早々と切り換えられる出来事じゃないのに、気軽に話し掛けてくる真美さんが、背凭れを鳴らす。その音に反応して上目を使ってみれば、シャワー上がりの真美さんが見えた。
ハーフパンツから延びた太股、浮き上がったパンティーのライン、昨夜の暑苦しそうなコートでも目立っていた双丘は、Tシャツ一枚になって更に強調されていた。加えて、まだ湿りが残った髪、シャンプーの香りに混じって漂う石鹸と甘い女の子の匂い、この凶悪なコンボで、冷めきっていたはずの熱が、再燃しつつある。
「あ、見てる」
上目の僕に対して、真美さんは下目になっていたみたいだ。自分でも驚くスピードで顔を伏せたけど、直前に真美さんの満面な笑みを見てしまう。きっと、今の僕は耳まで赤くなっている。
椅子が軋んだ、きっと、真美さんが立ち上がったんだろう。近づく足音に比例するように、心臓が胸を叩く。
「ねえねえ、いま、見てたよね?見てたよね?」
過敏になっているのか、旋毛に楽しそうな声音が響いて少しくすぐったかったのと、否定の意味をこめて、僕は顔をあげずに首を横に振った。すると、非難めいた口調で、えーーっ、見てたよね、絶対見てたよね、と真美さんは距離を詰めてきた。僕が、あれほど恥ずかしい行為を目撃されたのいうのに、真美さんはお構いなしだ。
段々と腹がたってきた僕が、抱えていた膝を放して、勢い任せに顔をあげれば、鼻先がつきそうな位置に、小首を傾げた真美さんの端正な顔があった。
……無理……無理だよ……
僕の首は踏板が壊れた開閉式のゴミ箱の蓋のように、ゆっくりと下がっていくも、閉まりきる寸前で真美さんの右手が僕の顎を優しく支えた。
「男の子なんだから、そんなに項垂れちゃダメだよ。恥ずかしい気持ちは分かるけど、ちゃんと、前を見ないと」
前、と言われても、瑞々しく割れた唇にしか目が向かないのですけど。それも、ささやかな吐息のオマケつきだ。朝倉真美という名前のセクシー女優なんて看板も手伝っているのか、僕の下半身が、水をかけられた熱した鋼みたいになっている。
「それにね、私は気にしてないって君に伝えたんだから、恥ずかしいかもしれないけど、ちゃんとお話しして。じゃないと、私が全部、悪いことになっちゃう」
真美さんは真剣な眼差しで言った。最初こそ意味がわからなかったけれど、間を空けて考えると、行為は僕がしたことだから、それを見た本人がもっとも辛い立場にいるってことが理解できた。