消沈した様子で剛君が深い溜め息をつけば、なにかを観念したように扉を全開にする。
剛君の家の中から暑い空気が流れ出してきた。きっと、冷房を使わせてもらっていないんだろう。
「まあ、入れよ。暑いだろうけど、扇風機くらいならある……し……」
剛君の動きが止まったのと、扉が全開の状態で固定されたのは、ほぼ同時だった。
「やっほ、昨日はありがとう。助かったよ」
アニメみたいに逆立っていっているように見えるほど、剛君は両目を見開いていた。緊張とも、興奮ともとれない息遣いを数回繰り返すと、頭の回路が繋がったのか、真美さんから目を離さずに曇った声で言った。
「なぁ、豊……俺ん家に連れて来るなんて何を考えてんだよ……」
剛君が、分かりやすいほど動揺している理由を、僕は察することができなかった。
このときは、多分、初めて女性を連れてきたから気恥ずかしいんだろうな、程度の受け取っていたけれど、そうじゃなかったんだ。さっきの大人の話しに戻して悪いのだけれど、きっと、こんなところが大人との差ってやつなんだろう。僕らは、まだ発展途上だ。
雰囲気が悪くなったことを気にした真美さんは、僕と剛君を交互に一瞥して、あーーっ、と唸る。
「ごめんね?私が連れて行ってってお願いしたんだよ。どうしても昨夜のお礼と話しがしたくてさ」
納得した訳ではないんだろうけど、剛君は唇を尖らせて頷いた。
「そういうことなら仕方ないっすけど……ウチ、こんななんで……」
ここで伝えておきたいことがあるんだ。それは、僕ら三人のアダ名のついて。
ケガレは剛君で、理由は自宅が汚れているから、少し嫌な臭いが染み付いている。
マザコンは光君だ。理由は、母親の過干渉だ。本人は嫌がっているのだけれど、怒鳴られてしまうのを怖がっているので親には逆らえない。
最後に僕、ヨゴレの由来は、中学に入学した直後、クラスメイト達との顔合わせのときに、担任の先生に言い出せず、いろいろと漏らしてしまったからだ。それから、僕ら三人の地獄が始まり、難しくもなんともない安直な始まりは、中学生にとって格好の的となった。
遠慮気味に言った剛君に、真美さんは眉間に皺を寄せる。
「私は気にならないよ?そんな家もあるんだなって感じ。それよりさ、家の掃除をしなきゃ話しもできないなら、手伝ってあげるよ」
「いや……そこまでしてもらうなんて……」
「良いの、昨夜のお返しってことで、ね?」
そう剛君に告げた真美さんは、僕に同意を求めるように目を配る。正直、気は進まないけど、駄菓子屋での出来事を挽回するチャンスかもしれない、と思い頷いた。