きっと、真美さんには、僕らには分からない大人の事情ってやつがあるんだろう。中学生には踏みいることが出来ない複雑怪奇な人間関係、小難しい理論や理屈を全面に向けた世渡りなんて、理解できるはずもない。
僕は、真美さんを倣ってジュースを呷って空き缶をゴミ箱へ入れる。冷えかけた場の空気を誤魔化すには、ちょっとだけ温くなった飲み物が丁度良かった。
「ねえ、大人になるって簡単なことなんだって思う?大人になるなんて、年齢だけ重ねていけばなれるんだーーって……」
質問の答えを待っているのか、真美さんは何も喋らない。だけど、僕を見ることもしていなかった。多分、返事に期待なんかされてないんだろう。もちろん、それなりの悔しさもあるけど、真美さんほど年齢も重ねてないし、経験もないのだから、仕方がないことだ。
「大人ってなんなのかな、とか考えたことはありますけど、具体的にとなると難しいですね」
だから、僕は、少しだけ違うことを言ってみたんだ。けど、真美さんは、特にこれといった感想もなく、鼻から空気を抜き立ち上がった。
「まあ、まだ漠然としたイメージしか湧かないからね。アタシもそうだし。さ、行こっか。ここにいるのに、時間に置いていかれちゃったら意味ないしね」
置いていかれそうなのは僕だった。慌てて真美さんの背中を目で追いかけ、立ち上がる。
蝉の鳴き声と僕の声が重なっていたのか、真美さんは振り返らなかった。今にしてみれば、もう、この時には僕らの英雄譚を綴る筆が乗り始めていたのかもしれない。これまで明確な目的意識もなく英雄になろうとしていた、僕らだけの英雄物語が出来上がる。そんな瞬間だったんだ。
僕が通っていた小学校を横切り、僕と真美さんは剛君の家に到着した。青い色の自転車を確認してからノックを一つ。
後ろで真美さんが不思議そうにしている気がしたけど、僕は扉の奥から聴こえてくる音に耳を澄ます。そして、いつものように剛君の足音がして、ほっ、と一息つく。
開かれた扉の先から剛君が顔を覗かせた剛君は、寝不足なのか強い日差しを吸血鬼のような形相で嫌がっている。
「なんだ……豊かよ……」
消え入りそうな剛君の声に、僕は低く返す。
「今日、おじさんは?」
「いない。朝から仕事に出て、俺は家の掃除をしてろってさ……けど、終わりそうになくて……」
どうして剛君の声に張りがないのか分かった。おじさんの言い付けを守れなかったときのことを思っているんだろう。
確かに、一人でやるには少しだけ広いかもしれない。