汗をかいたグラスは、この暑い部屋に相性ぴったりだ。真美さんにも注いでから、自分の分のコップも満たした剛君は、喉が乾ききっていたのか、一口で呷ぐ。
そんな剛君を眺めていた真美さんは、唇を湿らせる程度にお茶で濡らしてから言った。
「突然で悪いんだけど、二人って今、夏休みの最中だよね?」
「はい、そうですけど……」
お茶を飲み干した直後で、答えられない剛君の代わりに僕が返すと、真美さんは頷いて続ける。
「なら、もう一人もだよね?」
残りは光君しかいないから頷く。
この流れから、真美さんが光君にもお礼が言いたいんだろう。今度は、剛君が十七時を指した時計を見て言った。
「けど、アイツは、この時間は塾に行ってるんすよ。終わるのも遅いみたいなんで今日は会えないかも……」
真美さんが小首を傾げる。
「そうなんだ。けど、ほら、昨日はあんな時間に外にいたから、夜に会えるかなって思ってるんだけど」
「あーー……それは、えっと……」
言い澱んだ剛君が横目で、ちらっ、と視線を送ってくる。きっと、例のお返しが頭を掠めていったんだろう。自分が口にしてしまった分、気まずさが生まれてしまっている。
仕方がなく、僕が剛君の言葉を引き継ぐ。
「昨日のは、本当に偶然なんです。僕らは、この夏休みを利用して、なにか特別なことをしてみようって」
僕は何故だか、誇らしい気分になった。この感情の名前は知らないけれど、心が、ふわっ、とする感覚だ。きっと、駄菓子屋での一件は、これで拭える。
だけど、真美さんの反応は、真逆のものだった。
「え?それでやったことが深夜に出歩くことなの?」
目を丸くして、気の抜けたような表情のままでいる真美さんは、どうにも理解し難い難問に出くわしたみたいだった。その顔付きに、少し、むっ、としたのか、剛君が眉間を狭めた。
「そうっすけど、それだけじゃ駄目ってことっすか?俺らにとっちゃ、初めてのことをするってのが、必要なことだったんすけど?」
真美さんが間髪入れずに返す。
「だって、それくらいのことなら、みんなやってることだと思うよ?小学生の頃に、興味本意で夜中に出ていくぐらいするよ」
「なにが言いたいんすか?」
剛君の口調と目元に険が現れ始める。それは、僕も同じだったかもしれない。だって、僕らは僕らなりに、頑張ったことなんだし、それを幼稚と馬鹿にされたようにしか聞こえなかった。実際、そうなのだと思う。現に、新山くんと僕らは公園で出くわしているんだから。だけど、それでも、僕らの勇気を踏み躙る発言は、聴いていて気持ちが良いものじゃない。けれど、真美さんは、叩みかけてくる。