目的のお店に到着するまで五分も掛からなかった。
真美さんからは、場所や外見を詳しく聞いていなかったけれど、近くにはないみたいだし、多分、ここだろう。立派な出入り口は引戸になっていて、ガラス張りになっている。外から窺うだけでも、季節の為か、様々な着物や浴衣が見えた。手芸屋ってことは、見本品なのかもしれない。それにしても、入りづらいな……
剛君も同じなのか、落ち着きなく視線を彷徨わせていた。不意に、右手を挙げて人差し指を伸ばす。
「なあ、豊、見てみろよ」
促されるまま、僕は剛君の指先を目で追ってみると、そこにあったのは、瓦の屋根だ。お店と自宅が一緒になっているみたいで、僕らにとっては、駄菓子屋以外で見たことがなかったから、なんとなく柔らかい気持ちになって、妙に肩が解れた。
「昔の写真とか見てると、こんな感じの店って多かったんだろうな」
「へえ、剛君って古い写真なんか見るんだね。なんか、一気に老けたみたいだよ?」
うるせえ、と悪態をついた剛君が引戸に手を掛けると、ベルではなく、カランカラン、と軽い鈴の音がした。店内を循環するエアコンの冷気と合わせて涼しく感じる。雰囲気って大切なんだな、なんて思いながら鈴を眺めていると、奥から声がした。
「あら、若い男の子二人だなんて、珍しいお客様だねぇ……ああ、そういえば、もうそんな時期かねぇ」
しゃがれた声に振り返ると、背中が少しだけ曲がったおばあちゃんがいた。白髪を短く揃えていて、僕の近所にいるおじいちゃんやおばあちゃんよりも、整った身なりをしているし、なにより、細い目と頬っぺたを柔らかくして微笑んでいてくれていることが嬉しかった。
「あ……あの、俺達……」
剛君が口を開くと、おばあちゃんは何度か小さく頷きながら近づいてくる。
「はいはい、分かってるよ。次の山笠で使う法被だろう?用意しているから、ちょっと待っててねぇ」
「いや、あの……違くて、えっと……」
何故かモゴモゴしている剛君に替わって、お店の奥に戻ろうとしているおばあちゃんに言った。
「僕達、お祭りとかじゃなくて、晒がここにあるって聞いてきたんです」
すると、おばあちゃんは照れたように顔を僅かに下げて言った。
「あらあら、それはそれは……ごめんなさいねぇ、早とちりしちゃってねえ……晒なら、ほら、そこにあるから」
おばあちゃんが首を右に向ける。そこまで広さのない店内だから、さっき検索して確認した飾り気のない白い布がすぐに目に入った。僕は、おばあちゃんにお礼を言って棚に向かう。