「すいません、せっかくシャワーを浴びたのに……」
「あ、こっちこそごめん、使わせてもらったのに嫌味っぽくなっちゃって」
真美さんは顔の前で手刀を切ると、押し入れの奥に隠していたスニーカーを指に掛ける。その行動を黙って見ていた僕の前を通り、カーテンを開くと鍵を外したので、慌てて言った。
「まだ近くにいるかもしれないから、出るなら、もう少し待っていたほうが……」
そんな忠告も聞こえていないとばかりに、真美さんは外に靴を置き、振り返らずに履いた。
「大丈夫だよ。昨日の夜いたのは、一人だけでしょ?なら、他には顔バレしてないんだし」
「でも……」
「心配しすぎだよ。そんなにいろんなことに怯えてたら、なにもかもに気をとられて何もできなくなるよ」
僕に被せる形で言い切った真美さんは、爪先を地面に数回だけ軽く当てて位置を整える。出掛ける準備は、ばっちりみたいだ。
僕が、どうしたものかと思案している間も真美さんは止まらない。
「君、その様子だと、今日はどこにも行かないんでしょ?なら、一緒に来てくれない?昨日の二人にも会いたいし」
「えっ……と……」
返事を濁した僕に向けて、真美さんは右手を伸ばした。
「そんなに悩むようなこと?それとも、さっきの男の子達に会うかもしれないって不安が強いの?」
その通りだ。
居留守を決め込んだいま、大場君と白木君に出会い頭に会ってしまったら、なにを言われるか。それに、あの喧騒は、ただ事じゃなかった。そもそも、あの三人の仲は悪くなかったし、むしろ、僕や剛君、光君みたいにいつも一緒にいたはずだ。その三人があんな言い合いをしていたのだから、よっぽどの事態が起きているんだろう。
そんな状態で、もしも、遭遇してしまったら?想像するだけでも嫌になる。
けど、けどね。あの朝倉真美だよ?中学生の憧れ朝倉真美と手を繋げるけどしれない、そんな雑念と葛藤すること、数分、僕は行動した。結果的に言うと、女性の手はすごく柔らかかったし小さくて細かった。それはもう、僕のような非力な中学生でも、力を入れれば潰せてしまえそうなほどだ。噴き出した汗は、きっと時間とともに上昇してきた気温のせたいだけじゃない。
僕は、母親以外の異性の手を初めて握ったこの日を、大人になっても忘れないだろう。大袈裟だと思われるかもしれないけど、男の子はこんなものだ。大人になりたい、なりたくない、とかいろいろとある中学生なんてという曖昧な境界に暮らす僕らなんてこんなものだ。浅い感動に、いちいち心を踊らせてしまう。