僕が息を整えて、これから先どうするか、と口にする為に、鼻から吸った空気を吐き出そうとしたとき、それは起きた。
「ねえ、大丈夫だった?」
不意に背後から聞こえた高い声に、僕らは、またしても驚いて飛び上がった。もう嫌だ、今夜だけで、どうしてこんな目に合わなくちゃいけないんだろう。
反射的に走り出そうとするも、腰に力が入らない。光君は金魚みたいに口を丸くして、剛君は信号機に頭をぶつけて蹲っている。
動悸や、様々な理由で上手く喋ることができない僕らに、声の主が言った。
「そんなに驚くことないでしょ……さっきも会ったんだし」
「……さっきも?」
さっき、とはいつのことだろうか。
いや、公園で遭遇した事態に記憶が飛んでいた。そうだ、僕らは、確かに新山君よりも前に誰かと会っている。ばっ、と振り返れば、夏場にそぐわない黒のコートが目に入り、腰から顔にかけて視線をあげていく。
声からして分かってはいたけど、月明りが照らし出したのは、僕らより歳上であろう女の子だった。身長は僕らより少しだけ低く、百五十前半くらい。薄く塗られた口紅とチークがなければ同級生と言われてと信じてしまいそうだ。それも、コートの立派な膨らみを見てしまうまでは、だけど。
「もしかして……さっき、僕らのとこにきた人……ですか?」
そう訊くと、女性は軽い口調で言った。
「そうだよ、さっきはごめんね。なんとなくわかってるだろうけど、アイツ等しつこくって……」
はぁ、と気のない返事をした僕は、剛君と光君に声を掛ける。ぶつけた額からの痛みの為か、頭を抑えている剛君は涙目だ。
二人が落ち着くのを待って、僕は尋ねた。
「どうして追われていたんですか?ナンパでもされて逃げた、みたいな……?」
「うーーん、なんていうか……話せば長くなるし、場所を変えない?ここから一番家が近いのって誰?」
剛君と光君が顔を見合わせていて、嫌な予感がした僕が断りを口にするよりも早く、光君が僕を指差す。
その人差し指、折ってやろうか。
「じゃあ、決まり。ねえ、今日から数日間だけ、泊めてくれない?」
「ち、ちょっと待って下さい!」
僕は転々としながらも、なぜか進んでいく会話を右手をつきだして止めた。女性が水を差されたとばかりに黙る。
「僕の家には親がいます!場所を変えるのは良いんですけど、泊めるとなるとちょっと僕の家は無理ですよ!」
「そんなの、そこの二人も同じでしょ?それに、あんな恐い人に追い掛けられてた女の子をそのままにしておくことについては、どう思うの?」
「そ……それは……」