苦笑いを僕に向けて続ける。
「まあ、先のことなんて考えてもしょうがないよな。それよりも、俺達には今のほうが大事だ」
剛君は気持ちを切り替えたみたいだけど、僕はなんだか晴れなかった。想像してしまったんだ。もしも、僕ら三人が別々の道に進んでしまったときのことをね。そうしたら、なんだろう、すごく胸が締め付けられた気がした。
だけど、それは、確実に訪れる未来なんだろう。
僕は、可もなく不可もなく、平凡な高校に進学して、塾に通う光君は、僕よりも頭が良い高校へ通う。剛君は、どうなるか分からないけど、決まっていることがある。きっと、僕らは、いまよりも会う回数が減ってしまうということだ。
新しい環境は、新しいなにかが始まるってことなんだ。僕らに降り注いだイジメだって、信じたくはないけど、環境の変化っていうものがあるのかもしれない。大人に近付くって、もしかしたら、凄く寂しいことなのかな。
坂道を登り終えた僕らは、歩道橋を抜けた先に設置されている自販機で一本だけスポーツドリンクを買って二人で分けあった。ここから先は京良城町に入り、あとは楽な下り坂だ。
「じゃあ、行くか」
サドルに股がった剛君が、一息ついてペダルに足を置く。ぐん、と速度を増した自転車は坂道に入ると、また加速する。横目で見えている景色が次々と移り変わっていくなか、僕は、真美さんの言葉を思い出していた。
人も街も、時間が経てば変わっていく。置いていかれるのは辛いけどね。
僕は置いていかれるのだろうか。常に変化する世の中や周囲の人間関係に追い付けるんだろうか。回転数を高めたタイヤに比例してスピードが上がっていく自転車みたいに、急激な変貌を遂げていく様々なことに対して、遅れてはしまわないだろうか。
僕は、そんなイメージを振り払う為に、ハンドルを強く握った。
※※※ ※※※
黒崎には、夏休みということもあってか、いつもより人が行き交っている。駐輪場に自転車を停めた僕らは、黒崎駅の入り口を背中にして、まっすぐと歩き始めた。
白を基調にした階段を下りれば、左手の居酒屋、右手のパチンコ店に挟まれた形で黒崎商店街を突き抜ける入り口のひとつ、カムズ通りがある。僕ら地元の中学生にとって、黒崎の街は身近にある、ほんの少しだけ栄えた街ってだけだけど、僕らが産まれる前は、ゲームセンターや百貨店なんかもあって賑わっていたらしい。今となっては、昼間なのにシャッターが閉まっている上に、よくわからない落書きまでされているところのほうが多いけどね。