その理由は、光君を巻き込むことになるかもしれないってことだろう。当の本人は、まだ自分で決めかねているみたいだ。ここで光君を外すのは、簡単なことだけど、光君が戻ってこれる場所を残しておきたくて、僕は頷いた。
ほんの少し残年そうに眉間を狭めた真美さんは、一度嘆息してからベッドに座る。
「分かった。なら、光君も聞いてね」
僕らは、ベッドとテーブルを挟んで床に座る。
そうして、数分、真美さんは僕らを眺めてから口を開いた。
「あのね、ブラック・ガーデンの鬼山って奴は、私の元カレだったの」
いきなり、とんでもないことをぶちこんできた。目を剥くなんてものじゃない、目が飛び出してしまうかと思った。
そうなると、いろんな想像ができるのだけれど、予想だけで判断する訳にもいかず、僕はなにか言い出しそうな二人の太股を、真美さんから見えないようテーブルの下で抑え、先を促す為に、唇だけを動かす。
「続けるね。昔の私は、今の君達と似たような状況で、追い詰められてたの。学校にいかなきゃ家に来られて、家にいなければ、街を探されて、本当に逃げ場のない毎日だったんだよね」
たはは、と明るく笑った。その姿と説明の内容が不自然なほど一致しない。どうして、照れたような仕草をとれるのだろう。僕なら、昔のことだから、と切り捨てられない。
「今にして思えば、よっぽどやることなかったんだろうなぁって思うし、ただの暇潰しのお遊びだったのかもしれない。それが中一の夏やすみあけから中三年まで続いててね。いやぁ、結構、辛かったよ」
神妙な顔で耳を傾けていた剛君が、突然、首を振って改めて向かい合う。
「よく耐えられたっすね……」
真美さんは、屈託のない様子で頷く。
「耐えた訳じゃないよ。誤魔化していただけ。まあ、そのお陰で自分に嘘をつくのは上手になったけどね。そんなときだったなぁ……鬼山と出逢ったのは」
目を細めてベッドに座る真美さんが、僕にはなんだか昔を懐かしんでいるように見えた。これからさき、辛いことをそんなふうに捉えることができるだろうか。テーブルの下で、自然と握り拳を作っている内は、無理だろう。
「当時から、鬼山は近所で有名な不良だったんだよね。いっつも黒崎や小倉にいて、年上の人と遊んでワルさばっかりでさ。その日も、アイツにとっては、日常だったんだろうけど、私にとってはこれまでを変える日になったんだよ」
真美さんが言うには、黒崎まで逃げていたところ、案の定、他の同級生が追い掛けてきて、三角公園で捕まった。そのとき、同じ場所に居合わせた鬼山が、同級生達にイチャモンをつけて事なきを得たとのことだった。