「大丈夫っすよ。俺達だって黒崎には遊びに行ったことありますし、なにか目立ったものがあれば行けますから……例えば、ほら、あの顔だけのライオンみたいな!」
それは僕も見たことがある。どうしてここにあるんだろうなって、毎回、不思議に感じているけれど、何故か、すごく存在感を放っているやつだ。一度でも見たら忘れられないだろう。
「うーーん、それなら言うけど、言葉は選ぶね。えっとね……」
※※※ ※※※
僕と剛君は、蝉の声が響く夏空の下、汗を拭うこともせずに必死になって自転車をこいでいた。
雲ひとつない晴天と同じ色をした自転車のペダルを回している剛君は、長い坂道に入るとサドルからお尻を浮かせる。僕も同じように、重くなったペダルを回す両足に力を込めた。
「なあ、結局、真美さんが言ってた店ってなんだったんだろうな……」
息を切らしながら後ろに着いている僕に言った。正直なところ、喋ると口に汗が入るから、あまり話したくはないけれど、僕も気になっていたことなんだ。
「さあ……けど、ハッスルっていうからには、男の人が関係してるんだろうなとは思うけど……」
真美さんは、ハッスルという単語を口にして僕らに質問の機会を与えてくれなかった。このままじゃ、あまりにもヒントが少なすぎて連言ゲームにすらならない。
国道二百号線添いの大きなパチンコ店を抜け、警察の派出所を越えた辺りから坂道の角度が増す。気温は三十度を優に越えていて、なおかつ、国道を走る車のせいもあるのか、体感温度が高まっているみたいだ。剛君が中腹で足をつく。
「駄目だ……暑いわ……ちょっと休憩ってことで、押して行こうぜ」
僕も自転車を降りてハンドルを持った。押し進めていくと、反対側の歩道に高校の校門がある。なわとなく、ぼんやり眺めていたとき、不意に剛君が言った。
「俺達も、そろそろ高校を決めろなんて言われだすのかな」
「うん、そうだろうね」
よくテレビのニュースとかで時期になると受験戦争なんて言葉が跳ねるように出てくる。僕らもあと一年後には、その渦中に飛び込まなきゃいけないんだ。そう思うと、気持ちが重くなった。
「剛君は、もう決めてる?」
鼻を鳴らした剛君は、首を振った。
「決めてる訳ないだろ。ていうか、そんなこと考えたこともない」
「そんなことって?」
「俺の家のこと考えてみろよ。高校にいけるかどうかも怪しいもんだろ。父子家庭で家は古い長屋、父親は酒を飲み歩いて帰りはいつも夜遅く。財布の中に金が入ってるか分からない。そんな生活を送ってる……高校に行くより働けって言われそうだな……」