車の通りも更に減っていて、二人の胸の鼓動が聞こえてきそうだ。当然、それは高揚感ではなく、安堵からきた鼓動になる。
ともかく、これからしなきゃいけないことが確実に一つある。それは、新山君からの報復への対応だ。これだけは、話し合っておかなきゃいけない。