それっきり、何も話さなくなった光君に、真美さんが嘆息をつくと、僕の方を向いた。
「昨日の大人についての私なりの答えを教えてあげるね。大人っていうのはね、自分を犠牲にしながら、自分に上手な嘘をつける人の事だよ」
突飛な状況は、僕だけにじゃなく、剛君にも影響を与えてしまっていた。意味が分からず、逡巡する僕に、真美さんは頬笑んだ。
「もしかしたら、どれだけ自分を押し殺せるかってとこについては、学校でも同じかもね」
そう言って、また光君に視線を流す。置いてきぼりを喰らった僕に訪れたのは、漠然とした気持ちだった。この感情は、なんだろう?
怒りなのか、悲しみなのか、はたまた、困惑なのか……
多感な中学生にとって、そのときの真美さんの一言は、その後も僕の中に残り続けることになる。確かに、僕、いや、僕だけじゃなく、剛君も光君も、真美さんでさえ、自分を押し殺していたんだ。だって、それは、この世界で一番楽な処世術だからだ。ただ、それは両手の剣にもなる。自分を出せば、イジメってやつは近づいてきて、遠ざけるには、自分を上手いこと騙して心の泉に潜ませるしかない。実に極端なものの一例が「イジメ」ってやつなのかもしれない。ただし、自分を出さないことなんて、無理だけどね。真美さんには、僕らが学校でどんな目に遭っているか教えてはいないけど、なんとなく、光君の取り乱した姿で察していたのかもしれない。
「光君、自分を騙すのは、とっても難しいことだと思う。だけど、怖いってだけじゃ何も変わらないよ?それも、自分を騙す一例でもあるんだからね。怖いと思う自分を騙すこと、それが出来れば一歩だけでも前に進める。それに……」
光君の眼前に立った真美さんは、大きく両腕を広げて、次の瞬間、光君を抱き締めた。明らかな狼狽が窺えるけど、押し付けられた女の子の柔らかさに口元だけが緩んでいる。
「私がご褒美になってあげる。こんなこと、本当なら有り得ないよ?他の人は気付けたとしても、なにもないんだからさ。それとも……」
トドメとばかりに、少しだけ爪先を立たせた真美さんが光君の耳に唇を近づけた。
「私じゃ……不満かな?」
その時点で、光君の股間はズボン越しにでも、はっきりと分かるくらいに、形が浮かび上がっていた。呼吸もどことなく変で、ブンブンと首を横に何度も振っている。多分、緊張のあまり、うまく息が吸えなくなっているんだろう。僕と剛君は、正直、羨ましかったからこそ、真美さんの肩越しに見える光君の顔を潰してやろうか、と考えていたりした。
短編リベンジ……したいのぅ……