うっ、と身を引いた僕は言葉が継げなくなる。真美さんが正しいかどうかなんて分からない、けど、僕には、もう続けるべき言葉が出てこなかったんだ。なにより、二人に対する気恥ずかしさで、この場から逃げ出したくなっていた。言い負かされた、そんな黒い塊が胸を押し潰し、その圧力から解放されたかった。僕は、両手を股の位置まで垂らし、ズボンを力一杯握る。
顔の中心に熱が集まってきて、鼻の奥に流れていく。ツン、とした小さな刺激が涙に変わるまで、それほど時間はかからないだろう。そんな僕に、真美さんは生涯を通して忘れることなどできない一言を放った。
「最初に声を掛けたときから思ってたんだけど、豊君って卑怯者だよね」
反射のように僕が真美さんを見れば、昨日を含めた、ここ数日で一番怖い……いや、冷めた目をしていた。
広くもない僕の部屋で繰り広げられていた剛君と光君の口喧嘩は、すでにピタリと止まっている上に、二人の視線も僕に集まっている。真美さんが追い討ちをかける。
「君って誰かが考えたことを、自分の考えみたいに話す癖があるよね。そして、僕がこの話し合いを解決しているんだって思い込んじゃってる上に、見栄っ張り……それって、すっごく見栄っ張りだよ」
「そ、そんなこと……!」
言い掛けてやめた。
思い返してみれば、今回の発端になった深夜徘徊だって、初めに声を出したのは剛君だった。
そのあとの、光君が言った、僕らには無理なんじゃないか、に対しても、僕は先を促しただけで、話しを進めたのは、実際、剛君だ。じゃあ、僕がやったことってなんだろう。二人は、いつも話し合いをしていた。そのときの僕は何をしてたっけ?そうだ、二人が散々、お互いに言い合ったあとで、やったことがないことをやろうって提案したんだ。
僕は愕然とした。最初の提案も、真美さんと初めて会った夜のときも、そこあとのこと、全部通して、僕は切っ掛けになれていない。いつも、二人が話しをしてからしか動き出さないで傍観して、あらかた、内容が出尽くした辺りから、ゆるりと混ざっていたんだ。真美さんとの決定的な違いは、そこにある。行き当たりばったりの僕とは違って、真美さんは、輪郭は掴めないながらも、先を見据えて言葉を落としていた。僕がやっていたこと、それは、極端に表すと手柄の横取りにしかならない。
それに、昨日、真美さんが駄菓子屋の前で聞いてきた質問に対しての返答も、僕は他の中学生とは違うところを見せてやろうって気持ちが透けてみえる気がする。
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