僕は、この日、真美さんが言っていた言葉を、いまでも深く覚えている。それは、頑張ったとか、努力してるなんて自分から言うことじゃないよってことだ。
人と人には、コミュニケーションという優れたやり取りがある。五十音や様々な音には、巧みな交流の糸口が隠れていて、それを掴めるのは、物語や現実を含めて、僕ら人間だけだ。たけど、昔から繰り返された会話というもののなかで、僕ら中学生は、努力という言葉を自己満足で終わらせてしまっていた。他者に口にされて初めて意味をもつというのにだ。それは、コミュニケーションなんかじゃなく、自身の承認欲求の延長、このときを思い返すと、剛君がその傾向にあった。
七月二十七日、昨日、僕と剛君は、真美さんと作戦を考えていた。
両親が仕事に出掛けた朝の八時、その一時間後に来た剛君を迎えての会議は、昼過ぎに一応の決着を迎えることとなる。まあ、いつにもまして、タンクトップの胸元から覗く割れ目と短いパンツ姿の真美さんにいろいろと奪われていた僕らは話しがあまり入ってきていなかったけれど、内容は至ってシンプルだ。
準備するものは、ジャージと大きめな帽子、残りは晒、それらを揃えることが前提条件となる。この提案をした真美さんに、僕と剛君が頭を捻った。
「あの、真美さん……晒ってなんすか?」
剛君の質問に、僕も耳をそばだてる。
「あれ?そっか、知らないか。男の子だもんね。晒っていうのは……」
一拍置いて、真美さんは自分の胸を両手でそれぞれ、ぎゅっ、と押し付ける。深さをました谷間に剛君が生唾を呑む音が聞こえた。
「こうやって、胸を抑え込む下着のことだよ……あのさ?話し聴いてきれてる?」
慌てた様子で、さっ、と顔ごと逸らした剛君に僕は苦笑しながら、真美さんに訊いた。
「それって、男の子の振りをして近付くってことですか?」
「あのさ……剛君の反応も過剰でどうかな、と思うけど、豊君もそれはそれでどうかのかな?私これでも、女優なんだからさ……」
「どうって……?」
問われている意味が分からず、首を傾げていると、剛君が僕の肩を軽く叩く。そこでようやく理解する。
「なんていうか……昨夜にその……一日空けてるから……いろいろと……その……五回ほど……」
僕が濁した部分には、男の子特有の恥ずかしさがある。もちろん、女の子もするのだろうけど、なんていうか、イメージの違いって、こういった系列には付き物なんだろうな。昨夜は、トイレのなかで一人で盛り上がっちゃったし……
なんだろう、夏場だからって理由以外に、一気に暑くなった。