僕の腰くらいの高さの棚に置かれた三枚の晒の一つを手に取った僕は、そこでようやく、剛君が後ろにいないことに気付いて振り向くと、おばあちゃんが剛君にお菓子を手渡していた。
「剛君、あったよ」
僕が伝えると、剛君は瞳を潤わせていた。そも、本人か気付いていなかったみたいで、慌てたように、目元を袖で拭うと、強引な笑みを作る。
「豊、おばちゃんがお菓子くれるっさ。ちょっと休憩してこうぜ」
僕は、涙の意味を尋ねそこない、ああ、うん、とだけ返した。どうしてか、触れちゃいけない気がしたんだ。
真美さんに預かった五千円で会計を済ませる。レジの裏は畳になっていて、おばあちゃんが座ろうとして顔をしかめれば、すぐさま剛君が、手伝うよと肩を借していた。
「ごめんねぇ、足腰が弱くなってきてるものだから」
老眼鏡をつけて、馴れた手つきでレジを操作し、算盤を使ってお釣の計算をする。お金をレジに入れると、機械が自動で計算する場面しか見たことがない僕らからすれば、指で珠を弾くというのは、新鮮な光景だった。もっとも、色褪せた計算方かもしれないから、新鮮って言葉は間違いなのだろうけど、算盤を専門的に習っている人以外にとって、珍しいことに変わりはない。
僕の視線を感じたのか、おばあちゃんが老眼鏡を鼻の頭らへんにズラして微笑んだ。
「算盤が珍しい?」
「あ、いえ……ごめんなさい」
おばあちゃんは、僕にお釣りを渡しながら言った。
「謝ることないよ、見た目の通り、古い人間だからねぇ」
僕の掌に置かれたのは、千円札が四枚と五百円が一枚だ。あれ、と思った僕は棚に振り向いて値段を見た。七百六十円、値札にはそうある。おばあちゃんが計算を間違えたのか、それともワザとなのか、判断できないでいると、おばあちゃんが笑った。
「祭りで使うんじゃなくて、晒を男の子が買うなら、なんかあるんだろうしねぇ。おまけしてあげる」
「え?本当に良いんすか?」
剛君が申し訳なさそうに眉間を寄せたけど、おばあちゃんは笑顔を崩さずに続けた。
「なら、休憩していく間、おばあちゃんと何かお話ししてくれないかい?若い子が二人も来てくれるのは、久しぶりでねぇ」
おばあちゃんを提案に断る理由もない。それに、今日の目的なら達成できたんだし、時間ならまだ余っている。駐輪場の料金だって二百円から増えないはずだ。
僕と剛君は、お互いに頷きあうと、貰ったお菓子の袋を開けて、ゆっくり口に運びながら腰を落ち着けた。
最近、書く前に寝てしまう……年かな……